農業協同組合新聞 JACOM
   
この人と語る21世紀のアグリビジネス
安心・安全確保へ新たな事業展開を
リコーエレメックス(株) 理事、計量・計測事業本部、計量・計測販売事業部長
河村哲二氏
インタビュアー 坂田正通本紙論説委員
 リコーはコピーの本体をつくり、リコーエレメックスは紙の送り・出し・曲げ・綴じなどの周辺機器をつくってリコーに納め、最終製品としている。リコーエレメックスはガス・水道メーターなどもつくる。同社の計量器製造には長い歴史がある。設計・製造・販売の一貫事業だ。保安機能を持ったガスメーターを開発したことなどからJAやJA全農のLPG事業に貢献してきた。全農の集中監視システム立ち上げなどに協力し、LPG利用者の安全安心をはかってきた。同社の河村哲二理事は技術屋出身だが、営業歴も長い。「全農が持つ通信インフラのストックはすばらしい」と指摘。高齢化社会の中で安全安心を確保していく新たな事業展開が期待されるとエールを贈った。

◆メーターに追い風

リコーエレメックス(株) 理事、計量・計測事業本部、計量・計測販売事業部長 河村哲二氏
かわむら・てつじ
昭和29年5月山口県生まれ。武蔵工業大学工学部卒業。56年リコー精器(株)(現リコーエレメックス(株))入社、計量・計測事業本部 計量・計測販売事業部 大手販売推進グループリーダーなどを経て平成17年理事、計量・計測事業本部 計量・計測販売事業部長

 ――「精密加工技術」が会社のDNAだとされていますが、沿革をお話下さい。

 「前身は昭和13年設立の高野精密工業(名古屋)で、掛け時計をつくっていました。やがて当時の背景を受け国より砲弾の信管(起爆装置)をつくれとの指示を受け、創業当初は売上げの90%が信管でした」
 「戦後再び掛け時計生産に戻りました。戦争によるインフラ破壊の中で精密技術を活かせる事業をと考えて水道メーターを手掛け、また腕時計もつくりました」
 「ところが34年の伊勢湾台風で工場が大打撃を受けたため、経営に支障をきたし、リコーの支援を受け、リコーグループに入りました。37年に社名をリコー時計と変更。やがてリコピーなどの受託生産が時計を大きく上回るようになって、61年にはさらに社名をリコーエレメックスに変更しました」

 ――どういう意味ですか。

 「エレクトロニクスとメカニズムを掛け合わせた新造語です」

 ――今もずっと複写機周辺機器が主力製品ですか。

 「そうです。現在の売上高の約65%が(株)リコー向けの複写機周辺機・情報機器です。次いでガス・水道メーターが20数%です。ほかに創業時からの信管とか時計、それにかかわる精密機器関連などの製品があります」

 ――この3月期決算見通しでは売上高779億円と前年比約100億円の増加(伸び率17.3%)となり、営業利益も経常利益も大幅増となっていますが、どんな要因からですか。

 「ガスのメーターは10年に一回の交換が法律で義務化されており、今後、平成21年までは交換需要が多くなるという背景があります。これは業界全体に吹く追い風です」
 「それから新製品のジェル・ジェット型エンジン搭載のデジタル複合機の生産が軌道に乗ったことも要因です。さらに事業の一部を譲渡・移管したことなどによる経費節減効果もあります」

◆時計技術の応用で

 ――信管の需要はどこにどれくらいあるのですか。

 「自衛隊の演習用と備蓄用を防衛省に納入しています。戦後の生産再開は朝鮮戦争勃発による米軍よりの要請からでした。年間約50億円規模の事業です」

 ――子会社は5社ですか。

 「はい、うち3つは香港と深にある公司で、深工場では複写機周辺機の組み立てを主にやっています」

 ――「リコーエレメックスグループ」は「リコー三愛グループ」の中の一グループですね。

 「そうです。その中でメーカー系の会社はみな「リコー」という名称を冠しています。一方、サービス系の会社は「三愛」の名を冠しています」

 ――三愛の店舗の1つは東京・銀座4丁目の角にあって、よく知られています。

 「婦人服やオフィス用の制服などを扱っています」

 ――ソニーの井深大さんはリコー三愛グループの創業者・市村清さんについて「独特の多角経営」を展開した人であると評価しています。市村さんが敗戦直後の焼け跡の中で掲げた「三愛の精神」という理念は外部にも知られています。

 「『人を愛し、国を愛し、勤めを愛す』という三愛精神は今もグループ内の全社が創業の精神としています。市村は例えば敗戦直後の復員兵が着る物に困っている状況を見て衣料品を扱う三愛を起こしましたが、これなども三愛精神の発露です」

