農業協同組合新聞 JACOM
   
この人と語る21世紀のアグリビジネス
環境にも人にも優しい微生物防除剤を
一人でも多くの生産者に
日本微生物防除剤協議会代表幹事(セントラル硝子株式会社取締役常務執行役員)
堤 憲太郎氏
インタビュアー 坂田正通本紙論説委員
 IPM(総合的病害虫・雑草管理)への取組みが新たな展開に入ろうとしているなか、微生物による生物的防除は環境への負荷が小さく人にも優しい防除として注目を集めてきている。微生物による防除・技術を普及・推進するため、昨年8月に設立された日本微生物防除剤協議会の堤憲太郎新代表幹事に、微生物防除剤の考え方、そして現状と今後について語ってもらった。聞き手は坂田正通本紙論説委員。


微生物防除剤はIPMの重要なツール

日本微生物防除剤協議会代表幹事(セントラル硝子株式会社取締役常務執行役員) 堤 憲太郎氏
つつみ・けんたろう
昭和22年生まれ。東北大学理学研究科博士課程修了。昭和62年セントラル硝子(株)入社、平成14年硝子研究所長、同17年化学研究所長、同18年常務執行役員、同19年取締役常務執行役員に就任し現在に至る。

◆協議会活動で微生物防除剤の認知度を高める

 ――日本微生物防除剤協議会が昨年8月1日に設立され1年が経ちましたが、改めて設立の経過についてお話いただけますか。

 「協議会に加盟しているメーカー4社が、準備に約1年半をかけて熱い思いで検討した結果、協議会を設立しようということになったわけです」

 ――設立した目的はどういうことだったのでしょうか。

 「第1には、微生物防除剤の普及活動を行うことです。普及にあたっては、環境整備が重要であり、この普及活動と環境整備を通して、微生物防除剤の認知度を高めていきます」
 「微生物防除剤は、自然界にいる微生物を使った、自然の摂理に反しないマイルドな農薬として使っていただくものですが、世の中にまだまだ知られていません。1社で普及活動まですることは難しいので、4社が集まって総力をあげてやっていこうということになったわけです。また、農水省とか行政に対しても1つの団体として意見を出していかなければ力にならないということも背景にあります」

◆化学農薬が使われる同じ分野に剤がある

 ――農薬といわずに防除剤というのはなぜですか。

 「農薬といえば一般的には化学農薬ですし、微生物の場合にも微生物農薬と一般的には呼ばれています。しかし、微生物を使って病害虫などを排除していきますから、薬とは同じではないという意味を込めて防除剤と呼んでいるわけです」

 ――対処療法ではなく予防ということですか。

 「そういう意味も含めて、環境から病害虫などを排除していくということです。化学農薬にも大きな役割があると思いますが、活性が強ければ強いほどマイナス面も多いため使う範囲などが限定されます。微生物防除剤は、天然のものを使っていますから、医薬品の漢方薬と同じように幅広く、じわじわと効果を発揮し、人間にも害が少ないということが特徴だといえます。このことから環境への負荷が少なく人にも優しいわけです」

 ――微生物防除剤にはどのような種類があるのですか。

 「殺菌剤、殺虫剤、除草剤、そして成長促進剤と、化学農薬が使われる分野それぞれに微生物防除剤があります」

 ――どういう使い方が一番効果的なのですか。

 「天候に配慮しながら、事前に病害虫が発生しそうな場合、予め使っておくと発生を防ぐことができます。まさに予防なわけです。選択性がありますから、特定の条件があったときに、鍵と鍵穴のようにキチンとフィットしたときに効果があるわけです。実際に使われている事例も多く、そうした事例を集めて、使い方の知識を含めて普及していこうと考えています」

 ――例えばセントラル硝子でいま一番売れているものにはどういうものがありますか。

 「北海道で、バレイショとか大根の軟腐病用微生物殺菌剤であるバイオキーパー水和剤がよく利用されています」

◆自然界と同じ世界を活かして防除

日本微生物防除剤協議会代表幹事(セントラル硝子株式会社取締役常務執行役員) 堤 憲太郎氏

 ――どういうメカニズムになっているんですか。

 「殺菌剤の場合には、病原菌が住みつく場所と栄養源を奪うことで、病原菌の活動を妨げ、作物への感染を予防するわけです。殺虫剤の場合には、害虫の体内に寄生して水分や栄養を利用して増殖し害虫を死滅させます。さらに除草剤の場合は、雑草の体内に住みついて粘着質の物質を作り出し、栄養や水分の循環を妨げることで雑草を枯らしてしまいます」

