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この人と語る21世紀のアグリビジネス

ノウハウを共有し、改善を積み重ね
「競争力」を生み出す 系統の肥料物流を支える

藤野 瀛
 全農バース株式会社社長

 情報の共有化を力に問題解決をはかり、新しい価値を生み出していくというナレッジ・マネジメントを語った。小さな改善の積み重ねが改革につながるのではないかともいう。また、農業生産が縮小する時に、食糧自給率の向上を熱っぽく説いた。名前は「瀛」(えい)。日本と違って、何度か行った中国では、名刺を出すと、みんなが「YIN」といった発音で読んでくれたとのこと。中国ではよく使われる字らしい。幕末の水戸学者藤田東湖の漢詩には、大河が悠々と流れる形容に使っていると語る。「昭和20年生まれ、21年に兄に背負われて引き揚げてきた」と話がはずんだ。


 聞き手:坂田正通(農政ジャーナリストの会会員)
藤野 瀛氏
 

 ―最初に、全農バース(株)はどんな仕事をしている会社か、概要をご紹介下さい。

藤野 瀛氏
ふじの えい 昭和20年2月生まれ。43年千葉大学園芸学部卒、45年東京教育大学農業工学(修士課程)卒。全購連入会、平成9年JA全農施設資材部部長、14年6月全農バース(株)社長。

 「JA全農が輸入する肥料原料やアラジンを荷揚げし保管するのが、主な仕事。専用の岸壁や倉庫を持つ装置産業であり、役務を提供するサービス業です。昭和50・60年代は、倉庫・プラントを配置して、80万トンを超える肥料原料を扱ってきました。平成に入って、営業所を開設するとともにアラジンや肥料以外の品目に取り扱いを拡大してきました。その時々の先輩が、タイムリーに適切な道を切り拓いてこられたと受け止めています」

 ―全農の肥料・農薬部の物流機能を補完する設備を持つわけですね。社長は就任約3カ月ですが、早々のお仕事は?

 「4月の倉庫業法改正に照らし合わせて、改めて社内の順法体制をチェックし、職務権限規定の見直しなどを終えました」

 ―コンプライアンスの徹底ですね。
 ところで、品質管理システムと環境マネジメントの国際規格「ISO14001」の認証を1昨年、取得されましたが、その後いかがですか。

 「ISOは作業の正しい手順を決め、きちんと仕事をしていこうという三つ目のコンプラの柱ですが、各支店営業所とも、よく話し合って仕事を進めています。トラブル対策を含め、安心できる状況と自負しています」
 「倉庫業界では他社に先駆けて取得したISOですが、約100人の社員には、“顧客満足”を目指して、“人に喜ばれる仕事をしよう”、“人を喜ばせるのが好きな人になろう”といっています」

 ―業況はどうですか。

 「荷動きが悪いし、数量も減っており、よくないですね。4―8月の取扱高でみると前年同期比で8、9%くらい減っているかと思います」

 ―世間並みですか。

 「どの港もどの商品も、良くないようです。そんな中では、肥料は良い方にはいると思いますが、少しずつ減ってきています」

 ―品目別の動向は?

 「当初は肥料原料オンリーでしたが、今は、全農のヨルダン肥料『アラジン』や、高級洋紙のつや出し材のカオリンとか、地域を新潟に限定して農薬も取り扱っています」

 ―業態も変わってきていると聞きましたが。

 「何と言っても、申し上げた肥料の荷揚げ・保管が主業ですけれども、アラジンの包装、JAグループの受渡しなどに手を広げてきています。今、物流管理士の配置にも取り組んでいるところです」

 ―各社それぞれに生き残り戦略を展開していますが、特徴点や共通点をどうみていますか。

藤野 瀛氏

 「今の経済環境では、“サービスを落とさず良いものを安く安く”提供するのが一番でしょう。業種を問わずに言えば、自社でモノを製造しないで、良いモノをコーディネートする企業が結構、勝ち組みに入っている場面も見ます。いずれも“消費者のニーズを安く”実現している例です」

 ―消費者やユーザーも変わってきていますね。

 「発注者側の変化は、マンションの建設で、入居者確保が求められたり、食品プラントでは、販売に手を貸すことが条件で商談が成立する例は増えている。ユーザーのリスク回避ですね。消費者は、予冷した野菜・糖度が表示されている果物に手を伸ばす。品質そして価格を求めています」

 ―リストラについての考え方はいかがですか。

 「そうですねぇ。社長就任の前にトヨタの張前社長の話を聞く機会がありました。それによると、米国人はリストラや改革が好きだが、改善には関心が薄いとのことです。しかしトヨタでは小さな改善を積み上げてコストを下げ、収益性を高め、米国の同社工場でも『カイゼン』という日本語が定着した、要するに改善の積み重ねが改革ではないかというのです。印象に残る話でした」
 「一方、例えばサービスを少し落とすとコストが大きく下がるということがあります。しかし、私は着実にコストを下げていき、サービスは絶対落とさない。サービスを落とすことは、必ず緊張感を失う、不祥事につながったりしたら大変ですからね」

