農業協同組合新聞 JACOM
   
この人と語る21世紀のアグリビジネス
豊富なアイデアは生産現場から
防除の負担軽減や効率化に貢献
内山治男 (株)丸山製作所代表取締役社長
インタビュアー 坂田正通 本紙論説委員
 新しい弾丸が開発されたら、鉄砲を作り直すか、新しい鉄砲を作らなければ、弾丸は打ち出せない…。内山社長は農薬と防除器具の関係をこうたとえ、同社の事業を解説した。確かに新たな農薬が開発されても、それを的確、適正に散布する術がなければ生産者は使いようがない。最近では時代の要請を受け、より安全性の高い散布技術の開発も課題になっているという。
 創業から100年を超えるが、この間、防除器具を中心に生産者の負担軽減のために独自の製品も開発してきた。「生産者に密着して仕事することからアイデアが湧いてくる」と内山社長は語った。

◆発祥は消火器の製造・販売

―創業100年を超えるそうですね。

 内山 明治28年、私の祖父と祖父の兄が現在の新潟県上越市で創業しました。最初は消火器の製造、販売でした。消火器の容器は、昔は銅板を丸めて作ったものです。銅は耐腐食性が強い、つまりさびにくい素材ですから、消火液だけでなく農薬でもそうした材質が必要になりますね。
 そこで、容器が同じで、農村でもずいぶん農薬を使うようになってきたため、これからの発展を見込んで大正のはじめに人力噴霧器を作ったわけです。
 そのうち津軽のリンゴ農家が米国から動力噴霧器を輸入して使うようになっていることを知り、私の父が昭和8年に動力噴霧器を開発し、商品化しました。
 ただ、私どもは噴霧器では後発企業で、すでに大正時代には先発のメーカーが何社もありました。そういうなかでも躍進できたのは戦前から農業会、そして戦後は全農さんとお取引をいただいてきたのが大きな元で、おかげさまで昭和36年に東京証券取引所に二部市場ができたときに二部に上場できました。現在は昇格して一部上場です。

SARSで活躍した洗浄ポンプ

 ―多彩な製品がありますが現在の業務内容をお聞かせください。

 内山 売り上げの構成は、防除器具と刈払機で8割弱を占め、産業用の洗浄機用ポンプが14〜15%で消火器部門が10%弱となっています。

 ―その洗浄機が今年の中国のSARS騒動で活躍したそうですね。テレビでも建物の洗浄風景が何回も流れましたが。

 内山 バッテリー付きの動力噴霧器があるんですが、実は中国に寄付させていただきました。たまたま中国に進出する計画があったのですが、SARSが問題になり、これなら役に立てるだろうと。小さい機械ですから200台ほど現地の赤十字に贈りました。

◆わが国初のハイクリブームスプレーヤ(乗用管理機)を開発

 ―農業用機械ではずいぶんいろいろなものを開発、製造しているんですね。

 内山 防除器具が主体ですが、そのなかで誇れるものとしてはわれわれがマーケットを作った製品です。今は、乗用管理機といわれていますが、われわれは「ハイクリブーム」と名付けた乗用の防除機です。
 大規模な水田農家にとって、防除はいちばん過酷な仕事ですね。真夏の田んぼのなかに入っていって消毒するというのは大変です。その労力を軽減するためと追肥もできるようにと開発した製品です。
 考え方は乗用田植機ですが、乗用田植機では背が低すぎて稲を傷めてしまう。防除や追肥は稲が大きくなった時期に田んぼに入るわけですからね。そこが乗用田植機とは違うところでずいぶん開発費もかかりましたが、車高が70センチ以上の機械を開発したわけです。発売から16年になりますが、累計で約3000台売れています。

 ―こうしたアイデアはどこから出てくるのですか。

内山 私どもは農協に密着して仕事をしてきたわけですが、グループ全体で800人の社員のうち営業部門が300人です。少なくても各県に3人のセールスマンがいますからそれだけ現場に密着していると思います。
 農家に納品するときもJA職員と一緒に立ち会い説明します。たとえば、この乗用管理機でも実際に稲を傷めることがないのかどうか、農家の目の前で自信を持って操作できなければならないわけですね。そういうなかからいろいろな改良点も出てくるわけです。

 ―全農との連携はどうでしょう?

