農業協同組合新聞 JACOM
   
この人と語る21世紀のアグリビジネス
微生物農薬の開発次々に
環境保全型農業に対応して
小齊平一敏 クミアイ化学工業 (株) 代表取締役専務

環境保全型農業に適した農薬をつくろうと「新しい着眼で微生物農薬の開発に力を注いでいる」「この分野でのトップメーカーを目指したい」と小齊平専務は意欲満々。すでにエコシリーズと名付けて水稲種子消毒剤など3種類の微生物農薬を発売し、普及している。一方、同社は海外事業にも積極的だ。専務は海外担当であり、各国それぞれに適応した新製品を次々に繰り出し、輸出を増やす構え。一方、専務の趣味は剣道。しかしやる暇が全くないとの嘆きもある。

輸出増大をねらう 自社の原体を武器に

◆系統とともに成長

 こせひら かずとし
 こせひら かずとし 昭和23年2月宮崎県生まれ。46年3月早稲田大学商学部卒業。4月全農入会、農薬課長、総合企画部次長などを経て名古屋支所長。平成16年1月クミアイ化学工業(株)入社、取締役、同年4月常務取締役、17年1月代表取締役専務。

 ――クミアイ化学工業は農薬業界の老舗であり、東証一部上場会社ですが、農協系統とともに育ってきたメーカーともいえますね。

 「そうです。静岡県庵原郡(現静岡市)の柑橘同業組合が農薬製造に乗り出したのがルーツです。その後、昭和43年に系統100%出資の東亜農薬(株)と合併して現社名になりました。現在系統出資は40%弱です」

 ――主力製品は何ですか。

 「水稲用除草剤です。稲作農家の省力化に寄与してきたと自負しています。44年に発売した『サターン』の普及では韓国を初めとして世界中への輸出を本格化しました。使い勝手の良さで、この除草剤は今も国内外でよく売れており、ロングセラー商品です」

 ――輸出への取り組みは余り知られていませんが。

 「現在、売上げの2割は輸出関係で販路は50カ国以上におよびます。当社の長期戦略として『世界市場をターゲットとする新製品の上市』があります。米国とブラジルに合弁会社を有しバンコクとロンドンには駐在員事務所を置いています。現地企業との提携も進み、また、タイでは50年に当時の全購連と当社が現地の農協連合会と協同組合間提携でつくった企業が今も当社の拠点会社として活動しています」

 ――輸出向けにはどんな製品がありますか。

 「前述の通り水稲用除草剤「サターン」は上市後38年を迎えましたが、現在でも世界各国に輸出しています。また、直播水稲用除草剤「ノミニー」が40カ国以上に出ています。登録申請中や開発中の国を含めると48カ国にのぼります」
 「また、果樹・畑作にも貢献できる製品を輸出しており、米国や欧州では植物成長調整剤「KIM―112」を出しており、生産者の労力軽減に貢献しています」
 「米国およびブラジルに綿用除草剤も輸出しています。さらに、最近では韓国において、当社の独自製剤である水稲用除草剤の豆つぶ剤を上市しました」

◆研究開発力活かす

 ――販売ルートは?

 「多くは商社を通じていますが、現地の販売会社に直接販売するルートもあります」

 ――前期の業績(個別)についてはいかがですか。

 「業界全体として前年を下回りましたが、当社も売上高が減って厳しい決算となりました。しかし、営業利益、当期純利益は前年を上回りました」
 「為替は昨年、若干円高に推移したものの、とにかく海外輸出のほうは利益に貢献しています。自社で開発した原体による製品を売っているわけですから利益率が高いのですよ」

 ――日本の農薬メーカーのうち御社は輸出額で上位に入るわけですね。

 「第4位です。上位3社に次ぐ2番手のトップに位置し、輸出額は約80億円です」

 ――環境にやさしい商品の開発はいかがですか。

 「新しい着眼では微生物農薬に力を注いでいます。当社はこのラインナップをエコシリーズと呼び、すでに水稲の種子消毒剤『エコホープ』を平成15年に、次いで、それを固形化した『エコホープドライ』を上市しました。『特別栽培米の生産者に強い味方』がキャッチコピーです」
 「さらに今年3月には果樹・野菜用の殺菌剤『エコショット』を発売しました。灰色かび病に効く微生物農薬です」
 「微生物農薬は農薬としてカウントされませんが、総合的病害虫防除体系(IPM)と組み合わせていく課題もありますから、JA全農と連携しながら進めています。すでに種子消毒剤の売上規模は2億円にならんとしています」
 「微生物農薬は、自然界にある菌の中から有効な成分となる菌を選抜して開発します。当社には農薬開発で培った研究開発力も製剤・商品化の技術力もありますからIPMにより、農業者、消費者のニーズに応える製品をつくり、この分野でのトップメーカーを目指したいと思います」