 ―先行きは人口減少で農産物の売上げ維持も困難ですが。

 「やはり食料自給率の向上しかない。農業に関わる者のテーマと言えるのではないでしょうか。現状は自給率約4割だから10回のうち6回は外国で飯を食っているようなもんです。子どものころは、よそでご馳走にならないように『食事時に友だちの家で遊んでいてはいけません』と親に戒められたもんですがね。体を動かすエネルギーの6割を外国に頼っているなんて。もし、それが遮断されたら大変ですよ」

 ―しかし輸入品は安い。

 「3本199円の国産白ネギが中国産は100円ですからね。栽培や輸送面の技術は、徐々にその差がつまってくるモノでしょう。現実は商社が技術を運んでいると言われますしね。一方、中国には20分の1の賃金水準の労働力が、ほぼ無尽蔵にあると言われます。産地だけでは、コストの差は埋まらないということでしょう」

 ―物流コスト問題があります。

 「そこです。農業総生産額を農家の売上とすれば、10兆円を割りましたよね。食品産業市場は、その数倍あるのですから、物流・外食・スーパーの費用は数十兆円あるわけですよね。ここのコストはもう下げられないのかと思うわけです」

 ―農業生産コスト低減で肥料への期待は大きいですが。

 「私は、肥料そのものの購買に関わった経験はありませんが、BB工場の建設や農機、さらにはノーピン袋の開発などに関わってきました。肥料それ自体は勿論、製造・副資材、使用技術と広範な検討がなされ、これからも続くと考えます。色々な場面でのコスト低減の取り組みと、申し上げた作物の高品質化に繰り返し繰り返し取り組んでいくことが我々のテーマだと思っています」

 ―さて、経験の話が出たので思い出話をうかがいたいと思います。大学の専攻は?

 「大学院で農業施設学をやりました。英語でいえばプロセスエンジニアリングです」

  ―珍しい学問ですね。

藤野 瀛氏

 「ええ。東京教育大にしかなかった講座で、例えばカントリーエレベーターとか選果場など農業施設に関する新しい学問です」

 ―全農に入ってからは?

 「最初、農業機械研究部に配属されたのが、とても役に立ちました。大学院の試験に田植機の問題が出た時代で、稲作一貫機械化が花開いていましたからね。昼は新製品のコンバインの圃場検査、夜は刈り取った籾で循環型乾燥機の検査で徹夜と、とても充実していました」

 ―プラント建設では?

 「大量処理と均質化を目指したのが、カントリーエレベーターと初期の選果機。差別化と高品質化をねらったのが、精米工場、予冷施設、非破壊選別でしょうか。堆肥化や廃プラにも関わりました。米はポストハーベスト、施設園芸は全般でしょうか」

 ―最後に経営信条などを。

 「作業を提供する会社ですので、社内の成功や失敗の体験、情報を共有し、改善策は支店や部署別に考えるが、作り上げた対策は一つでありたい。そういうナレッジマネージメントをもとに新しい商品・新しい顧客・新しいサービスを追求して、“職場”の確保を目指していきたい」

 〈会社概要〉東京都千代田区内神田1―2―2▽資本金8億円▽株主はJA全農90%、コープケミカル(株)10%▽事業内容は倉庫・埠頭・港湾運送・内航海運・貨物自動車運送業その他▽主な取扱品目は肥料、肥料原料、化学工業品他▽事業所は支店2(新潟、広島)、営業所3(八戸、鹿島、衣浦)。▽倉庫保管能力は合計25万4000トン。

インタビューを終えて

 藤野社長は、今年2月まで全農生産資材部長、切れ者で知られていた。巡り合わせが良ければ、全農の重責を担えた人。東京教育大学大学院農業施設学専攻。施設学とは、25%の生籾がライスセンターから出てくる時には15%の玄米になっている、付加価値の学問。プロセス・エンジニアリングと英語表現の方が分かりやすい。新職場全農バース(株)でも藤野さんは、「人に喜ばれる仕事ぶり」を掲げて、張り切っている。父親の仕事関連で昭和20年2月中国東北省綏化(すいか)市生まれ。8月15日の終戦日を過ぎた昭和21年10月に一家は内地へ引き揚げた。当時1歳半の末っ子藤野さんは荷物の様にお兄さんの背中に背負われながら帰還船に乗り込んだ。今でも兄弟家族が集まるとそのお兄さんに「命の恩人だぞ」と威張られるという。
 瀛(えい)の名前は、幕末の頃尊皇攘夷派の水戸学者、藤田東湖の漢詩に由来する。
「寿者は瀛州に聚る」=徳のある人は瀛州(えいしゅう)という大海の場所に集う意味の漢詩から取ったという。現在は横浜に住む。2人の息子さんは独立。夫婦2人暮らし。週末はプールで泳いだり歩いたり。ゴルフ、落語を好む。(坂田)

 


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