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特集:2003 JAグループの新たなる挑戦―JA改革を考える

対 談
21世紀を拓く経済と農業のゆくえ
改革の年 現場の実態ふまえて一歩前へ
JAに期待したい情報発信の力


日出英輔 参議院議員・外務大臣政務官

梶井 功  東京農工大学名誉教授

 新年号特別企画として昨年からスタートした「21世紀の政治と農業のゆくえ」。今年は、全国農政協の顧問でもある参議院議員の日出英輔外務大臣政務官に語ってもらった。昨年末にはわが国農業の基幹である水田農業の構造改革をめざした米政策改革大綱が決定したが、大筋が描かれただけで改革への具体策づくりは今年の大きな課題となる。日出氏は大綱決定までの議論を振り返り、現場の実態をふまえた議論が不可欠だと強調する。同時に地域の水田農業の姿をJAが中心になって築くことが重要になると説き、そのための現実の活動を起こしてこそ、多面的な機能など農業の持つ意味が国民に伝わる、と今後のJAに期待を寄せた。梶井功東京農工大学名誉教授と語り合ってもらった。

◆「概観ペーパー」の評価と見直し
  ヤマ場迎えるWTO農業交渉

日出英輔氏
ひので・えいすけ 昭和16年宮城県生まれ。東北大学法学部卒業。昭和39年農水省入省、渡辺美智雄農林水産大臣秘書官、食糧庁企画課長、官房企画室長、大臣官房総務審議官、農蚕園芸局長、農産園芸局長を歴任、平成8年退官、同年農林漁業金融公庫理事、9年退職、10年第18回参議院議員選挙(全国比例区)当選。外務大臣政務官、全国農政協顧問。

 梶井 今年、日本農業にとって大きな問題となるWTO(世界貿易機関)農業交渉ですが、まず年末に示されたハービンソン議長による「概観ペーパー」についての評価と今後の交渉の見通しについてお聞かせいただけますか。

 日出 このペーパーは、我が国の主張も含め各国の主張を要領よく整理してはいますが、アクセス数量の増大の主張が幅広い支持があると評価している点等もあり、我が国はEU等と連携しながら強力に主張していく必要があります。
 今後の見通しですが、2月に東京で行われるミニ閣僚会議の結果にもよりますが、大方の見方では3月末のモダリティ確立はできるだろうという予想ですね。ただ、議論は収斂しているわけではありません。
 ウルグアイ・ラウンドのときは農産物貿易ルールの姿、形を変えるという交渉でしたが、今回はそうではなくて関税などのいわば“程度”を変えるということです。しかし、それについて輸出国側からはすさまじい提案が出ていますから、前回以上に厳しい日本農業への影響、あるいは世界の農業への影響が出るおそれがあるんじゃないでしょうか。そうならないようにしなければいけません。


◆めざすべきは水田農業の改革
  地域から将来像を発信して

梶井 功氏
かじい・いそし 大正15年新潟県生まれ。昭和25年東京大学農学部卒業。39年鹿児島大学農学部助教授、42年同大学教授、46年東京農工大学教授、平成2年定年退官、7年東京農工大学学長。14年東京農工大名誉教授。著書に『梶井功著作集』(筑波書房)など。

 梶井 25%スイスフォーミュラー採用なんかには絶対なってほしくないですね。さて、私がこのところ気になっているのは、WTO農業交渉では農業の多面的機能の重視や食料安全保障を軸に日本提案を出しており、これは国民の総意をふまえたものとして私も大賛成ですが、一方、国内農政はその基本線とくい違っているのではないかということです。米政策改革を議論した昨年末の生産調整研究会の報告書、“改革の基本方向”のなかには、食料安全保障や自給率の問題には、米政策が非常に深く係わっているにもかかわらず、それらについて一言も触れていません。

 日出 そこは悩みの深いところでその感慨はまったく同じです。

 梶井 しかし、農水省が決めた米政策改革大綱では、最初に食料自給率の維持、向上をより強化していくために米政策、水田農業政策の改革を行うという趣旨のことが明確に書いてありますね。私はぜひこの線で政策を展開してもらわなければならないと思っています。

 

