農業協同組合新聞 JACOM
   
この人と語る21世紀のアグリビジネス
牛乳は安くておいしい真のサプリメント
(社)日本酪農乳業協会会長 本田浩次氏
インタビュアー 坂田正通本紙論説委員
 川上から川下まで、つまり生乳生産者から乳業メーカー、牛乳販売店までがタテ割りで1つにまとまっている日本酪農乳業協会(Jミルク)のような業界団体は、農業・食品産業関係では非常に珍しい。牛乳・乳製品の消費拡大のPRなどを展開している。本田会長は飼料の高騰などを挙げ「今年は業界の浮沈をかけた年になる」と厳しい表情だ。全体の食料自給率が39%と低い中で牛乳・乳製品のそれは66%と高い。また牛乳は栄養価は高いが、値段は安い。優等生だ。「この業界をつぶしてなるものか」と会長の話は熱気を帯びた。

飲み方の提案など多彩に “押し付け”PRはやめる

◆朝食抜きや少子化響く

本田浩次
ほんだ・こうじ
昭和19年5月生まれ。東京大学経済学部卒業。農林省入省。食品流通局長、畜産局長などを歴任。平成12年退職。17年5月から現職。

 ――牛乳消費の減退は数字的にどのような状況ですか。

 「ピークだった平成6年度の消費量は435万キロリットルを超えていましたが、18年度は368万キロリットルに減りました。この間の減少量は九州全体の生産量70万キロリットルに近い数字となっています」

 ――消費減退の要因は?

 「牛乳が栄養豊かで健康に良いことはみんな知っています。そのため逆に、栄養のある牛乳を飲むと太ると思い込んでいる人が若い女性を中心に多くいます。それが1つの原因だといわれています」
 「だから私たちは、それは大きな誤解だと懸命にPRしています。私は最近の健康ブームは大問題だといっています。栄養のないものが健康に良いといった風潮があるからです」

 ――それは大間違いです。

 「お茶やミネラルウォーターや食物繊維など栄養失調になりそうな食品が健康に良いとされる傾向は大問題です」
 「2つ目には、のどの渇きを癒す飲料の役割をお茶やミネラルウォーターなどの競合飲料に奪われたことが挙げられます。スポーツや湯上りなどの後に飲む牛乳も減りました」
 「また朝食を摂らない人が増えたことも消費減退に結びついていると考えられます、特に20代の男性はほぼ半数が朝ご飯を食べていません」
 「3つ目には少子化で学校給食用の消費が減っています。ピークの昭和60年に比べ昨年の消費量は28万キロリットル余も減って35万3000キロリットルになりました」

 ――消費減退をどう食い止め、どう回復させるか、Jミルク(日本酪農乳業協会の略称)のメインの運動は何ですか。

◆PRの相乗効果高める

 「牛乳とヨーグルトとチーズを毎日飲んだり食べたりして健康と美を増進しましようと訴える『3―A―Day』という食生活の提案運動を協会発足時から展開しています。これは例えば牛乳だけを1日に3回飲んでもよく、組み合わせは自由です」
 「昨年は、業界の諸団体が進めている消費拡大PRの相乗効果を高める戦略として3つの方針を打ち出しました」
 「第1はそれぞれのターゲットを明確にすることです。中央酪農会議は中高校生を対象に『牛乳に相談だ!』というキャンペーンをしています。それでJミルクとしては20〜50代の女性をターゲットにしました」
 「第2は牛乳のイメージ向上に向け、“飲むべきだ”といった押し付けがましい訴えをやめ、牛乳の必要性に気付いてもらう運動を象徴するキーワードを作ろうということで『ミルクってサプリかも』というキャンペーンを始めました」
 「第3は医師、栄養士、教師など消費者や子どもたちに影響力を持った人たちに対する働きかけの強化です」

 ――サプリメントは売れていますが、中高年層にはいささか違和感があります。

 「それで20〜50代の女性を対象に調査したところ、サプリにはいい印象を持っていました」
 「話は違いますが、上野川修一先生は『機能性食品のプランニングの際、手本になったのが実は、牛乳と母乳です。それをベースに特定保健用食品が生まれて来ているのです。ですから、特保のかなりの部分は、牛乳を原材料として作られているのです』と話されています」

 ――そういう説明はわかりやすいですね。

 「だから牛乳こそ真のサプリなんだよという意味をこめて『…サプリかも』の運動を進めています」

 ――それにしても牛乳は随分安いサプリです。

◆混ぜ飲みの普及を図る

 「牛乳はコップ1杯39円ですが、そこに含まれるカルシウムを他の食品から摂ろうとするとチリメンジャコなら262円、コマツ菜なら115円、ヒジキや豆腐と比べても安いのですよ」

