農業協同組合新聞 JACOM
   

コラム 今村奈良臣の「地域農業活性化塾」

JAは自らの地域の将来像を自らの力で描こう
―産・学・官の英知を結集し新たな路線を―

 かねてより私は、食料・農業・農村政策についての私の基本スタンスの一項目として次のことを掲げてきた。
 「『人多地少』の時代から『人少地多』の時代に決定的に変化してきたことを認識して、地域農業の新路線を方向づける」
 これは、時間軸という基本視点に立って、戦後の農地改革から現在に至るまでの60余年の農業・農村の長期変動の過程を冷静に捉え、分析した結論に基づいて提起したものである。農地改革直後の農家戸数は619万戸で過剰人口の中で農地の不足が嘆かれた時代であった。しかし、還暦を過ぎた現在では「少子高齢化」に象徴されるように、農家戸数は農地改革時からみれば半分以下に激減し、農業就業人口も激減するとともに高齢化し、耕作放棄地が激増する状況にある。
 他方、いま1つの基本視点である空間軸の視点から捉えてみると、JAは急速に合併を進め、農業協同組合法公布後の1949年には実に1万3300組合という多数があったものが、今では実に812JAとなっている。1JAが数カ市町村にわたるものから1県1JAというものまである。
 このような現状を前提として、いずれのJAも、自らのJA管内の農業・農村の変貌とその実態を正確に捉え、地域の将来像を見通し、それに基づいた活動の路線を打ち出さなければならないと思う。

◆2005年農業センサスの要点

 そこで、最近公表された2005年農業センサスを2000年センサスとの比較による全国動向の分析結果の要点のみを示しておこう。
 (1)総農家数は8.7%減少し、284.5万戸へ、販売農家は16.0%減少して126.3万戸へと200万戸の大台を割った。また、土地持ち非農家世帯数は120.1万世帯へ、9.5%の増加となった。
 (2)他方、自給的農家は88.5万戸、12.9%の増加となり自給的農家の滞留減少が一段と強まっている。
 (3)農家就業人口(農業従事者のうち主として農業に従事)は13.8%の減少、基幹的農業従事者(農業就業人口のうち仕事が主)は6.6%減少して224.1万人へと一貫して減少している。
 (4)総農家の経営耕地減少率は7.1%と近年さらに減少率は高まってきている。
 (5)農家以外の農業事業体は1万6102で52.6%の増加、そのうち販売目的の事業体数は1万3742で82.2%の増加となっており、多様な型の農業生産法人等の増加を反映したものであろう。
 以上、2005年農業センサスの結果を、それも全国動向を垣間見たにすぎないのであるが、こうしたセンサスに示された農業構造の変貌が、それぞれのJA管内でいかに進行しているか、また、そうした変貌の中からJA管内の将来像をいかに描くか、JAの英知を結集して取り組んでもらいたいと熱望する。そうした分析と将来像なくしては、海図やコンパスを持たない大海に漂う船になってしまうであろう。

◆産・学・官との多様な連携で将来像を

 しかし、JAのみでそういう作業はでき難い。多様な連携と英知の結集が今こそ必要だ。
 各都道府県には必ず国立大学がある。農学部や経済学部など多彩な学部や研究所などもある。さらに公立や私立の大学もある。そういう大学と連携して知恵と支援をもらい協力関係を作り上げるためのJAの積極的な活動が必要である。また、各都道府県には、農業、農政担当部局や普及指導機関もある。さらに国の農政事務所には統計分析の専門家もいるはずである。JA管内の市町村にもすぐれた人材もいる。そういう機関や組織の人材の支援と協力をいただきながら、JA独自の主体性を持った、地に足のついた地域の将来像、将来ビジョンを作り上げようではないか。
 もちろん、農業センサスなどの分析にとどまらず、それを手がかりにして、農畜産物の生産構造や流通構造、あるいは食料消費の構造変化などについての研究や学習活動を行ってもらいたい。もちろん、さらに一歩進めてJA管内の他の産業部門の構造変化や雇用構造の変化や将来予測、あるいは、消費者の消費・生活行動の変化などにも取り組んでもらいたい。そのためには、学・官にととどまらず管内の他の産業分野の関係者にも参加してもらい、研究、学習活動を進めるべきであろう。

◆新しい時代の地域活性化塾を

 いま、JAに求められていることは、JAを中心に変貌激しい農業・農村の将来像を描くために、JAを中心に産・学・官の連携による研究・学習活動を通じた地域独自の将来ビジョンの策定である。
 このような活動は、私がこれまで進めてきた農民塾運動、村づくり塾運動のJA版であり、拡大版であると言ってもよい。恐らく、こういう活動を通して地域活性化の核ができるし、JAの活力も甦るのではなかろうか。
 しかし、そのためには必ず基金が要る。JAの剰余金の一部を、例えば「地域活性化基金」、「JA活性化基金」というような形でファンドを作り、産・学・官連携のための効果的な活動に活かすべきではなかろうか。遅ればせながらも、いまこそJAの内発的発展力を発揮すべき時がきているように思う。是非とも一考を、特に各JAの指導者に望みたい。

イラスト:種田英幸
イラスト:種田英幸
 
(2007.9.21)


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