農業協同組合新聞 JACOM
   

コラム 今村奈良臣の「地域農業活性化塾」

草資源大国を生かそう

 乳牛はすぐれた7つの機能を備えている。
 第1、口は一生研ぐ必要のない自動草刈機。
 第2、長い首は食物を運ぶ自動式ベルトコンベアー。
 第3、4つの巨大な胃は人間の食べることのできない草を貯め栄養素に変える食物倉庫。
 第4、内蔵は栄養に富む牛乳を製造する精密化学工場。
 第5、尻は貴重な有機質肥料の製造工場。
 第6、脚は30度以上もある急傾斜地を登り降りできる超高性能ブルドーザー。
 第7、ほぼ1年1産で子孫を殖やす。
 現代のわが国の酪農は、これら7つのすぐれた乳牛のもつ機能をすべて生かしているだろうか。否である。この40年間、わが国の酪農はたしかに目覚ましい発展をみせ、今では欧州連合(EU)をもしのぐ一戸当たり飼養規模になったが、圧倒的多数は集約的な舎飼い方式である。膨大な輸入飼料穀物により供給される配合飼料に依存し、乾牧草やワラも輸入に頼っているのが実情である。
 はじめにあげた7つのすぐれた機能のうち生かしているのは、極言すれば、第4の牛乳製造工場と第7の子孫を殖やす機能のみだ。第5の有機質肥料製造工場はその処理に困り果てており、また、あの長い首や高性能を誇る脚もその機能を発揮する場も与えられていない。
 しかし、極めて少数ではあるが乳牛のもつ7つのすぐれた機能のすべてを生かしている草地酪農、山地(やまち)酪農に取り組んでいる先達はいる。これまで私が訪ね親しく調査させていただいた方々には、高知・南国市の斉藤陽一さん、島根・木次町の佐藤忠吉さん、北海道・旭川市の斉藤晶さん、十勝・清水町の岩田實さん、村上勇治さん、出田義国さんなどがいる。いずれも共通して低投入持続型農業をめざし、乳牛にストレスはなく、乳量は少々低くても安全・高品質の牛乳を生産し、環境汚染のない多面的機能の実現をめざしており、何よりも牧場の景観がすばらしい。急傾斜地でも岩のゴロゴロした機械の入らない場所でも、乳牛はそのすぐれた7つの機能を発揮してゆったり草を食べている。
 さて、酪農が難しいならば、和牛の「舌刈り」を広めたらどうであろうか。人の手による「下刈り」ではない。体重500キロの牛は毎日体重の1割、50キロの青草を食べる。セイタカアワダチソウでもカヤでもササでも、およそ何でも食うと言われている。もちろん、ノシバや牧草があればそれにこしたことはない。
 いまや、耕作放棄地34万ヘクタール、不作付地27万ヘクタールにも達しており、さらに増える傾向にある。そこで、特に中山間地域の耕作放棄地に和牛を放牧し、牛の舌刈りで美しい農用地にもどそうと各地で私はすすめている。耕作放棄地に隣接する里山まで広げることが望ましい。放棄された棚田に放牧すれば景観作りにもふさわしいし、イノシシやシカなど野生動物の出没を阻止でき、被害を食い止めることができるとの経験も報告されている。山口県の美祢市や油谷町、島根県の太田市、あるいは大分県竹田市九重野地区で着実に進んでいるのを調査した。特に太田市に1年前に設立されたNPO法人・緑と水の連絡会議(理事長・高橋泰子)の活動には目を見張るものがある。かつては草原であった三瓶山が荒れ果てていたのを、地域の畜産農民やボランティアを組織しつつ美しい放牧草原に回復させるなどの活動の実績の上に、NPO法人を設立し地域環境の創造に向けた非常に多面的な活動を展開している。
 さて、冬場のエサはホール・クロップ・サイレージを推進しよう。牛がいなければレンタ・カウ(Rent A Cow)でいこう。放牧になれたリーダー牛の育成を畜産試験場にたのもう。いまでは、ポータブル式の太陽光発電機や簡便な電牧が開発されている。重点助成の道も考えよう。世界に冠たる草資源大国日本を生かし、多面的機能の発揮を推進しよう。 (2004.7.23)



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