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《書評》 北山良(長野県農協大学校、長野女子短期大学講師)

   『農協改革の逆流と大道
   ――「集権と大競争」から
      「分権と棲み分け」へ』

     
三輪昌男・著 農山漁村文化協会・刊 B6判 \1950(税込)
農協改革の逆流と大道

農協改革の大道を求めて
――組合員の農協への広範な論議を

新しい農協像の構築をめざして

 ちょうど72年前の10月は24日が暗黒の木曜日、29日は悲劇の火曜日といわれ、アメリカの株価大暴落によって世界大恐慌の発端となった日として知られる。その波及として翌5年から始まったのが昭和農業恐慌。
 産業組合は「農村経済更生運動」の主要な担い手として、また「拡充5カ年計画」を樹立実行しその克服に努めた。それは産業組合運動がもっとも高揚した時期でもあった。
 それから70年、国民の暮らしは格段に豊かになった。農家にも恐慌時の面影はない。
 しかし、グローバリゼーションの急進のもとで農業は急激に衰退し、今後の展望はまったく不透明で農家は苦悩している。
 農協も例外ではない。産業組合以来1世紀の歴史を顧みて最大の混迷と自信喪失の時代といっても過言ではあるまい。
 著者の農協に対する危機意識もここにあると思われる。本書は、昨年11月農水省から発表された「農協改革の方向」という文書の批判検証を通じて、新しい農協像を構築しようとするものである。この6月のいわゆる農協2法の改正がこの文書に基づいて行われたことでも、同文書は即行政の「方向」としてきわめて重要な文書といえるからだ。
 こうした文書がなぜ出たか。それは農協全国大会で「系統組織整備」を決定して以来、依然として低迷、迷走する農協改革に農水省が業を煮やしたからだという。いわば行政の系統不信の結果としての文書ともいえよう。

「対等の競争」ではなく「棲み分けの競争」が農協の競争

 今日わが国経済低迷の帰結が金融問題・金融機関問題に集約されていることと軌を一にして、系統においても信用事業問題の帰趨がもっとも基本的かつ喫緊の課題となっている。
 本書は「第1部 信用事業の改革」として、同文書の「金融情勢の変化を踏まえた農協金融システムのあり方」を検証の対象とする。
 ここでは「早期是正措置の自主ルールをめぐって」と「改革のもう1つの方向」の2つの章についてみていこう。
 文書を要約すると「行政の早期是正措置命令が出される前に、農協系統金融機関の自主ルールを作って、問題のある農協や信連を発見し的確な措置を講じる必要がある」という。
 著者は「早期是正措置とそれと表裏の関係にある行政検査が十分機能していれば、自主ルールは必要でない。検査体制の強化こそが必要であり、政府は自分の責任・役割を果たすよう力を傾注すべき」だと強調する。さらにその自主ルールにしても「農林中金が作れ」とは奇妙、かりに作るとしてもどうして「中央会系統の監査システムを強化してやれ」といわないのか、と海外の協同組合の事例もあげてその問題点を指摘する。
 次に、文書が「金融機関の大競争時代が到来する・・・農協系統金融機関が、今後とも、他の金融機関と対等に競争していくためには」といっていることに対し、「単位農協は、国際市場で外国の巨大銀行と競争するわけではない。また国内の全国レベルの市場で大手銀行と競争するわけでもない。・・・すべての『他の金融機関』と『対等に』横並びで競争するのではない」と、「『対等の競争』でなく『棲み分けの競争』」こそが農協の競争だと提唱する。重要な指摘といえよう。

市場原理と地域農業振興戦略は矛盾

 「第2部 他事業および組織体制の改革」から、意見が分かれ論議を呼ぶと思われる、農協と営農指導についてみていこう。
 今回の法改正で営農指導が第10条事業範囲規程の最初に位置づけられた。これは文書が「農協の最も重要な機能は、地域農業の振興である」といっていることによる。
 そこで著者は「営農指導は農協の第一の事業か」と、その費用をどうするか、市場競争激化の今日営農指導の根本的見直しが迫られている、営農指導が重要だと行政が強調している以上農業普及制度の強化、あるいは同制度に代わる公的営農指導制度の構築に努めるべきではないか、など提起する。
 また文書は「農協ごとの地域農業振興戦略の樹立」を農協に求めているが、農水省は日本農業を市場原理に即して編制しようとしていることは周知のことであり、とすれば、市場原理のもとで地域農業振興戦略の樹立という計画経済的な対策は矛盾だし、農水省が必要だとするならば、自分で取り組むべきだ、と厳しく指摘する。
 すでに触れたように、日本農業の展望をどう拓くか苦悩しているのが現実である。その意味で関係者のさらなる論議を期待したい。
 最後に、終章から農協改革の決め手、について。決め手は「改革の担い手が元気よく働く条件を作り出すこと」であり、そこから新しい農協像が生まれるが、それは「方向」でいう「集権」でなく「分権」に基づくネットワーク型組織が基礎だと。
 本書は近年低調な農協論議に、刺激を与える意欲をかき立てさせる快著といえる。


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