農業協同組合新聞 JACOM
   

コラム 今村奈良臣の「地域農業活性化塾」

ホタルと名酒と人工衛星

 ホタルが乱舞する景観が、そろそろ新潟県越路町内のあちこちで見られるような季節になった。言うまでもないことであるが、ホタルはきれいな水と汚れのない環境がなければ育たない。
 また、越路町には「久保田」の千寿、万寿という名酒がある。その筋には知らぬ人はいないと言われている朝日酒造の名酒である。名酒もいい水と良質の酒米がなければ生み出すことはできない。水はさておき、すぐれた酒米づくりから消費者の切望する米づくりに至るまで、越路町に本所のあるJA越後さんとうでは、人工衛星を活用している。
 ホタルと名酒と人工衛星との3つは、一見つながりがないように思うかもしれないが、内実は堅く結びついているのである。
 米づくりについては、人工衛星を利用したリモートセンシングによって米のたんぱく含有量を測定し、さらに刈り取り時期を適期調整することが可能になり、高品質・良食味米生産を可能にしている。そして、ランク別に分別収集して、カントリー・エレベーターのサイロ毎に乾燥・調整・出荷をする体制に結びつけている。
 また、品種別、土壌別、特別栽培米別に栽培指針を作成し、前述のリモートセンシングや食味分析計等の情報分析機器を組み合わせ、土づくりと連動させ、肥料・農薬を徹底してコントロールした売れる米づくりを、これまで目指して活動してきた。要するに、いま推進中の米政策改革、売れる米づくり運動をすでに5〜6年前から推進してきたのである。
 
◆農地のマッピングシステムが基本

 JA越後さんとうでは、基本方針の1つである環境保全型農業の確立に向けて、農地に関するすべての情報を一元的に集約したマッピングシステムを地域農業戦略の中核においている。これをもとに、土づくり、米づくり、担い手づくりを徹底してすすめることによって、地域の活性化をはかっている。平成7年の国の補助事業により、農地台帳と農家台帳のすべての情報を農地一筆ごとに地図に落とし、地域全体の農地の利用調整を着々と進めてきた。
 土づくりについては土壌診断をもとに地域農畜産廃棄物の循環利用や減化学肥料、減農薬を徹底し、その上での米づくりは、前述のように人工衛星の活用など多面的近代技術を駆使している。耕地図情報にもとづく団地的、集団的利用の路線が確立されてきて、新技術の広範な活用が可能となったわけである。
 さらに重要なことは、集落の耕地図を前にして、集落座談会が活発に進められてきた。兼業深化の中で、さらに高齢化が進む中で、地域の農業を担うのは誰か、ということを集落レベルの討議の中から明らかにしつつ、認定農業者として推せんするとか、集落営農の法人化を通して、地域農業全体の全面的改革路線を明らかにするとか、それぞれの地域で特徴ある方向づけがこれまで自らの手で推進されてきている。もちろん、農地の団地的集積による規模拡大、低コスト生産の具体的方向、あるいは遊休農地の解消など、農地保有の合理化事業との結びつきがはかられている。
 私は、かねてより地域農業改革の具体的推進方策として次の8項目の実践課題を提示してきた。(1)誰が、 (2)どの農地で、(3)何を、(4)どれだけ、(5)どういう技術体系で、(6)いつ作り、(7)いかに加工も加えて、(8)どのように消費者、実需者に売るか。この中で、もっとも基本となる課題は、誰が、どの農地で、何をという3点であるが、それを具体的に進めるには、耕地図を前に討議を深める必要があると説いてきたのである。JA越後さんとうでは、この課題に農地のマッピングをもとに正面から取り組んできた。それが、ホタルを育て、名酒を生み、人工衛星を活用した売れる米づくりの基盤にあるということを強調したいのである。

(2004.6.17)


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