 内山 全農の試験研究機関から、たとえば、農薬でフロアブル剤が登場したときには、動力散布機の性能をそれに対応したものにしてほしいといった依頼や指導をいただいていますし、また、10アール当たりの散布量が1kgの薬剤が開発されたときには、それに対応して均一に散布できるようシャッター機構を改良するといったことを行うわけです。
 逆に言えば、われわれが対応しなければ新たな農薬が開発されても農家の方が散布できないということになるわけですね。ですから、鉄砲と弾丸のような関係にあるわけで、新しい弾丸ができると鉄砲を改良するなり、新しい鉄砲つくるなりといった対応をしなければならないわけです。

 ―今後の課題はどうお考えですか。

 内山 昨年、無登録農薬問題が起きて、その後、生産の現場でも厳しい対応が求められるようになりましたが、一方で輸入農産物からは残留農薬が出るなど安全性に不安だという声もあって、やはり国産のものが消費者には喜ばれると思います。
 ただ、日本は先進国ですから環境問題に対応した農業になっていくのではないかと思いますから、われわれ防除機メーカーもたとえば、狙った部分にだけ農薬が散布され、ほかにドリフトしていかないような技術開発も求められるだろうと考えています。これは業界団体でも申し合わせている課題ですし、また、農家のみなさんにも、風が強いときにはできるだけ散布を控えてくださいというような啓蒙活動もしようと考えています。

◆広がる噴霧器の可能性 

―今後は「水」をテーマに事業ビジョンも考えているそうですね。

 内山 発祥が消火器という液剤ですし、また、動力噴霧器というのは簡単にいえば高圧の小型ポンプですから、その用途開発として昭和48年に洗車機用ポンプを米国に輸出し始めました。
 最初は洗車機でしたが、水で洗うというマーケットはどんどん広がっています。また、高圧ポンプで海水を逆浸透膜に通して真水にするということもありますし、汚水を濃縮することもできるんです。
 景観エンジニアリングという分野になりますが、人工的に霧をつくることにも利用されています。全国の大規模公園や遊園地のアトラクション、イベント会場で靄(もや)のような霧を発生させてなごみの雰囲気を醸し出したり、屋上緑化の庭園演出や気温コントロールにも使われています。皆様も丸山のポンプ技術とは気が付かずに何回かは目にされたことがあると思います。
 これは細かな穴からうんと圧力をかけて水を吹き出す装置で、水はものすごいスピードで飛び出してきて空気にぶつかってさらに細かくなるわけです。それで霧や雲のような状態になる。
 この装置を使った細霧システムを畜舎に導入しますと、真夏に細かい霧を発生させ気化熱で畜舎の温度を下げるということになります。畜舎のほか、ビニールハウスなどでも利用されています。ただ単に水を播いてしまうと湿気になってしまいますからね。

 ―趣味は?

 内山 何でも興味がありまして、嫌いなことはゴルフすることだけです(笑)。じっとしているのがいやなものですから、自宅を新築したときに屋上が空いていたので日曜大工でログハウスを建てました。最初はキットを買ったんですが、その後は自分で設計して今は30畳ほどの広さになっています。
 それから釣りですね。米国に商談に行ったときにカナダやアラスカまで足を伸ばしたことも。釣った魚は自分で料理もしますよ。


インタビューを終えて
 丸山製作所の本社は、自社ビルで神田西口を出たところにある。1895年創業というから間もなく110年になる。新潟県高田の加藤家から三男が丸山家へ、四男が内山家へ養子に出て改姓、丸山、内山の兄弟二人が消火器の製造販売を開始、その技術の延長線上で噴霧器に進出したが、噴霧器メーカーではむしろ後発だったという。内山社長の祖父が東京に出て来て初代丸山製作所の社長となる。戦前は農業会と、戦後は全購連との取引が発展し、以来系統農機メーカーとして、農家に密着した防除技術の革新をリードして来た。丸山は大手と違ってニッチマーケットだという。営業マンが300人いる。農家の目の前で自信を持って機械の動かし方、使い方を示して農家・農協の信用を得てきた。高圧ポンプの用途開発は、景観エンジニアリングの分野でも着々と販路を築きつつある。内山社長自身も物作り大好き人間という。日曜大工でログハウスを自宅屋上に建てた。そのログハウスはテレビに紹介された。魚釣りはアラスカでキングサーモン、カナダでマス釣り、社長室にはマスの剥製が飾られている。ゴルフだけは苦手でやらない。市川市の自宅には夫人と次男、娘さんの4人で住む。長男は独立。 (坂田)
(2003.11.20)

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