農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 JA全青協創立50周年記念特集 (2)

農業協同組合新聞紙上ミニシンポジウム

「担い手」のエネルギーで 農業新時代を築こう



出席者
全国農協青年組織協議会会長
(JA全青協)
三上 一正氏

全国農協青年組織協議会副会長
(JA全青協)
藤木 眞也氏

農林水産省経営局経営政策課課長
柄澤  彰氏

JA全中農政部部長
冨士 重夫氏

東京大学大学院助教授
(司会)小田切徳美氏

 新たな食料・農業・農村基本計画は3月末に閣議決定が予定され、今、最終的な策定作業に入っている。新基本計画の柱のひとつが担い手の確保、育成策と担い手に対する経営安定対策の確立だが、具体的な内容は基本計画決定後に引き続き議論されることになっている。担い手問題はいわば議論のスタート地点に立ったところだ。そこで今回は、地域農業の担い手であり、また、将来のJAの担い手でもある青年農業者の視点からこの問題を議論するため、JA全青協創立50周年記念特集の第二弾として三上会長と藤木副会長、農水省経営局経営政策課の柄澤課長、JA全中農政部の冨士部長に語ってもらう紙上ミニシンポジウムを企画した。
 地域合意による担い手づくりをキーワードに担い手への農地利用集積や集落営農の組織化の課題など現場での問題を探りながら議論、三上会長、藤木副会長は新たな政策を検討する前提として「日本の農業を将来どういう方向に持っていくのかの指針が重要」と強調。担い手の意欲を支える農政の分かりやすい方針が求められていると指摘した。

◆新基本計画への青年農業者の期待と課題

 小田切 新たな食料・農業・農村基本計画の策定が大詰めを迎えています。ただし、今日のテーマである担い手問題については、新基本計画では一定の方向が示されるだけで施策の対象とする担い手像など具体的な議論は今後行われることになります。そこで今日は創立50周年を迎えたJA全青協から三上会長、藤木副会長に来ていただき本音で担い手問題を語っていただく機会にさせていただきました。
三上 一正 JA全青協会長
三上 一正 JA全青協会長
 さて、JA全青協は昨年7月にかなり詳細な政策提言をしています。三上会長から説明していただけますか。
 三上 われわれとしては自分たちが担い手だという意気込みで検討に取り組みました。
 ただ、今回、基本計画の議論のなかでの担い手問題は、われわれにとっては情報がやや中途半端で、どういう形で議論が進むかということが見えなかったものですから、まずわれわれの農政への思いを伝えるということで提言をまとめたわけです。
 そこでは担い手問題だけではなく基本計画全般について、たとえば、農地利用計画や農村整備計画をきちんと策定するとか、それもJA、行政、また地域住民も一体となったかたちで策定すべきであることや、さらに、担い手への経営安定対策では、水田もきちんと含めた農業経営に対する対策にすべきだといったことも盛り込んでいます。
 ほかにも農地制度にしても、担い手に農地を集積するために農地台帳を統一するなど農業者に分かりやすい制度にすることや、土地改良などにともなう負担を軽減するなどいろいろな改革があると思います。
 審議会の議論を聞いているとこうした、まずやれることにきちんと手をつけるべきなのに、どうも現場が求めていることには手をつけないで違うところに焦点が行ってしまっている気がしました。そこがJA全青協の提言の思いだということです。
 小田切 担い手問題では、推測するにJA全青協のなかでもいろいろな地域性、作目の差などがあってメンバーの方々の意見は必ずしも一枚岩ではなかったのではないでしょうか。提言をまとめるまでの組織討議の過程ではどのような議論があったのでしょう。
 藤木 たしかに北と南では地域性があまりにも違いますから、どうしても都府県と北海道では考え方に差が出てきました。
 結局、担い手に対する経営安定対策は畑作を対象にして話が始まったものですから、どうしても北海道がメインになってしまって、都府県までを含めた議論ではなく北海道だけの議論をやりたいという意見も強く出ていました。
 そのほかは、やはり誰に担い手という考え方をあてはめていくのか、ということも議論になりましたし、それからそもそも現場としてはこの経営安定対策にあまり魅力を感じないという意見もありました。
 たしかに担い手に農地利用を集積していくというのは理想ではあると思います。しかし、集落を守っていくということでいえば、数は力なりじゃないですが、ある程度農家を残していかないと農村の機能は発揮できないと思うんですよね。そこをもっと詰めていくべきではないかと考えています。

