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 検証・時の話題

補助金なしではやっていけない米国の農家
次期農業法に向けた情勢

農産物の安値に苦しむ米国の農業者は、政府の補助金なしではやっていけないと、次期農業法に手厚い助成を盛り込むよう求めている。1996年にできた農業法は来年で期限切れとなる。このため農産物の価格変動に対する新しい収入安定化対策(セーフティネット)をどう打ち出すかで次期農業法の内容が注目されている。現行法によるリスクヘッジには継ぎはぎだらけといった感もある。JA全中の資料「国際農業・食料レター」(月刊)を基に、そうした米国の情勢を追ってみた。

固定支払いという補助金で定収入をカバー

米国における主要農産物の政府純支払額(単位:百万ドル)
  1992年度 1999年度 2000年度見込 92→00年度の
増加率
トウモロコシ 2,105 5,402 9,696 +361%
小麦 1,709 3,435 5,417 +217%
715 911 1,729 +142%
綿花 1,443 1,882 4,206 +191%
酪農 232 480 685 +195%
 米国の穀物農家は、政府からもらう直接固定支払いという補助金で低収入をカバーしている。この制度は価格支持の不足払いを廃止した代わりに実施した。
 日本の直接支払制度は中山間地域が対象だが、米国では穀物や綿花を作る農家なら平地でも、もらえる。
 WTO農業協定は、生産量や価格に連動する助成は輸出支援になるとして禁じている。しかし米国政府はこの所得政策について、支払い金額を前もって固定しているから連動はしないとし、協定をパスする「緑の箱」に入る政策だとした。
 また農業法施行後の農産物値下がりに対して99年(98年10月〜)からは緊急追加支払いをした。総額230億ドルという巨額の農家支援である。
 これも固定支払い額に上乗せしただけだから「緑」の政策であるとしている。

短期融資の形で助成も

 固定支払いに加えて、マーケティングローンという助成もある。ローンという名称で短期融資のていさいをとりながら、市場価格が基準価格より低い場合、政府が基準価格で作物を買い上げるという実質的な価格支持政策である。
 農産物を担保に融資を受け、市場価格が低い時は、政府に担保を引き渡す方法など三つがあり、農家はその一つを選ぶ。金融商品の先進国らしい仕組みだ。
 農林中金総合研究所・副主任研究員の大江徹男氏は「米国はこうした価格支持政策を残している点で日本とは違う」と指摘する。
 農業法の見直しを上下両院の農業委員会から委託された「21世紀の農業生産に関する委員会」は1月末の最終報告で、固定支払いとマーケティングローンの継続を提言した。
 同委員会は生産者や食品業界の代表と学識経験者11人の構成だが、委員の1人であるファーマーズユニオン(FU)の会長は、価格支持の大幅引き上げなどを求める少数意見報告を同時に提出した。FUは小規模な家族農家の団体だ。
 一方、大規模経営を中心にした最大の農業団体・米国ファームビューロー(UFB)も1月の年次総会で会長が両制度の継続と通常予算枠の倍増を要求した。
 02年度の農業法予算枠は、固定支払いが40億ドル、マーケティングローンと休耕補償など土壌保全対策関係が50億ドルで計90億ドルだが、これでは不十分だというものだ。
 現実には、ここ3年、緊急追加があって直接支払いだけでも政府は230億ドルを支出している。農家としては、こうした補助金の増額分を何としても守りたいところ。次期農業法によって通常の予算枠に戻るようなことがあれば大変だ。
 だから「どの規模の農家でも現在の高い補助金水準を継続すべきだと求めている」と東洋大学の服部信司教授は説明する。

「第2種兼業」が90%を占める

主要作物の収入構成
(1999穀物年度、単位:百万ドル、%)
小麦
飼料作物
綿花
合計
市場販売収入 
5,756
19,650
1,284
3,673
30,363
58.5
70.0
50.0
55.4
64.2
直接固定支払 
1,447
2,947
466
616
5,476
14.7
10.4
18.1
9.3
11.6
緊急直接支払 
1,444
2,944
465
613
5,466
14.7
10.4
18.1
9.2
11.6
マーケティングローン支払 
953
2,316
354
1,697
5,320
9.7
8.2
13.8
25.6
11.3
土壌保全支払 
235
392
33
660
2.4
1.4
0.5
1.4
総収入 
9,835
28,249
2,569
6,632
47,285
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
 米国でも農家数は減っており、現在約200万戸。とくにブロイラーで、か占化が激しく、次いで養豚業で大規模経営への集中が進んでいる(大江氏)。しかし、その分野では価格支持が行われていない。
 そこで耕種農業をみると補助金なしでは、やっていけない現状だ。農務省の調査によると、稲作農家では収入の半分を固定支払いやマーケットローンなどの補助金に頼っている。
 市場販売収入はわずか50%に過ぎない。また綿花では55.4%、小麦では58.5%、飼料作物では70%で、以上4作物の農家を平均した販売収入比率は64.2%だ。
 それほど農産物価格が低過ぎるということになる。また石油の高騰などがあって生産資材コストも高い。
 米国の農家は大規模な専業が多いというイメージがあるが、現実は日本でいう「第2種兼業」が90%を占めると、米国の専門家は分類する。その中には田舎住まいの手段として、また老後の趣味として農業を営む人も多いという。
 また売上げが日本円換算で約270万円未満の農家は1ドルの収入を得るのに1ドル34セントの費用をかけ、34セントの赤字だという分析もある。
 しかしJA全中WTO対策室のワシントン駐在・一箭拓郎氏は「価格支持や収入安定対策を求めているのは大規模・専業を含め、すべての農家だといっても過言ではない」という。
 固定支払いやマーケットローンは耕作面積ベースの支払いだから、大規模経営が有利だが、しかし「借金を重ねて大規模化した農業者は苦しい。借地による大規模化も地代がばかにならないから、いずれにせよ農産物の低価格は影響は大きい」(服部教授)。
 「クリントン前大統領が追加支払いの対象を中小規模の農家に絞ろうとしたところ、農業団体はこぞって反対した」(同教授)という経過もあった。

米国政府は収入保険を普及する考え

 こうした全米の農家挙げての価格支持や収入安定対策の要求に政府は、どう応えていくのか。「政府としては価格変動に対するリスク管理制度として収入保険を普及したいと考えているようだ」(大江氏)。
 なおUFBの会長は「新たな収入安定制度の創設」を要求し、これは価格低下などの際に自動的に収入を補てんできるような支払い制度だ。年次総会の議論では、これをめぐってWTOルールとの整合性が大きな焦点になり「緑の政策となるように具体案を検討すべきだ」との意見が出た。
 これらを実現するために米国がWTO農業協定の内容に、より柔軟性を求めてくれば、米国と日本が連携する可能性が出てくるかも知れないとJA全中はみている。



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