INDEXにもどる トップページにもどる 農業協同組合新聞 社団法人農協協会 農協・関連企業名鑑

池田孝氏
 21世紀のアグリビジネス

21世紀のアグリビジネスを考える
農業を核とした新産業づくりを

 三井東圧肥料株式会社
 池田孝専務

(いけだ たかし) 昭和16年9月生まれ。昭和40年早稲田大学政治経済学部卒。同年4月東洋圧工業(株)(現三井化学(株))入社千葉工業所勤務。52年同社肥料農薬本部肥料営業部営業課課長代理。56年出向・三井東圧肥料(株)業務部課長。平成3年取締役札幌支店長。5年取締役業務部長。7年常務取締役。9年専務取締役。

  インタビュアー:坂田正通(農政ジャーナリストの会会員)
 



肥料は、農業生産に欠かせない生産資材だが、21世紀に向けて環境調和型資材の開発など新たな課題もある。そのためにも「農業生産を核にした新産業づくり」の視点が必要だと池田孝専務は強調する。勤務経験のある北海道の農業への思いとあわせて、アグリビジネス全体の将来方向を提言してもらった。


昭和62年から6年間、札幌に勤務されていますね。まず、北海道農業について会社の歴史と重ねながらお話いただけますか。

 池田 当社の前身である東洋圧北海道工場は、昭和15年に硫安を年25万トン生産する計画で着工しているんですが、資材や労働力不足で翌16年にやっと7万5000トンの工場を完成させてスタートしました。
 この硫安の生産が軌道に乗るのは、終戦後の食料増産政策からです。昭和20年の北海道は冷害で農産物が全滅に近い状態だったそうですし、しかも当時の輸送事情では都府県からの移送も困難で、米穀類の供給は109日間も途絶えたと聞いています。

 ですから、食料危機打開のために肥料増産も不可欠だったわけです。昭和23年には当社は、硫安に加えて肥料用尿素の量産設備を完成させています。これは世界最初の尿素量産工場として注目を浴びました。その後、26年にはわが国で最初の尿素系化成肥料「ホスユリアン」の製造設備も完成しました。
 当初、尿素は北海道に優先的に出荷するということでしたが、その後、福島や群馬の桑向け、青森、静岡などの果樹向けに出荷されるようにもなりました。ただ、新肥料の普及には、農家や農協などとの考え方の違いもあって、最大の消費対象の水田稲作に広く普及するのは昭和20年代後半になってからでした。

池田孝氏■ 現在の北海道農業をどうみておられますか。

 池田 北海道は119万ヘクタールという日本一の耕地面積で、専業農家主体に土地利用型農業を展開していますね。北海道の農業は、EUなみになったともいわれます。
 たしかに60歳以上の農家戸数は全国平均では64.8%なのに、北海道は42%と若い農業者が多いし、農業所得は全国平均の120万円に対し、北海道は334万円です。

 しかしながら、経営耕地10アール当たりの純生産額は全国平均では9万3600円ですが、北海道は3万2400円に過ぎません。このあたりをどうするかが課題だと思いますね。


北海道農業 物流改革、環境対策が課題

■ では、今後発展させるためには何が必要でしょう。

 池田 私なりに問題点を整理しますと、まず北海道の農産物は50%以上は道外に出荷しており、非常に大量輸送していることを時代に合わせてどう改善するかだと思います。流通システムを効率化して輸送費の低減を図ることが大命題ではないでしょうか。
 やはり輸送費の高騰は農家の手取りを圧迫するわけですから、効率的な流通システムや保管システム、あるいは低温輸送などの整備も必要だと思います。

 とくに今の流通ではロットが多すぎて、たとえば、スーパーなどの小口需要への対応ができていないと思います。この点については、今後付加価値を高めた農産物の小ロット多品種の生産、流通も必要ではないかと感じています。
 それから北海道ではクリーン農業の確立を10数年前からうたっていて、環境に優しい調和型農業をめざしてはいますが、その実現のために何を行うかです。いわゆる有機質肥料と無農薬での栽培をめざすのでは、労働生産性も上がらないし、耕地面積あたりの収益もマイナスになっていきますからね。