 日出 昨年末に決定した大綱は、自民党がその表書きの部分をかなり書いており党が大綱を決めたという性格もあります。
 党では、売れる米づくり、ということが最初に出てくるのはおかしい、自給率はどうなるんだ、という議論がありまして、ご指摘の部分は最後の段階で党の意見が反映された形になっています。研究会の議論とは少し違うと思いますね。
 ただ、基本法を制定するときの議論でも、いろいろなことを盛り込みましたね。多面的機能の重視を掲げる一方、価格形成は市場に委ねるということも書いているわけです。
 今回、研究会の議論はどちらかといえば市場主義的な手法で生産調整の手法を変えようということでした。そういう意味でいえば、多面的機能や自給率向上の問題はどこに行ったのだ、忘れられているではないか、というのは間違いないと思います。ただ、一方でそれを両天秤にかけると政策手段が明確にならなくなることもよく分かります。
 今いちばん大事な視点は、今の稲作農業の姿を肯定するかどうかです。この点については、このままではいけないというのが大方の意見で、では、何がいけないのかといえば、やはり零細規模の生産者の方々の将来性がないということです。
 それへの対応を市場主義的な議論でやっていくのか、多面的機能を重視する立場で今の姿のまま総抱えしてしまうのか、という議論として考えれば、今回は明らかに総抱えではなく現状を変えるという前提で考えようということになったと理解しています。
 それにしても市場主義的な検討から、さらに自給力向上にどのようにつなげていくのか研究会での濃密な議論がのぞまれましたが、議論が足りなかった感じがあります。

 梶井 その点はまさにそのとおりなんですが、水田農業を変えるというときに、今の米生産はどういう層が担っているかということを考えると、1〜2ヘクタールの層がいちばん多く担っているわけです。
 この層に意欲を失わせないかたちで、効率的経営にもっていくということを従来も構造政策として進めてきた。しかし、同時に水田の場合は、集団的なかたちで効率的な対応をしている例があるわけで、その点はもっと重視したほうがいいのではないかと思っています。
 構造政策というのは如何にして効率的な生産体制をつくるかが問題なのですから、なにも個別経営でなければならんということだけではなくて、効率的な生産単位をいかにつくるかが問題です。その作り方は地域によっていろいろあるということでしょう。

 

 日出 私もその通りだと考えています。
 これからは地域ごとに、水田農業が永続できそうな体制、それはある地域では個別経営体中心かもしれませんし、ある地域は集団であったりするのでしょうが、そういうものを苦労して作っていくことだと思うんですよ。
 そこについて今まではJAが手緩かったのではないか、ということはやはり今回、党の農林部会の議論でもかなり指摘されました。さまざまな言い分はあるでしょうが、その部分をJAがしっかりやらないと、農業の多面的機能の重視といっても、現実にその機能が発揮されないことになってしまうわけです。
 その点で、今回はJAも行政も、私たち国会議員もその思いは共有できたと思います。ただ、議論の運び方としては、行政が突然提案してくるなど、迷走しましたから、その点でハンドリングが悪かったとは思います。

 梶井 それは2003年以降の農政では繰り返してほしくないですね。

 日出 行政が改革案を説明するときは、自分たちが思っているものを誇大にならずに等身大で説明しなければなりませんが、どうも最近そうではない風潮が見られますし、最初は一部分だけ提案して、そして、後で突然もっと大きなことを提案するというスタイルは関係者の信頼を欠くと思いますね。

◆問われる行政手法
  抽象的な議論避け実態に即した対応を

 

 梶井 かつての行政は実態をきちんと捉えてその状況を判断したうえで、政策提案をするというスタイルでしたが、このところそれが弱くなったと思います。

 日出 ええ。最近の行政のスタイルにはややもするとそういう部分がありますね。
 農業分野ではなくても、例えば地方分権改革推進会議でも、ある日突然、これまでのナショナル・ミニマムという考え方はやめにしましょう、という。
 では、その会議で本当にナショナル・ミニマムが達成されたかどうか議論したかといえば、まったくしていないんです。事実関係を議論していない。にもかかわらず、義務教育費の国庫負担の削減などとんでもない話にぽーんと飛んでしまう。最近はこういうスタイルが多いんですよ。
 やはり、議論する時に同じ事実認識に立っていかなければならないのにその努力がない。
 とくに農業では、北海道と沖縄では農業の形態が違うわけですから、それを無視してこれからの農業は画一的にこうあるべき、などという議論はできませんよね。
 例えば、売れる米づくり、というのも一体どういう意味なのか。今までも、売れないような米づくりをしてきたわけではなく、売れるような米づくりをしてきたはずなんですよね。生産者に販売努力が足らなかったという議論ならまだいいんですが。

