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木村重夫氏  
 21世紀のアグリビジネス

事業開発室設けて新分野にチャレンジ

  全国農協直販株式会社
   代表取締役社長 木村重夫氏

 
    (きむら しげお) 昭和14年1月11日秋田県生まれ。北海道大学農学部卒。37年全農入会、平成4年酪農部長、7年8月全国農協直販(株)社長。
    インタビュアー:坂田正通(農政ジャーナリストの会会員)

 農協牛乳は安売り商品ではない。ところが雪印商品を撤去したあとの棚に、同じ値段で農協牛乳を並べた量販店もある。その店独自の価格政策なのだが、混乱の中の「安売りは不見識」と叱られたのは全農直販だったというエピソードも生まれた。牛乳関係者にとって暑さひとしおの夏だ。その中で木村社長は「ポスト農協牛乳」の戦略づくりや関西工場建設にともなう関西地方の販売対策などに取り組む。秋口には生乳不足も懸念されるなど緊急対策も含め、課題は山積みだが、社長の話はあくまでも前向きの姿勢に徹していた。

 ●雪印問題の影響はいかがですか。
 木村 「牛乳の需要が停滞している中で、当社の第1四半期の売上げは前年同期比で3〜4%ダウン程度で推移していましたが、7月からは雪印の販売中止や猛暑の影響で伸びに転じました。しかし急激な需要の伸びには無理な対応も余儀なくされますから収益的には非常に問題が多いのです。
 当初は余乳の発生が心配されましたが、むしろ生乳不足が懸念されます。学校給食が始まる9月対策を急ぐ必要があります」  

木村重夫氏 ●今の見通しですと余乳は出ないとみますか。
 木村 「読み切れませんね。雪印問題で牛乳離れが進むとみられた一方、この暑さが消費を支えている中で供給問題が出てきました。雪印のシェアは市乳で20%弱でしたが、それが他メーカーに振り分けられました。しかし各メーカーとも急激な数量増には応じ切れない状況が生じました。そこで各メーカーは製造アイテムの絞り込みを行いました。大半の社が乳飲料や加工乳などの生産をストップして牛乳中心の供給にしました。メーカー団体の牛乳協会も、そういう方向で指導しています。

 当社もカルシウムなどの乳飲料を一時休止しまして、各量販店さんへの供給を赤パック(農協牛乳)を中心の体制にきりかえています。
 乳飲料はバターや脱脂粉乳で作れますが、牛乳中心となれば原乳使用が物凄く増えます。従って予想以上に原乳のタイト感が出てきているわけです。
 もう一つ、生産を再開した雪印さんの原乳調達を見越し、代替生産をしていた社は、今後毎月の原乳需要計画にある程度の思惑を入れているということもあり、従来とは違った様相での原乳不足感があります」

 ●加工乳は牛乳よりもうかるのと違いますか。
 木村 「それは非常に難しいところです。牛乳は卵などと一緒に物価の優等生となり量販店などの目玉商品として2本300円なんて値段も多数見られます。私たちの見込んだ価格水準をかなり下回っています。競合が激化し過ぎているんじゃないかと思います。
 また乳業メーカーは装置産業だから需要減退が続く中でも一定の稼働率を保つ必要があるため、かなりの乱売合戦も出てきて従来とは違う競争の世界に入ってきたようです」

 ●何か付加価値をつけないといけませんね。
 木村 「ところが牛乳は付加価値がつけにくいのですよ。勝負は鮮度や味だといっても、コクのある濃いのが本当に受けるかどうか。ジュースなんかは果汁配合を少なめにしたほうが、さっぱり感とか、のど越しがよいとして『100%』ものより受けています。価格の問題もあるけれど。
 その点、味付けのできる乳飲料のほうが広がりのある展開ができます。2、30年前と比べると随分変わってきましたね」

”自然はおいしい”でブランド確立

木村重夫氏◆業界の流れを作った農協牛乳

 ●「自然はおいしい」という直販さんの農協牛乳が出た時は凄かった。
 木村 「ええ、営業マンの話では「1本や2本では売れません」って売り手市場で、まるで配給制だった(笑い)」

 ●その後の流れをつくりましたもんね。
 木村 「今は各社とも商品的には差がなくなってきました。そこで例えば「農協わが家のおいしい牛乳」というこだわり商品を出しています。これは飼料と飼養・衛生管理などをマニュアル化した生産システムによる牛乳です。今後ノン遺伝子組み換えの飼料を使って差別化をさらに徹底することを全農と検討中です。全農がノン遺伝子組み換えの原料を輸入していますから。
 それから大きな課題にポスト農協牛乳があり、全農とも相談しています」

