農業協同組合新聞 JACOM
   

コラム 今村奈良臣の「地域農業活性化塾」

大競争時代の直売所の発展の途
―今こそ直売所の真価が問われる―

 農産物直売所のこれからのあり方を問う、内容豊かでかつ示唆に富む2つの会合が相次いで開催された。1つは11月9〜10日に千葉県八千代市公会堂で開催された第1回全国農産物直売サミット(東会場)であり、いま1つは11月11〜12日に開催されたJA―IT研究会第14回公開研究会である。この2つの研究会はいずれも重要であると思われるので2回にわたって連載し、農産物直売所のこれからの取り組むべき課題の核心を紹介することにしよう。
 全国農産物直売サミットは「あつまれ!直売活動の実践者。ともにめざそう!直売活動の発展」という呼びかけのもとに、わが国で初めて全国規模で開催された大会である(但し今回は東日本を対象、西日本は来年2月に熊本で開催予定)。主催したのは「まちむら交流きこう」((財)都市農山漁村交流活性化機構)で、ここではかねてより農産物直売所に関する調査・研究も精力的にすすめ、その成果も公刊(例えば『農産物直売所発展のてびき』農文協刊・発売)してきた実力派である。
 さて、八千代市公会堂の大ホールは300人を超える参加者で熱気にあふれていたが、それ以上に私を驚かせたのは、事前に寄せられた参加者の質問事項・討議希望事項が実に58という多数にのぼっていたということである。これまでの私の経験の中ではこれだけ事前に質問事項が寄せられたことはなかった。(1)出荷生産者の意欲の高め方をどうするか、(2)品質の管理向上や品薄期対策をどうするか、(3)直売所の魅力づくり、集客方法、適正規模をどうするか、(4)消費者ニーズの把握方法は、(5)直売所の競合を回避しネットワーク化を進められないか、(6)食育活動や消費者の農業理解の促進をどうするか、など実に広範な分野にわたる質問であった。
 このような事前の質問事項なども踏まえて農村開発リサーチの田中満代表は、要点、次のような基調報告を行った。
 (1)平成14年度末の推計では直売所は全国で2800店、売上額2500億円、1店当たり平均年間売上額8900万円、平成15、16年度の推定では対前年比で店数約1割増、売上額約2割増と予測。(2)品目別売上割合は、野菜38.9%、果物11.6%、農産物加工品11.0%、花・花木9.6%、米5.6%、地域特産品3.1%など。
 以上の現状紹介のうえで、今後の展望として次の5点を指摘した。(1)農産物直売活動は今後ますます伸び平成20年には総売上額は6000億円規模と予測するが、スーパーやAコープ等のインショップ等との競争がますます激しくなることが予測される。伸び率が落ちている県も出始めた。(2)農産物直売所間の競争、競合が始まり、岩手、群馬、佐賀、熊本などでは競合が激しい。野菜の品揃えの悪い店、鮮度の悪い店、地元産の少ない店、仕入品の多い店は淘汰される。(3)葉もの果菜類、農産加工品、米の売上げは伸びるだろう。米も個人名明記、地域伝統手づくり加工品も伸びる。(4)直売所は地元産の一級農産物やなつかしい地域食品を売る専門店イメージとなり消費者もその役割に気づいてきている。(5)安売り競争をするな、仕入品が多くなってはダメだ、直売所は地域食文化の発信、販売、伝承の拠点とするべきだ。
 以上の展望を踏まえて、直売所の課題として次のような基本課題を提起された。(1)全力をあげて地元産の品揃えに努力と工夫を。地元の新鮮野菜や地域食文化に根ざす農産加工品などがなくなれば客は消える。仕入品(地域外のもの)が多いと客は消える。(2)地域の旬にこだわり客(消費者)への啓発活動(アピール)が重要。(3)出荷農家・生産者の直売意欲、意識、品質レベルの向上に全力を。生産者は月に一度は店(レジ)に立ち客と対話を。(4)店としての社会的責任の認識を。意識が内向きの「仲良しクラブ」では競争時代に生き残れない。
 以上のような田中満代表の基調報告を踏まえ、パネルディスカッションを行った。パネラーは、山形県鶴岡市「産直あぐり」の上野百合子さん、群馬県前橋市「産直ゆうあい館」女屋利夫さん、富山県南砺市「旬菜市場ふくの里」の荒川睦子さん、愛知県美浜町「ジョイフルファーム鵜の池」の天木英五さん、千葉県柏市「かしわで」の染谷茂さんの5人の方々でコーディネーターは田中満さんであった。パネラー5人の方々のすすめている直売所は、いずれも個性と特色を持ちすぐれた活動をしてきているが、紙数の制約でその紹介や質疑、討論の内容については残念ながら省略せざるをえない。しかし、パネルディスカッションで出された直売所をめぐる論点や今後の課題は、さきに紹介した田中満さんが基調報告で指摘された課題や論点に、ほとんど言いつくされているように思われた。
 サミット参加者は9日夜の懇親会、そして翌10日の千葉県下の3つのすぐれた直売所の現地視察で充分参加目的を達して帰ったと思う。最後に特筆すべきことはサミット参加者は旅費、参加費は自弁で、つまり自腹を切って参加し知識と情報を得たと言うことの重要性を強調しておきたい。これまでの会議では見られなかった真剣さがこういうところにもあったということを痛感した。

 
(2005.12.1)


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