◆安心のアピール策

 「除草剤の分野では新規化合物の開発も進めており、そういったものの同心円的な拡大を図ってNo.1をねらっていきます」

 ――微生物農薬以外の開発はどうですか。

 「園芸用殺菌剤、それと米国市場をターゲットの中心にした畑作除草剤の開発に努めています。国内用でも水稲用除草剤の開発を進めており、そのほかに最近は農薬以外に切花の鮮度保持剤『花当番』を発売しました。花をより鮮やかに長持ちさせるもので、農薬開発の技術を応用して商品化しました」

 ――ところで、農薬の安全性について消費者への訴えはなかなか効果を挙げませんね。

 「農薬工業会としてはいろいろな形で訴え続けています。5月29日からポジティブリスト制度が施行されましたが、消費者はどう反応するでしようか。農薬に対して特に強い拒絶反応を示し続けているのは年配の主婦層です。有吉佐和子著『複合汚染』などの影響もあり、『農薬は毒』というイメージを植えつけた一因だと思います」
 「だから残留農薬基準がどうとかこうとか議論しても理解されません。やはりメーカーと農協と農業者が農薬使用を減らす努力をしている姿を消費者に見せることが大事です」
 「特に農業サイドが農薬に厳しい態度を示し、一生懸命、工夫もして安全・安心を守っている姿をアピールすることが一番です。でないと消費者は納得しません。その意味で“消費者と生産者の架け橋”となることをうたっているJA全農の役割は大きいと思います」

◆全農改革への期待

 ――さて日本農業の再生についてはどう見ておられますか。

 「グローバルに見ますと米の主な輸出国はタイ、ベトナム、インドなどですが、日本がその米を買うとなれば値段が上がり、途上国は買えなくなります。その意味でも地球人口増大による食料危機が予測される中で日本の食料自給率向上を支える生産基盤の確保は非常に重要です」
 「ところが高齢化で担い手がおりません。法人化などがいわれていますが、日本の農業は基本的に個人経営で成立している現実があります。どのように担い手づくりをしていくのか、重い課題を抱えていますね」

 ――全農改革についての期待はいかがですか。

 「全農は農業関係の各事業のリーダーです。全農がぐらついては農薬も肥料も農機具もダンボールにしても多くの業界がおかしくなります。リーダーとしての責任をしっかり認識していただくことを期待します」
 「また、『新生プラン』は公約ですから待ったなしでしよう。生産現場へ出かけて議論すれば必ず問題解決のカギは見つかると思います。一方では人工衛星から地球を見るといった高い観点からのサテライト発想も必要です。さらには日本農業を持続発展させる責任を持つわけですから長いスパンでものを見る必要もあります」

 ――最後に農薬業界の競争や御社の対応について。

 「市場の縮小が確実な中で、原体を持つ強大な外資が再編・合併などで攻勢をかけています。当社としては自社品の早期上市をきめ細かく実施していきます。また、生産体制については現在の3工場を10月までに2工場に集約しコスト低減を図ります。少量多品種生産に対応して稼働率を上げ、技術力も一層高めていきます」

 クミアイ化学工業(株)(東京)
▽昭和24年設立
▽資本金45億3400万円
▽従業員数395人
▽売上高347億9200万円(昨年10月期決算)
▽営業利益2億9400万円
▽経常利益2億4300万円
▽当期純利益2億800万円。

 


インタビューを終えて  
小齊平さんは最後の全農名古屋支所長だった。名古屋のラストエンペラーと自嘲していたが、この度のインタビューを通じて、農薬業界に気配りする一部上場企業の経営者に見事転身できたことが分かる。現在の全農には優秀な職員が大勢働いている、ただ資材を安くしろだけではいけない、現場を経験し広い視野から、価格交渉などに立ち向かうべきだと提言する。
 学生時代に剣道3段の免状を取った。全農に入会後は剣道部のクラブ活動。加藤全農現専務が好敵手だったという。剣道、野球、バレーボールと汗を流し、その間に全中の美人OLと恋愛結婚。埼玉県蓮田市にマイホームを建てたのは28才、スポーツと恋に忙しい青年時代だった。
 宮崎県選出の参議院議員で、農水政務官の小齊平敏文氏は実弟、農協・農業では先輩の小齊平さんからみてもよく勉強しているという。全農に業務改善命令書を全農理事長などに渡したのは農水政務官。お互い意識はしているが盆暮れの家族の集まりでは男同士、無難な言葉を交わすのみ。一男一女、娘さんが昨年結婚して子供達は独立、30年前と同じ家に夫人と二人だけで住む。(坂田)

(2006.5.25)

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