農業協同組合新聞 JACOM
   
この人と語る21世紀のアグリビジネス
開発の重点は燃費低減 世界シェア拡大目指して
コマツユーティリティ(株) 代表取締役社長 礒田進氏
インタビュアー 坂田正通本紙論説委員
 今年3月期決算で旧小松フォークリフト(株)は5年連続の最高益を更新。またミニ建設機械を製造している旧小松ゼノア(株)も増収増益とした。この両社が合併してコマツユーティリティ(株)が4月1日スタート。コマツグループは優良企業としての地歩をさらに固めた。比較的似ている車両を製造している両社の合併で今後の開発や製造などに大きなシナジーが期待できると礒田社長は語る。業績好調を続ける要因には中国やインドなどBRICsの成長があるという。今後はグローバルシェアNo.1を目指す。新製品の開発については燃費のよい機械を追求する。農協系統には「こんな機械を造れ」といった課題を提起していただければありがたい、と望んだ。

農業向け需要に対応 農協からも課題提起を

◆シナジーに期待して
コマツユーティリティ(株) 代表取締役社長 礒田進氏
いそだ・すすむ
昭和22年1月東京生まれ。早稲田大学理工学部機械工学科卒業。44年4月(株)小松製作所入社、英国コマツ(株)取締役工場管理担当などを経て平成10年小松製作所取締役 生産本部大阪工場長、15年常務執行役員、18年専務執行役員 生産本部長、19年1月小松ゼノア(株)代表取締役社長、同年4月現職。

  ――フォークリフトを使っていない業界はないといわれるくらいで、農業関係でもたくさん使われていますが、「ミニ建機」のほうはどんな状況ですか。

 「ほ場整備などに使われています。今後は農村の高齢化などに伴う需要を期待しています」
 「フォークリフトのほうも全農さんや農協さんなどに広くご利用いただいております」

 ――建設機械は多種多様ですが、コマツグループでは小さな建機群をミニ建機と呼んでいるのですね。今回はミニ建機とフォークリフトの会社を合併させました。ねらいは何ですか。

 「小さな機械を製造することだけを真剣に考える集団づくりがねらいです。大型と小型の両方を製造する体制では、例えば数10万円の機械よりも1000万円台の機械を造るほうに引きずられますからね。そこでグループ内の各商品を突き合わせ、サイズでも生産量でもほぼよく似たミニ建機とフォークリフトのメーカーを一緒にしました」

 ――用途の違う機械の生産事業を1社に集めたわけですね。

 「生産量をまとめることで少しでも安価な商品を供給していきたいと考えております」

 ――国内市場でのシェアはどんな状況ですか。

 「フォークリフトの国内メーカーは7社で、当社のシェアは約20%です。海外を含めてのリード役はやはりトヨタです」
 「ミニ建機メーカーは地域ごとにも数多く、農機メーカーが参入しているのが特徴です。当社の世界シェアは7%ほどです」

 ――合併によるシナジー効果はいかがですか。

 「設計面で目立ちますね。建機にもフォークリフトにもエンジンやハンドルがあり、変速、車輪の回転など力の伝達部分も同じです。サイズも似ていますから、各部品を共通にすれば設計が1種類ですみます」
 「現実にはなかなかそうはいきませんが、考え方としてはエンジンも1種類にできます。とにかくシナジーにより、開発力とコスト競争力を強め、シェアアップを目指します」

◆BRICsから追い風

 ――海外戦略はどうですか。

 「近年は積極的に海外での販売を強化し、フォークリフトの輸出量は01年の約3000台から06年には約1万台に増やすなど大きな成果を挙げています。新車需要も大幅増です。ミニ建機のほうも05年の新車需要は11万2000台でしたが、08年は13万台と予想されます」

 ――やはり中国、インドの伸びに大きく期待しますか。

 「中印を合わせると世界の人口の4割ですからね。中印を含めたBRICsの経済成長と生活水準の向上に期待します。その後にはNEXT11と呼ばれるメキシコとかトルコなど11ヵ国の成長もひかえています」
 「1つの指標的なデータで見ると、日本の1人当たりの鉄使用量約600キロに比べ中国はまだ200キロほどに過ぎません。日本並みになるには今の3倍の36億トンほどの銑鉄生産が必要です。すると鉄鉱石の鉱山でも、製鉄に使う石炭の炭鉱でもさらに建機が売れるということになります」

 ――でも中国の景気は北京オリンピックまでとか、また過熱気味ともいわれています。

 「とにかく不況はいつかは必ずくるわけですから、景気が下り坂になる兆候を早く察知して手を打つことが肝要です。そこが企業の勝負で、対策の立て方が早いか遅いかによって大きな差がつきます」

 ――ミニ建機について、もう少し説明して下さい。

 「代表的なものはミニ油圧ショベルで上下水道、ガス管、光ファイバーなど都市ライフライン整備の現場を中心に使われています。狭い場所で多く使われるため狭所性や小旋回性が重視されます。都市型であるためアーバン建機とも呼んでいます」
 「大規模開発などで大きな建機が使われた後でミニ建機が必要になります。また物流機械であるフォークリフトも例えば港湾整備が終わったり、工場ができた後に需要が出てくるという点では性格がよく似ています」

◆優良企業のトップに

コマツユーティリティ(株) 代表取締役社長 礒田進氏

 ――次に国内市場の見通しはいかがですか。

 「成熟していますね。東京オリンピック招致による大きな再開発事業でもあれば別ですが、国内需要よりも新興国などへの輸出に大きく期待しています」
 「しかし国内でも得意先の業種によってはフォークリフトの顧客をミニ建機の顧客にするといった拡大が期待できます」

 ――この3月期決算は好調でしたが、ご感想は?

