農業協同組合新聞 JACOM
   

コラム 落ち穂

「おくにはどこですか」

 世の中に、まだ、こんな真っ当な識者がいるだけ日本という国は幸せなのかもしれない、日本農業も簡単には潰れないかもしれない。10月初めに載った、日本農業新聞の「日本の針路」に登場した識者3氏の提言を読んで思った。
 どれも珠玉の提言。そのエキスをならべると、「数学者は本質しか興味がない。美しい田園は本質。日本が大損しても、日本人の給料が半分になっても、農家を保護して、この美しい田園を保たなければ…」(数学者・藤原正彦氏)、「日本単体の食料自給という視点から、アジア広域の食料自給の安定化に向けて、大きく踏み出すべき時。こうした努力が実績となっていなければ、WTO交渉などでの日本の発言も説得力は持たない」(評論家・寺島実郎氏)、「農業は人間に必須の食料を作るばかりでなく、環境、国土保全など、目に見えない役割を果たしている。経済効率の尺度だけでなく…」(経済評論家・森永卓郎氏)。
 この3人の識者のなかでも、寺島氏はテレビ・新聞でよくみかけ、その見識・慧眼に感心していたが、農業観も確か。「21世紀に求められている日本の農業とは、課題に向き合う闘う農業」。その一つは日本の農業基盤を生かしたバイオエタノール事業。次に世界の人口増に活かす日本の農業技術の発揮、それには農業を志ざす若い青年の交流やアジアの農業青年を集める“第2の札幌農学校”的な発想も必要。そして、先の「アジア広域の食料自給の安定化」に向けて踏み出す時だと、ずばり。
 そして、団塊世代への目配りも忘れない。今、「定年帰農」とか、都市と農村の「2地域居住」とか盛んにいわれているが「退職後のサラリーマンがいきなり参入できるほど農業は甘くない。だが、農業生産法人が受け皿になれば、経理や広報、マーケティングなどサラリーマン経験が生きてくる」と。
 それじゃ一つ「くに」に帰ろう! ちょっとまて、団塊世代が「くに」に帰ったところで、相変わらず「くに」は年寄りばかりになる。団塊ジュニア・若者が「くに」に帰らなくちゃ。でも彼らには「くに」「故郷」がないよ。彼らが農業に魅力を感じて彼らの新たな「くに」をつくること。それには、3氏の提言を21世紀の日本農業の針路として、日本を「美しい国」にするしかない。安倍政権のもと、寺島氏を農水相、藤原氏を文部科学相、森永氏を財務相に据えれば、「美しい国」は間違いないのになあ…ところで「おくにはどこですか」を死語にしたのは、一体だれ?(だだっ児)

(2006.11.2)

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