農業協同組合新聞 JACOM
   

コラム 落ち穂

「百姓のまなざし」

 朝日新聞の夕刊「ニッポン 人・脈・記」に、7月「百姓のまなざし」と題して連載された。その第1回にアイガモ農法で有名な古野孝雄さんが載っていた。今でこそ、近所でもアイガモ農法を実践している農家がみられるなど、全国に広まっているが、はじめは、野犬にひなが襲われたり、人知れず苦労したことが紹介されている。
 古野さんは、世界経済フォーラムの総会、「ダボス会議」に、マイクロソフト会長ビル・ゲイツら約2千人の出席者が居並ぶなかに、世界に貢献した「社会企業家」のひとりとして数年前から招待されているというから、紛れもない国際人。でも名刺の肩書きは「百姓」とあり、「農業だけでなく、林業も畜産もやる。百の仕事ができるのが百姓なんです」と誇らしげで、この落差が妙。
 また、このシリーズには農民作家の山下惣一さんも登場。「人生いろいろ、農家もいろいろ。みんなが農業の担い手だ。農政改革の方向は間違っているのでは」と、「担い手」新法にクギを指す。随分前、本紙の座談会でお会いしたとき、山下さんは日本の小さな農業が生き残っていくには、「地産地消」しかないと語っていたが、今でもその信念には変わりがないようだ。
 しかし、一歩退いてこの国の農業をみたとき、お二人のように実際に農業を営む「百姓のまなざし」と、農政の舵をきる「政府のまなざし」にズレがあるように思えてならない。今、原油高でにわかにバイオエタノールが注目され、「スーパーマーケットとガソリンスタンド」が穀物をめぐって争奪戦との記事をよく目にする。これはトウモロコシなどの飼料穀物の大半をアメリカに頼るわが国に、その輸入がストップしたら、松坂牛や国産牛どころか、危険なアメリカ産牛肉を食べるしかなくなるかもしれない事態なのだ。
 これには、以前にも書いたが、政府はこの国の農業を「国産国消」(自国で生産できるものは自国で生産消費する)、すなわちこの国の肥沃な大地、少なくともわが国が世界に誇る水田農業を目一杯活用する視線、「政府のまなざし」が今求められているのではないだろうか。バイオエタノールにせよ、沖縄のサトウキビなどケチなことを言わず(沖縄の人ごめんなさい)、コメで考える。飼料穀物もコメを使う。「国産国消」の方向に急いで舵をきらないと、日本農業は10年ももたない、国民も飢える・・・と思うのです。(だだっ児)

(2006.8.10)

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