 ――病原菌が少ない時期に使うことで予防できるわけですね。

 「そういうことです。病原菌が少ないときに、それより多い微生物を入れれば勝てますね。ですから病気が出る前に使うことが大事なのです」

 ――環境に対して安全・安心なわけですね。

 「基本的には自然界で行われている世界を活かして防除剤としているわけです。自然界にまったくないものを作り出して薬にしているわけではありません。天然にあるもので防除していますから、環境への負荷は少ないといえます」

◆耐性や残留の問題はまったく心配ない

 ――農水省などへはどういう要請をされているのですか。

 「本格的にはこれからの活動ですが、どういう要請をしていくかが重要なんです。いま考えているのは、農薬登録を取得しなければいけないわけですが、そのためには時間がかかりますので、なるべく短時間での登録をやっていただけないかということです」

 ――化学農薬と同じ試験などが必要なわけですね。

 「微生物農薬といっても、中身は化学農薬とは違うわけですから、微生物農薬への認識をいっそう高めていただいて、簡素化できないかということです」

 ――それが1つの目的になるわけですね。肥料の場合には、肥料登録をとらなくても土壌改良剤として使えますね。

 「肥料としての機能をもっている微生物は肥料登録を取らなくてはいけませんし、農薬的な機能を持っていれば農薬登録をとらなければいけません。それがあいまいなものは微生物資材、つまり土壌改良資材となっているわけです」
 「農薬の場合には、微生物資材などとは違って適用作物とか量など使い方まで規制されることになります。安全性や効果については当然試験をします。しかし、使い方は北海道と九州では違うわけですから、もう少し自由な幅があっていいのではないかと私たちは考えています」

 ――効果がわかればリピーターは増えますね。

 「その通りですね。上手な使い方は、場所場所によって多少違うはずです。だから、こういう風に使うといいですよというのは一律にはいきませんが、いろいろな事例を集めて使い方の技術も含めて普及していく必要があると思いますね」

 ――耐性の問題はどうですか。

 「先ほどの軟腐病はバクテリアなので化学農薬を使うとだんだんに耐性が強くなってきますが、微生物防除だとそういう問題はまったく起こりません」

 ――残留の問題はどうですか。

 「まったくありません。もともと自然界にいる微生物ですから残留をチェックする意味がないわけです」

◆IPMのツールとして活用を期待

 ――国はIPMについて積極的に進めていくようですが、そのときに微生物防除剤は重要なツールとなるのではないですか。

 「生物的な防除として天敵を使われている方は多いと思いますが、それをベースに微生物についての認識を高めていただくために、まず知っていただき、そして使っていただいて効果を確かめていただく。そのための努力を私たちがやっていかなければいけないと思います」

 ――最後にJAグループへのメッセージをお願いします。

 「JAは大きく立派な組織ですから、微生物防除剤についてもJAから普及していただければと思います。IPMの重要なツールだというご理解はされていますが、まだ積極的に使っていただくまでには至っていませんので、とりあず防除暦に載せていただいて使ってみていただきたいと思います。お使いいただいて、慣れるまでには時間がかかると思いますが、私たちももっと努力しなければいけないと考えています」

 ――お忙しいなかありがとうございました。


インタビューを終えて  
 堤さんのビジネス・キャリアは研究開発が長い。川越市や松阪市にあるセントラル硝子の研究所長を歴任した。セントラル硝子取締役のまま日本微生物防除剤協議会の代表幹事に就任したのは7月。微生物農薬といわず、「防除剤」と呼ぶところがユニーク。自然界に生息する微生物を利用し、病害虫をやっつける、人、環境に優しく、たとえ多くの量を何回施用しても安全で、農作物や土壌に残留農薬という問題は起きない。防除効果も実証されているということから、微生物防除剤の認知度を高めて普及推進するのが今後の課題だという。堤さんは、仙台の大学の後、スイスのスイス連邦工科大学やドイツのマックスプランク研究所で3年間研究生活を送った。ドイツ語、フランス語、イタリア語、英語がちゃんぽんに聞こえたという。趣味は愛妻とのドライブ。運転免許取得の自動車学校が最終学歴ですと太めの体をゆすって話す。理学博士の肩書きをもつ。(坂田)

(2007.8.9)

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