◆生産者の意欲支えるJAに
  地域協同組合としての活動も重要に

 

 梶井 15年度には地域で水田利用について分析・検証して、自分たちはこういう水田農業を実現しようということを各地域で出そうということになっていますが、各地域の特質を踏まえたプランが出てきたら、それをバックアップする政策を経営安定対策も含めて打ち立てるべきですね。

 日出 そのときにJAがどういう指導理念で対応していくかが重要になると思います。以前なら地域でしっかりと話し合うことは可能だったと思いますが、今は合併して、組合員が1万人もいるようなJAになってしまうと、JAとの密着度が薄くなって組合員のなかにJAって何だ、という話も出てくる世の中ですよね。
 さらに、私はこれからJAにとって大事なのは地域住民と一緒になった地域起こし、地域活性化という視野をもっと持たなくてはいけないと思っているんです。今までは基本的に組合員との関係だけだったわけですが、これからは地域振興あるいは地域管理に責任を感じる組織体にならなければなりません。

 梶井 実態として地域協同組合化しているわけですからね。どう地域活動を組み立てていくかが問われてくると思います。

 

 日出 JAが理念として、たとえば農業には多面的な機能があるということを議論しますね。しかし、抽象的なことではなくて、わが地域でどういう活動をし、どういう情報を発信するかが大事であって、そういう活動を整理すると、多面的機能が発揮されている、となるわけですね。
 やはり今、問われているのは現実の活動です。特に、さまざまな産業のなかで命を支える産業というものはめったにないわけですから、それだけの重さを感じるのであれば、いわば義務としても実際行っている活動の実態を地域から全国に発信するようにすれば、農業という産業が持っている意味が国民一般に伝わると思います。

 梶井 たとえば、最近はファーマーズ・マーケットが元気で、車社会にうまく対応して生産者と消費者が直接触れ合う場面を広げている。実際に売れるものだから、高齢の農家でもいい品物をどんどん作るようになっているようですね。JAの発信は、やはり確かな安心できる農産物を通じて、が中心になる。

 日出 自分の力が確認できているわけですね。そういうチャンスをJAが作り出すことが大事だと思うんです。
 とくに食品の安全性に消費者の関心は高まっていますが、ただ、現在の状況は消費者は表示を見て、危ないものはないかと考えて選んでいるような雰囲気があります。それで食べないものが多くなって栄養のバランスを崩したら、一体、何をしているのか分らないですよね。こういうことに対して産地からもっと骨太の情報を出せないのか。
 食の安全という課題もJAが変わるきっかけだと思います。せっかく大きなJAになったのだから、何をしたらいいのか、十分検討し、できるものから実現していく。われわれもお手伝いしたいと考えています。
 梶井 私も期待しています。今日はどうもありがとうございました。

インタビューを終えて

 “事実関係を議論していない。にもかかわらず・・・・・とんでもない話にぽーんと飛んでしまう”昨今の行政スタイルは問題だ、と議員は指摘される。同感である。農水省在任時代、農政企画立案に深く関与されていた議員だけに、昨今の行政の米政策改革論議の進めかたには、意に満たないことも多かったであろう。
 改革のための食糧法改正、そして具体策づくりは今年の課題であり、主舞台は国会に移る。全国農政協顧問でもある議員の活動への農業関係者の期待は大きい。“事実関係”を踏まえた論議で、“自給率向上施策への重点化・集中化”になる米政策改革にしてほしいと思う。
 今年の重要課題として、WTO問題がある。3月には農業モダリティ確立という難関が早くもやってくる。政・官・民を一体とするその要の役を外務政務官としては求められよう。エールを送りたい。(梶井)



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