 ですから、そういうなかではやはり生物農薬の開発ですね。小動物や微生物、植物からの抽出物質などを使った農薬の研究開発と経済性のある事業を将来に向かって組み立てていく必要があると思います。
 同時に包装資材の産業廃棄物対応の見直しも必要だと思いますね。これについてはわれわれの業界も取り組んでおりまして、当社ではコーンスターチを使ったフィルムを開発しております。これは最終的に土に戻ってしまうというもので、まだ生産量が多くないので普及に至っておりませんが今後の環境問題対策として有効だと思います。

■ 輸送コストの問題でいえば米国から日本に運んでくるより、北海道から東京へ輸送のほうが高いこともありますからね。

 池田 「北海道食大使」など北海道の農や食を道外にPRしていますが、要するに北海道が相手にすべきは、米国やオーストラリア、中国だと思うんですね。
 その点からするとケインジァングループといわれる国からも技術情報を得たり、あるいは農業保護政策をとっているヨーロッパの研究機関とのタイアップによって、そういった国の農業がどう生きているのかを知って、北海道農業王国がどう生きるべきかについて広く対応策を考えるべきではないかとも思います。やはり米国やオーストラリア、中国との競争に勝てる農業になってほしいと思いますね。


池田孝氏JAも柔軟にアグリビジネス構築を

■ アグリビジネスという点からは、今後をどう考えればいいいでしょう?

 池田 アグリビジネス産業を分析すると、農業資材産業といういわゆる川上産業は約6兆円、川中産業である農業生産は13兆円、そして食品産業や飲食店などの川下産業が約81兆円で合計すると100兆円になります。全産業のなかで11.4%を占めるんですね。
 しかし、このうちわれわれのような農業資材産業のシェアは、20年前の9%から6%に減少していますし、農業生産のシェアも20%から13%になっています。ですから、アグリビジネスのうち、川上と川中の部分はもう熟成期であって見通しが暗いんじゃないかと言う人もいます。

 一方、農協運動は「共同購入」、「一元販売」、「営農指導」が3本柱だったと思います。肥料の流通についていえば、50年前でも系統のシェアは80%を占めていましたし、今日では肥料90%、農薬70%、飼料35%ですね。日本の農協組織は世界でも最強の組織といわれ、アグリビジネスの産業組織にも大きな影響力を及ぼしています。

池田孝氏 ただ、規制緩和が進んでいくなかで今後は農業とアグリビジネス産業グループとのシステム連携による新たなビジネス形成を進めていく必要があると思うんですね。
 そこで注目すべきだと思うのが、農業を核とした新産業づくり、“農業クラスター”の展開です。
 農業を中心に置き、その周囲に外食産業や観光だけでなく、教育産業、医療福祉、住宅産業、情報産業などの産業群を形成する。JAでも広域合併が進むなかで、それぞれ独自性を発揮しようとしていると思いますが、たとえば、ある農協の組合長さんは水産物まで視野に入れた事業展開を考えていると話していて、なるほどなと思いました。

 これまでの事業だけにあまりこだわらないで広く多角的に考えることが必要じゃないでしょうか。
 当社も需要の低迷や国際競争力の低下という厳しい情勢変化のなかで、事業の抜本的な見直しが迫られ、最近では“農業資源資材産業”の展開を考えています。具体的にはコーティング肥料など環境調和型資材の開発などに努力しますが、一方でそうした資材だけではなく、ハイブリッドライスの開発など農業資源の開発も手がけており、こうした事業を通じて国内外の食料・農業問題の課題解決に邁進したいと思っています。

■ どうもありがとうございました



インタビューを終えて

 池田専務は根が真面目な人だから、インタビューを申し込んだら資料を沢山整えて、さあどこからでもといった感じで待っていた。インタビューがはじまると資料を見ながらのセミナーか講演会のようになった。それでいて話が堅くならないのは中身が濃いのか人柄のせいか。

 池田さん、東京は池袋の生まれで、粋な心情の持ち主でもある。札幌時代に小唄をお師匠さんについて5年間習ったという。小唄をやればカラオケがうまくなると奨めた人がいてその言葉を信じた。縁あった人との交流関係を最後まで大事にするからプライベートの各種会合の幹事役や名誉会長役を引き受けて面倒見がいい。時間とお金に余裕のあった昔の三井グループ経営者を多くみてきたからだろうか。しかし、池田さんの入社時、新人研修も受けた、当時では世界最新鋭だった名門、東洋圧千葉工場を今年リストラにより、閉鎖しなければならないのは時の流れとはいえ、なんともつらいことだと視線を落とす。(坂田)


農業協同組合新聞(社団法人農協協会)
webmaster@jacom.or.jp