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この人と語る21世紀のアグリビジネス


努力してつくりあげてきた輸入に負けない構造
全農鶏卵(株)
代表取締役社長 渡辺武夫
 
 
 全農グループの鶏卵事業が全農鶏卵鰍中心に量販店などに直販を始めたときの中央鶏卵センター鶏卵課長だった氏が、今年、全農鶏卵(株)の社長に就任した。最近の鶏卵業界の事情、輸入農畜産物が急増するなか輸入物を抑えて国産の売場を確保しているのはなぜか、鶏卵業界で全農グループがなぜ大きな発言力をもっているのかなどを聞いた。
インタビュアー:坂田 正通 (農政ジャーナリストの会会員)
渡辺武夫 氏

渡辺武夫 氏
わたなべ・たけお 昭和19年生まれ。昭和43年全農入会、平成10年パールライス部部長、12年鞄結档pールライスへ出向(専務取締役)、13年全農退職、同年全農鶏卵に入社、参与を経て現在に至る。


140社1900店舗と取引

 −−スーパーなどに行くと「しんたまご」がたくさん置いてあったりしますが、最近の鶏卵の売れ行きはどうですか。

 渡辺 卵の売れ行きも他と同様あまりよくありません。「しんたまご」の伸びも一服状況です。我が社の販売の主力はまだまだレギュラー卵です。

 −−高いと売れない…。

 渡辺 レギュラー卵の売れ行きが落ちていますからそうはいえませんね。取引先店舗数もそれなりに増やしていますし、たまご全体の消費が伸び悩みですね。

 −−取引先店舗数は何店舗くらいですか?

 渡辺 本社と関西支店を合わせて約140社、スーパーの店舗数で1900店舗ほどになります。スーパーの卵売場には何種類もの卵が置いてありますが、その一部としてわが社が入るのではなくて、1店舗の卵売場を1社が全部任され、他社の商材もそこが仕入れて品揃えし、棚割りも含めて仕切るわけです。だから全農鶏卵に任された店の主力商品は、わが社の卵になるわけです。最近は、センター配送もありますけれど、その店の6〜7割はいまいったようなスタイルです。
 −−1900店舗というのは全農グループでは一番多い…?
 渡辺 そうですね、全農グループにはいろいろな商品がありますが、卵は量販店の店舗に占める密度が高いですね。

特徴卵、少量パックが売れる時代に

渡辺武夫 氏 −−そうすると、販売の傾向もよく分かりますね。

 渡辺 最近は特売の回数を減らしていますね。消費者は選択して購買しますから、特売の日に安い卵だけが売れます。そのときは売上げが伸びますが、通常日の販売が減少しますから、特売の意味が薄くなってきているわけです。スーパーによっては、無理して特売で売って家庭に押し込んでも売れる量が飛躍的に伸びないならば、安いレギュラー卵はあまり置かずに、特徴卵とかPB卵など少し高いものを置いて、卵でも利益を上げた方がいという傾向がでています。
 そういう意味では「しんたまご」とか「QCたまご」など「わけあり」商品や赤玉などの特徴商品が確実に伸びていますね。スーパーによっては、そういう商品が半分近くまで占めている店もあります。

 −−消費者の本当の気持ちは「いいものを安く」だと思いますが、消費が伸びない原因はどこにあると思いますか?

 渡辺 高齢化社会ですし、一番食べる世代の人口が減っていること、それと家庭で調理をしなくなったことがありますね。
 売る側からみれば10個パックで売りたいのですが、6個とか4個などの少量パックが着実に売れています。単身世帯とか家族構成人数が減っていますから、消費者からすれば、必要に応じて鮮度の良いものを購入したいという意向の反映でしょうね。

鮮度へのこだわりが競争力に

 −−卵は「物価の優等生」といわれ価格は上がっていませから、輸入品との競争はないといえますね。

 渡辺 輸入との競争はありますが、それをさせない構造を卵業界が努力をしてつくってきています。卵の生産費の多くは飼料価格ですが、その原料はほとんど輸入品ですから、そこでコスト競争をすれば負けます。そのため、規模拡大や生産、物流など全体のコストを下げる努力をしてきています。

 −−大規模化はかなり進んでいる…。

 渡辺 5万羽以上の飼養農家は全国で700戸くらい、1万羽以上で2400〜2500戸ですが、この人たちだけで日本の鶏卵生産量の94〜95%を占めています。
 もう一つは、日本は生で食べますから卵の鮮度にこだわってきたことがあります。いま一部スーパーで売られる卵はDAY 0(デイ・ゼロ)といって、採卵場で午前中に生まれた卵をその日の夕方に店頭に並べています。クールシステムだと多少時間がかかっても大丈夫ですが、そうでなければ少なくとも産卵日の翌日には店頭に並ぶというように、鮮度に徹底的にこだわっています。

