農業協同組合新聞 JACOM
   

コラム 昔々その 昔

正義と忠義の季節です
挿絵:種田英幸
文  :種田庸宥 日本福祉大学客員教授



 

うさぎとかめ

一、もしもし、かめよ、かめさんよ
  せかいのうちに、おまえほど、
  あゆみの のろい ものはない
  どうして、そんなに のろいのか

二、なんと、おっしゃる、うさぎさん
  そんなら、おまえと かけくらべ
  むこうの 小山の ふもとまで、
  どちらが、さきに、かけつくか

(石原和三郎 1901年)

うさぎとかめのかえうた

一、もしもし地主わる地主
  世界のうちでお前ほど
  よくの深いものはない
  どうして そんなによくふかか

二、いくらお前がいばっても
  貧乏百姓がなかったら
  地主はみんなのたれ死に
  そうしきするにも金がない

三、いまに見ておれわる地主
  おれらが天下をとったなら
  お前を村からおっぱらい
  おきの島へ島ながし

(島根県小供新聞 1934年)


 

忠臣蔵=討ち入り前夜
「天野屋利兵衛は男でござる」

 えー、元禄も一五年となり、吉良邸討ち入りのときも近づきましたある日、大石内蔵助は、義侠の商人天野屋利兵衛の家をたずね、武器調達の密談を重ねまして、その夜はそのまま、利兵衛の家に泊まります。
 えー、ところでこの利兵衛の家に、ちょいと、この…渋っ皮のむけた女中が一人おりましてナ、なにしろ利兵衛は、その志を知らぬ女房の父親のために夫婦仲をさかれまして、ここしばらくはヤモメ暮らしでございます。
 「あァ、毎晩毎晩、自分の膝っ小僧ォ抱いて寝るのは、かなわんなァ。よし、今夜ァひとつ、あの女中をコマしたろかい」
 てンで、女中が手水場(ちょうずば)に立ちましたあいだに、こっそり女中部屋に忍び込み、ふとんにもぐりこんで女中の帰りを待っております。
 思いは同じ大石内蔵助、妻子を早く但馬の豊岡に送り帰し、ここンとこ忙しくて祇園にも通えず、モヤモヤしてるところへ、昼間、あの女中を見ましたから、もう我慢ができません。
 これまた、女中部屋へ忍び込むと、くらやみの中で、ふとんにもぐり、やにわに股の間に手を突っ込んだ…。
 ウワァと相手がはね起きたかと思うと、
「天野屋利兵衛は、男でござる!」

(艶笑小咄傑作選 小島貞二編 1987年立風書房)

 

正義を裏返したら?

 「うさぎとかめ」は誰もが唄った唱歌ですね。力の強い人に弱い人はまじめにきちんと行動することで対抗することができるという、弱い人への応援歌でしょう。
 でも、ここで替え歌をつくった、戦前のこどもたちは、強い者に悪をよみとって、自分たちが力をつけて、悪=地主を追い出すと宣言したのです。
 この子どもの詩を読んで驚いた戦前の文部省は、この詩を部内資料に残しました。
 「天野屋利兵衛は、男でござる!」
 これは“忠臣蔵”の中での有名なセリフの一つです。江戸幕府にタテついた赤穂の浪人たちを支援した少数派の思いを述べたセリフです。
 ところが、ここでは、間違って内蔵助に、男の急所をにぎられた悲鳴のセリフとして、笑わせてくれます。
 これは、江戸の町人たちの忠臣、忠義への疑問が、彼らをからかうセリフになったともいえましょう。モノの考え方にも、表と裏があることが、ここからもみえますね。

(2004.12.21)

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