農業協同組合新聞 JACOM
   

コラム 今村奈良臣の「地域農業活性化塾」

水田農業改革のトップランナー(その2)
―夜須地域水田農業振興協議会―
「販売起点」のビジョンの実践

 いま1つの大賞であるJA全中会長賞を受賞した夜須地域水田農業振興協議会のすぐれた計画の視点とその実践の姿を紹介する。
 協議会の副会長でありJA筑前あさくらの理事でもある時札一正さんは、「米づくりの起点は販売にある」と力説する。米だけではなく、麦も大豆も「販売起点」の発想がビジョンの大前提となっている。
 ビジョンの実践方策を述べる前に夜須地域の概況を紹介しておこう。筑前町夜須地域は福岡市近郊、筑紫平野の中心にあり「朝倉三連水車」で著名である。農家戸数は776戸、農業就業人口1148人。農用地面積1443ha、1戸当たり約2ha、近年都市化が進んできているが、かつての穀倉地帯の面影はなお多く残っている。
 そこで協議会の計画、実践の特徴を述べよう。第1の特徴は、この地域はもともと水稲作とともに、麦、大豆の主産地であったが、昭和末から平成初期にかけてカントリーエレベーター群の計画的設置を契機として、機械利用組合の組織化、ブロックローテーションの徹底的実施など、集団化、組織化の下地が確立していた。こうした歴史的蓄積が、水田農業ビジョンの策定、実践にあたり大きな成果をもたらしていることをまず強調しておきたい。合併前旧農協の支所単位に8ブロックにエリアを分け、そのブロック単位に組織化、集団化を進めてきたことが現在につながっている。つまり、転作ブロック組織、機械利用組織、共乾施設運営組織の3者の緊密な連携と協議のもとに生産、調製過程の効率性をいかんなく発揮しているのである。

◆販売起点を原則にプランづくり

 第2の特徴は、上述のような活動はすべて33集落を基盤においたものであり、担い手たる認定農業者についても集落推せんのもとに、現在181経営体が確定され公開され周知されている。もちろん、きたるべき経営所得安定対策の実施に対処すべく、地区ごとに従来からの作業分担や機械保有状況などをベースに、役割分担と調整が集落を超えた連携、個別経営体と集落営農との調整などを含め精力的に行われている。JAで担い手アドバイザーをつとめる行武美徳さんは「小規模個別完結経営で水田農業を続けるのは難しいと生産者自身に危機感があった。大規模農家と集落営農とが一体となった活動が基礎になり、個別大規模経営と集落営農組織との共存が可能になった」と述べている。
 第3の特徴は「売れる米づくり」への対応にあたり「販売起点」の取組みに全力をあげていることである。まず、カントリーエレベーターのすべてに自力で色彩選別機と金属探知機を導入し、安全・品質管理を徹底していること、第2に米づくりから商品づくりへと発想を全面的に転換し、有機質肥料の投入など栽培方法の転換と良食味米の確保に全力をあげていること、第3に個別生産者ごとに品質データをとり食味マップを作成するなど生産者にフィードバックして栽培技術の改良など品質向上への取組みを促進していること、第4にそのうえでサイロごとのオーダーメイド契約というかたちで販売に結びつけるなど、実需者との協議のなかから売れる米づくりに全力をあげている。このように、米に注ぐ努力は当然のことながら麦や大豆にも注がれており、特にビール麦の産地の伝統を絶やさない努力が積み重ねられている。

◆非農家の積極的参加も特徴

 第4の特徴は、麦、大豆以外に野菜類、果樹(梨)等の生産も伸びており、直売所(「とまと」)や学校給食などを供給先とする取組みも積極的に行われている。直売所は地産地消を原則に週4日の開店であるにもかかわらず、1億5000万円を超える売上げを実現し、地元産大豆によるザル豆腐など目玉商品も注目される。しかし、生産・出荷者の高齢化のなかで、需要は旺盛だが弱体傾向にあり、米、麦、大豆の整然としたブロックローテーションの次の地域農業変革の方向性を示すものとして野菜作の拡大と安定供給体制の確立が望まれている。
 第5に特筆すべき点は、農村集落において都市化、混住化の波が押し寄せているが、この地域では水路、特に排水路の清掃などに非農家住民の積極的参加が得られていることである。地域資源の保全や環境保全への主体的取組みの今後の課題を先取りしている姿が実現していることを高く評価したいと思った。
 以上、要点のみを紹介したが、このような夜須地域の取組みの経験を全国の水田地域の農村地帯に広げたいと痛感した。

挿絵: 種田英幸

 

 
(2006.9.6)


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