 ――子ども向けにはどんな説明が効果的ですか。

 「先生や栄養士は給食牛乳を残す子らに『飲めば背が伸びるよ』と説明しています。統計でも中学生の平均身長の伸びに牛乳が大きな役割を果たしていることがわかります」
 「例えば白鵬は新弟子検査ぎりぎりの身長でしたが、親方の奥さんが牛乳を徹底的に飲ませて今は192センチですよ。太ったのはちゃんこ、伸びたのは牛乳のお陰といっています。野球の松井秀喜選手なんかも水代わりに牛乳を飲んでいます」
 「悩ましいのは高校には給食がないため中学卒業後は飲まなくなることです。飲用習慣が途切れるのです。むしろ中高年層のほうが骨粗しょう症などを心配して飲むのです」

 ――私は牛乳に甘酒を入れて飲んでいますが、飲み方についてのPRは?

 「そこですね。生乳100%でなければ『牛乳』の表示はできませんが、その底流にある“100%神話”みたいなものを反省しなくてはいけないかもしれません。ほかのものを混ぜた『乳飲料』が近年は年率7%ほどの勢いで伸びています。そうした消費者志向に合わせた商品開発をしていく必要があります」
 「一昨年からはコーヒーに混ぜる“飲み方提案”もしています。先進国の牛乳消費量は日本の2〜3倍ですが、中でも豪州は近年さらに消費を伸ばしています。それは混ぜ飲みが流行っているからです」

 ――『病気にならない生き方』という本の中に“牛乳なんか飲まなくてもよい”と書いてあるためJミルクは著者の医師に質問状を出しましたが、その後の経過はどうですか。

 「半年後の昨年10月にやっと回答がきて記述の根拠が列挙されていましたから、学者研究者に詳細に検証してもらった結果、全く科学的根拠のないものであるとの結論を得ました。それを昨年末に公表しましたが、著者からはまだ反論がありません。もともとあの本はサプリメントを販売するための戦略本ですよ」

◆チーズ製造で自給率上昇

 ――今年の酪農乳業業界の動向はどうでしようか。

 「飼料の高騰による危機的な年といえます。飼料、燃料、資材などの高騰により牛乳の販売価格も上げざるを得ません。実は販売価格の引き上げ話は30年ぶりのことなんですよ。財布の紐が堅い消費者がどう反応するかですね」
 「一方、乳製品の国際市況が高騰して日本の国内市場との価格差がほとんどなくなりました。これがもしこのまま続けば消費者は買いたくても買えないという状況になります」
 「物価はすべて上がっていきますが、その中でどの商品が値上げにふさわしい価値を持っているか選択は厳しくなります」

 ――牛乳・乳製品の自給率は高いのですね。

 「66%だから食料自給率全体と比べかなり高いですね。輸入はチーズが多いのです。しかし今年は大手3社が北海道にチーズ製造工場をそれぞれつくりますからチーズの自給率も上がります」

 ――最後に、ご趣味についてひとことお願いします。

 「ウォーキングが趣味で1日1万5000歩を歩いています。日本ウォーキング協会の顧問でもあります」

【日本酪農乳業協会】
平成16年3月に全国牛乳普及協会など3団体が合併して発足。牛乳・乳製品の消費拡大のためのPRなどを行っている。会員は中央酪農会議、JA全農、全酪連、メーカー団体や牛乳販売店団体など。活動資金は会員の拠出金と国の補助金。

インタビューを終えて  
 Jミルクは牛乳という単品の生産者・消費者・販売業者を縦にまとめて、いっしょに繁栄を目指す貴重な団体である。本田会長は、農水省畜産局長を歴任した人。牛乳について分かり易くお話していただいた。
 学校給食で小・中学校では牛乳を飲むが、高校生には給食制度はない。横綱白鵬がモンゴルから日本に来た時、背丈170センチが192センチに伸びたのは熊ヶ谷親方のおかみさんが白鵬少年に牛乳をどんどん飲ませたからと言う。背が高くなりたかったら高校生からも牛乳は飲み続けること。中高年のカルシウム補給は牛乳からとるのがもちろん効果的。欧米に比べ日本人の牛乳消費は少ない。「ミルクってサプリかも」というキャッチフレーズを掲げて日本の女性に消費を促す。
 本田会長の趣味は、日本ウォーキング協会の顧問をなさるほど、毎日1万5000歩目標で2時間は歩くこと。きっかけは1994年ガンマーGTPが上がって万歩計をつけた。ウォーキングをはじめてすぐ正常値に戻った。この15年間に徒歩で地球一周した計算になるという。都内のホテルで会議が終わり、急ぎのスケジュールがなければ事務所まで歩いて帰る。地下鉄なら4駅区間の距離を40分で歩く。時速6km。本田会長は牛乳とウォーキングでまことに健康である。(坂田)

(2008.2.8)

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