 ●ブランドを変えるつもりはありませんか。例えば「JA牛乳」にするとか。
 木村 「自然とか安心・安全のイメージで成功しましたが、その後、変化してきた若い人の受け止め方などについて市場調査をし、ブランドを含め今後の方向を検討しています」

◆関西工場の稼働で販売対策強化

 ●雪印は20%のシェアですが、農協牛乳は何%くらいですか。
 木村 「全体で4%ほどですが、首都圏は8%くらいです。新しく関西工場を建設中ですから、今度は関西での販売対策を強化します」

 ●いつごろ完成ですか。
 木村 「来年春です。場所は京都府船井郡八木町で、雪印さんの新しい工場もある水質の良い所です」

 ●周辺農家から生乳を買い入れるのですか。
 木村 「いえ、それだけでは間に合いませんから兵庫や滋賀からも入れます。規模は千葉県富里町にある総合基幹工場の3分の2ほどですね。飲料関係で合計約9万5000トンを生産します」

 ●事業の多角化の進め方はいかがですか。
 木村 「4月に事業開発室を発足させて、新規の事業やチャネルなどを宅配なども含めて検討させています。高齢化社会に対応する宅配事業については、現在岩手のメーカーでビン牛乳をつくってもらい、実験的に一部エリアで関連会社にやらせています。富里工場にはビンラインがないためです。しかし関西工場には設備を設置しますから、今後が期待できます。宅配をする町の販売店は減少が止まっており、Aコープでもやり始めたところがありますし、宅配需要は上向きになるとみています。  一方、全農の直販グループ各社が連携して牛乳以外のいろんな各社商品をセットで宅配するという構想も話し合っています」

木村重夫氏◆事業の連絡調整で多品目販売

 ●協同会社が提携してやるのですか。
 木村 「そうです。役員たちで5社会や4社会を定期的に開き、全農の大消費地販売推進部にも入っていただき、自主的に事業の連絡調整をしているんですよ。すでに全農食品の冷凍食品の一部を当社が取り扱っていますから、もっと他の品目にも広げる必要があります」

 ●バターは在庫があふれていますから別としてチーズ製造はどうですか。
 木村 「ワインとの関連でチーズは伸びていますが、当社で作るのはなかなか難しいと思います。すでに蔵王のチーズなどを少し取り扱っていますから、関連の協力工場などをベースにして取り扱いからのスタートを検討したいと思っています。ヨープレートで提携しているフランスのソジマ社は立派なチーズを作っているから、輸入チーズの取り扱いも検討材料ですね」
 「それからプリンやゼリー、アイスクリームなどへも事業を広げていかなければと考えています」

 ●では貴重なお話をありがとうございました。

今期は売上高 2%増を計画 (関連記事)
 全農直販鰍フ99年度決算は売上高が610億8500万円で前年比3.5%減となったが、経常利益は1億1262万円で57.3%増の減収増益となった。増益は経営改革と、積極的な新商品開発、そして営業活動の強化によるとした。
 部門別では、「非天然果汁群」が大幅に伸びて果汁部門の売上高は10.3%増となった。さらりとした低果汁シリーズなどは好調だったが、100%果汁はブドウ類を除いて前年並みにとどまった。

 牛乳と乳飲料は合計で7%減となり、消費減退の大勢を受けて引き続き前年を下回った。
 発酵乳・デザート群は数量が8%増えたが、価格低落で金額は1%増にとどまり、乳品部門全体で6%減となった。
 食品部門は、青果物の取り扱いを全農に移管したため28%減。しかし無菌包装米飯やギフト商品は大幅に伸びた。
 2000年度は売上高で2%増を計画している。従業員は19人減の456人となっている。


インタビューを終えて

 木村社長は全農の酪農部長から、全農直販鰍ノ移って5年になる。
 学校給食が始まる8月下旬から9月初旬にかけて通常年でも生乳が不足するのに、この度の雪印乳業鰍フ事故。全農は生乳需給調整に大変だろうなあと元の職場に思いを馳せる。
 自然はおいしい、成分無調整の「農協牛乳」の果たした先駆者的役割を誇りにするも、将来のため、社内に研究開発部を新設して牛乳の個別配達も視野に入れた生産から流通までを検討するという。

 今夏猛暑の影響もあって全農直販鰍フ飲料の7月の伸びは30%アップ。木村さんは秋田県大曲出身、同窓会は四谷にある秋田料理の店「魁(さきがけ)」に集まることが多いとか。
 木村さんの趣味は読書、特に探偵小説を読み出すと夢中になると謙虚に語る。将来の夢は、家族ゴルフ。夫人はゴルフ倶楽部のレディース・トーナメントの常連で腕前は木村さんより上、一緒に回ってくれるか心配もある。娘婿なら同じぐらいのスコアのはずという。公私とも幸せの絶頂期に映る。 (坂田)


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