 −−そうすると、輸入はほとんどないといえる…。

 渡辺 殻付卵では輸入物はなかなか日本に入れません。ただ、凍結卵はアメリカを中心に5万t程度あります。日本の生産量が250万t程度ですから2%くらいですね。飼料や雛は輸入ですが、卵という生産物としては輸入はごく僅かですね。

消費者に安全性を提供することで

渡辺武夫 氏 −−農畜産物の輸入では中国が脅威だと思いますが、卵の場合には心配ないですか。

 渡辺 中国が日本をターゲットにしていれば、日本の生産者にとっては脅威でしょうね。生産コストの低減も課題ですが、問題は「安心・安全」でしょうね。サルモネラ対策を含めた衛生対策がどうできるかですね。日本では、サルモネラ(SE)の衛生対策や品質管理を生産から流通まで徹底してやってきています。普通、卵は冷蔵庫に入れておけば1ヶ月は大丈夫ですが、いまは賞味期間を表示しているもSE対策の一つです。しかもこれは行政からの指導もありますが、生産者含めて全農や業界は真剣に取り組んできました。これをすることで生産者には負担がかかりますが、「消費者に安全を提供」する。そのことで消費者が「少々高くても国産を買おう」という気持ちになってもらえる努力を生産現場からしてきたわけです。
 問題は外食産業でしょうね。味にこだわらずに安さだけを追求すれば、中国で加工したり焼いて冷凍して持ってこられると怖いですね。その可能性は見ておかないといけないと思いますね。「しんたまご」は食べて美味しいということで、コンビニなどの総菜の原料として使われていますが、価格だけの競争になると難しいですね。

鶏卵の需給調整機能と高い生産技術力をもつ全農グループ

 −−卵の業界では全農が大きな発言力をもっているようですが、なぜ全農が強いんですか。

 渡辺 いまスーパーは安全性もあって農場を指定してきています。スーパーと農場が直結していると、日々の販売の変動や対応に生産者は困ってしまいますが、全農鶏卵が間に入っていれば調整できるわけです。それが全農の機能なんですね。つまり、卵では需要の季節変動や日々の販売の変化、生産の変動が絶えずあるなかで、コストをかけずに調整ができるという需給調整機能が全農グループにはあるからです。

 −−卵の直販事業が始まったのは、全農の中央鶏卵センターで鶏卵課長をされていたときでしたね。

 渡辺 量販店や生協が大きなウエイトを占めてくる中で販路政策をどうするかということで始めました。全農と会社の機能分担も明確にしました。本格的に直販するということで問屋からは大反対を受けましたが、大手量販店は決済サイト等資金需要が必要であり、対応が難しいため棲み分けをし、納得してもらいました。そして販売は「お客様第一主義」を基本にしました。

 −−需給調整機能があることが強みだというこですが、生産技術はどうですか。

 渡辺 飼料を含めた生産技術は優れていて水準は高いです。飼料畜産中央研究所(飼中研)、家畜衛生研究所(家衛研)という研究機関をもっているのは全農だけです。「しんたまご」や「QCたまご」の採卵鶏の飼料は植物性タンパク質だけですが、こうした飼料の開発。SE対策や家畜クリニックによる衛生対策や家畜の健康管理ができるのもこうした研究機関があるからできることだといえます。


インタビューを終えて
 渡辺社長は「卵」のスペシャリスト。長い間全農で鶏卵畑を歩いたが、商売上手を見込まれコメの販売を6年間。全農本所パールライス部長の後、今年6月全農鶏卵(株)の社長に就任された。「卵」への復帰である。商売がうまいだけなら、全農の職員の中には他に沢山います。大切なのは後始末、即ち代金回収ですという。最近の不況情勢から大型スーパーでも倒産の危機にさらされている。もし、卵で100万円の代金回収不能になれば、利幅が少なく経費がかさむので、10億円の売上増を図らないとバランスが取れません。それだから、注意深く販売促進するよう社員に呼びかけていますという。
 渡辺さんは義母の介護も兼ね東京都心に住む。愛妻家で知られる。長男は就職、次男もじきじき巣立つ予定。健康管理で週2回水泳に通う。ゴルフは付き合い程度。常に明るい雰囲気をだだよわせ、分け隔てない接し方は社内の評判も良い。(坂田)



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