 「こんなに追い風が吹いたのは久しぶりです。旧小松フォークリフトはみんなよくがんばって5年連続の最高益更新となりました。旧小松ゼノアの場合は計画が高過ぎたせいか、計画には届かなかったけれども増収増益の結果は出しました」
 「要因はやはり中印など海外での販売の好調です。今期から両社合算の決算になりますが、そこに踏み出す節目にふさわしい業績でした」

 ――日経プリズムという日経新聞調査の優良企業ランキングでは先ごろコマツがNo.1になりました。

 「いや、びっくりしました。発表前の予想ではベスト10入りをすればいいんじゃないのなどといっていたのですよ。しかし首位に立てば後は落ちるだけ(笑い)だから手放しでは喜べません」

 ――ものづくり技術の先行きが心配されていますが、海外駐在の経験をお持ちの社長はグローバルに見て日本の技術をどう思われますか。

 「やはり世界一ですね。完璧な製品を求める国内市場で鍛えられてきた日本の技術は世界中で通用します。一方、細かな注文に応え、性能に関わらない部分にまでメーカーがカネをかけるため、それがコストを少し押し上げる面もあります」
 「農業技術も高いですね。日本の農産物は極めて品質が高く、味も良い。果物なんか宝石のように美しい。だから農業者の減少や高齢化は困りものです」

◆環境に優しい機械を

 ――しかし農産物の輸入は増える一方ですが……

 「難しい問題ですが、私どもの立場からお話しますと、小松製作所は自由化を乗り越えてきました。私の入社前の1961年ごろ、建設機械の輸入と資本が自由化されて米国のキャタビラー社が日本に上陸してくるとわかり、小松がつぶれるのは必至だといわれました。しかし当時の社長は<負けてたまるか>と反骨精神を燃やして体質を変え、製品の品質を高めて自由化に立ち向かいました。今日のコマツがあるのはそうした試練を経てきた結果だといえます」
 「自由化はある意味で自分たちを強くしてくれる部分があるわけです。ある時期は被害者かもしれませんが、それを乗り越えれば世界と肩を並べて競争をし、ユーザーに安くて良い物を提供できるようになるんだと思います」

 ――コマツの新商品開発の方向についてはいかがですか。

 「世界的な燃料の高騰に対応できる燃費のいい機械を開発していきます。燃料消費量の少ない機械を目指すのは万国共通だと思います」
 「環境への配慮からもバッテリー式フォークリフトの需要が高まっているため1月には新型バッテリー車を発売しましたが、さらに長時間使用できるものを目指しています。5月には世界初となるハイブリット車の販売を開始しました。ミニ建機のほうも電気関係を組み入れたような製品を造っていきます」
 「また農業との関わりでは高齢者向けとか棚田などでお役に立てるものが造れたらいいなと考えています。農協さんからも、こんなものを造れと注文を出していただければ大変ありがたいと思います」

 会社概要
コマツユーティリティ株式会社(東京都港区芝公園2)07年4月1日発足資本金130億3300万円連結売上高1800億円(06年度)連結社員数約4500人工場は日本、米国、中国に各2ヵ所、欧州に1ヵ所、計7工場連結子会社22社。

インタビューを終えて  
 礒田社長は、東京杉並生まれ、早稲田の理工そして現在は世田谷に住むシティボーイである。コマツの工場が石川県にあって一時期田舎に住んだ経験はある。空がきれいでお米はおいしかった。アイガモ農法で作られた有機米を石川のJAから今でも購入している。が、淋しくて、不便でもう田舎には住めないとおっしゃる。
 趣味は、ビデオ撮影、編集機までマニアック、発売と同時に買う。古い順に15〜16台自宅にある。40万円がしばらくすると30万円になりやがて8万円にまで下がる。量販店では満足できない。
 ロンドン駐在時はイギリスの古城を撮影して回った。200の城はビデオに納めてある。工場のある川越市の町並みも撮影済み。人物にはあまり興味ない。
 JAグループはフォークリフトやショベルローダーを流通段階でよく使っている。海外も含め生活水準が上がれば、大型の次は小型になる、未来をにらんだ一部上場企業だった会社同士の大型合併である。(坂田)
(2007.5.11)

社団法人 農協協会
 
〒103-0013 東京都中央区日本橋人形町3-1-15 藤野ビル Tel. 03-3639-1121 Fax. 03-3639-1120 info@jacom.or.jp
Copyright ( C ) 2000-2004 Nokyokyokai All Rights Reserved. 当サイト上のすべてのコンテンツの無断転載を禁じます。