 ――ガスメーターの製造にしても一般家庭の必要性に対応した事業といえますね。昔は薪や練炭・豆炭が燃料ですからメーターなどはいらなかった。

 「都市ガスには配管などのインフラが必要ですが、LPGはボンベを運ぶだけ。簡易性が受けて30年ごろから一般家庭で使われるようになりました。これに対応して当社は時計で培った精密技術の応用でプロパンガスメーターを開発。36年から販売を始めました」

激しくなる競合電力とLPG事業

◆マイコン組み入れ

リコーエレメックス(株) 理事、計量・計測事業本部、計量・計測販売事業部長 河村哲二氏

 「48年にはLPG供給にあたってのメーター設置が法制化され、重量売りから計量売りとなりました。LPG利用世帯は今2600万世帯ですが、メーター普及率はほぼ100%です」

 ――都市ガスとの競合で利用世帯数が減っていませんか。

 「いえ、横ばいですね。それに都市ガスよりも電力との競合が目立ちます。背景には電力自由化があり、都市ガス会社や、新規事業社の電力参入もあるわけです」
 「とくにガスを使わないオール電化住宅と激しく競合しています。高齢者の方の住宅の改築による電化が進み、また住宅着工戸数の半分がオール電化という地域もあります」
 「TVなどの宣伝で電化住宅にはクリーンなイメージがあるようですが、発電段階では重油・石炭を焚くのですから、それに比べればLPGのほうがずっと環境にやさしいと思います」

 ――かつてはLPG世帯の増加につれてLPGの事故も増えましたが、今はほぼ無事故ですね。

 「当社はガスが多量に流れたり、または長時間流れたりすれば、これを異常と判断し、遮断してしまうという保安機能を持ったメーターを開発しました。マイコンを組み入れたものです。官民一体の事故防止活動で、今は年間の事故発生が激減しています」

 ――JA全農と一緒に高齢者世帯向けの「安心コールサービス」という事業をやってますね。

 「全農さんが集中監視システムを立ち上げる時から、保安機能と同時に通信インフラを使ってセンター管理の合理化を図ろうということでやらせていただきました。全農さん扱いのLPG世帯は300万世帯ですが、安心コールサービスの接続者は100万世帯となり、喜ばれています」

◆どうなる家庭料理

 「平成18年6月より新築物件には火災警報器の取付けが義務づけられました。リコーエレメックスではJA様と共同で安心コールサービス対応の火災警報器を開発いたしました。これにより更なる安心・安全へのお役立ちができることと思います」
 「今後高齢化の進行とともに安全安心のニーズに応えるサービスがいろいろ考えられる中で全農さんがすでに通信インフラのストックを100万軒以上持っておられるのはすばらしいことです。インフラ整備が一番大変なことなんですから」
 「それを活かして安心を提供する全農さんの新たな事業展開に期待し、私どもも機器の開発などでお役に立てるのではないかと思います。リコーグループは電子技術をコア技術としていますから競合他社さんより少しは持てるものが多いかなとの自負もあります」

 ――農協のLPG事業についてはどう見られますか。

 「長期的には人口減少で市場規模が縮小し、電力との競合もありますが、生活必需のインフラ事業ですから需要の横ばいが続くものと見ています」

 ――最後に食と農についてはいかがですか。

 「最近、喜ばしいのは青果の売場に生産者の名前や写真をつけた商品が並んでいることです。これは消費者に安心感と信頼感を抱かせます」
 「心配なのは若い人を中心に外食、中食が増え、包丁を持たない世帯が増えて、将来は家庭で料理や食事をしないようになるんじゃないかということです」

会社概要  
リコーエレメックス株式会社(名古屋市千種区内山2)設立=昭和13年資本金34億5600万円売上高664億3900万円(連結、平成18年3月期)社長=橋本誠氏社員数=連結2485人、単独1270人。

インタビューを終えて  
 河村理事は現役バリバリの事業部長である。インタビューは東京事務所で行ったが、本社は名古屋、名古屋へ単身赴任して全国を見渡し、3月期末の売上げ・収益を管理する。
 10年期限のガスメーター交換時期に当る今後3年間は業績が飛躍的に伸びる。新築家屋のオール電化の風潮がガスメーター事業には逆風かもしれないが、環境にクリーンなエネルギーはLPガスの方だという。事故も減った。JA全農経由のガスメーター供給は300万世帯に及ぶ。リコー創業者の故市村清社長に薫陶を受けた社員はもういないが「三愛精神」は引き継がれている。
 河村さんはスポーツを愛する。野球のプライベートチームに参加し、若いときはセンターを守った。勿論ゴルフも大好き。最近は庭いじり。自宅の庭に花を植えるのは奥様、週末は一緒に庭いじり。大学生の娘さん二人と夫人が東京の留守宅を守る。(坂田)

(2007.3.30)

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