◆「選別」が政策の目的ではない
―農水省―

  小田切 ご指摘のように経営安定対策の魅力がはっきりしなければ、どう担い手を絞り込むかという議論をしても、魅力がないなかでの絞り込みということになってしまって、ある種本末転倒の議論になってしまう。そういう意味で今の時点で担い手の特定化を議論することは難しいのは事実です。柄澤課長から考え方を改めてお聞かせください。
 柄澤 まずなぜ担い手の議論をしているのかとのそもそもの考え方を理解していただければと思います。
 日本の農業の実態を見たとき、膨大な耕作放棄地が出ている、集落を見ても担い手がいなくて誰がその農地で作るのかという集落もある、という声が聞こえてくるわけです。
 こういう実態をみたときに、この先、継続的に安定して経営していく担い手がいなければ、農地をだれも利用しないとか、あるいは集落自体がなくなってしまうことも考えられるわけです。すなわち、農業もひとつの産業として安定的、継続的に経営できるような担い手がいなければ、農地利用も成り立っていかないという状況になっていると思います。
 では、具体的な担い手をどう考えるかという点については、個別経営でもいいし、集落全体でもいい、あるいは法人でもいい、いろいろなタイプの担い手があり得るわけで、担い手の類型はこうでなければならないということを言うつもりはないわけです。
 次に、今回の経営安定対策の対象部門をどう考えるかとの点ですが、内外コスト差の顕在化という共通の括りができる品目については横断的に捉え、水田なり畑作について共通の政策で覆っていくことを考えています。
 一方、野菜や畜産といった部門専業的な世界については、横断的な制度とすることは難しいのでそれぞれの部門ごとに経営安定のあり方を考えるべきと思います。
 一方、担い手の明確化とは、地域で具体的にどういう人を担い手として位置づけるのかということです。それは、水田であればJAグループが地域水田農業ビジョンづくりに主体的に取り組んでおられ、現在27万の担い手がリストアップがされているわけです。他方、農地流動化の関係では、各市町村が農地利用を集積すべき相手をリストアップしているということもあります。このようなさまざまな制度の中で、担い手が明確になりつつあると思います。

「選別」ではなく「育成」の目で担い手の特定化」を

 小田切 今のお話では多様な担い手を地域の合意で決める、これが基本路線だということです。ここの部分だけ見れば全中の考え方と違わないと思いますがいかがでしょうか。
 冨士 そこは違う点もあります。というのも担い手に対する経営安定対策の検討プロセスを見ればよく分かります。
 先ほど藤木副会長も指摘したように品目横断政策に切り替えていこうという議論は北海道の畑作輪作を念頭に置くところから始まったわけですね。実は、畑作輪作を念頭に置いた経営安定対策というのは、担い手問題はないんですよ。今は品目ごとの数量支払いですが、それを面積に置き換え担い手に着目して支払うといっても北海道では受け手は変わりません。ほとんどが担い手ですから。
 ところが、品目横断政策として検討していったとき、そのなかに麦、大豆も入れるとなると、都府県の水田転作の麦、大豆も対象になってくる。ここで同じ麦、大豆であっても畑作と水田転作の麦、大豆をどう関係づけるのかという話になり、そこから担い手の特定という話になってきた。つまり、対象は誰でもいいというわけにはいかないのではないかと。
 したがって、担い手問題というのは逆に言えば都府県の水田農業における麦、大豆を含めた体系のなかでどう担い手を特定するかという話になったわけで、そこは一律に一定の要件を課すのは問題ではないかということです。
 さらに政策に魅力がないという指摘は当たり前の話であって、今よりもプラスされるわけではなくて、今の数量支払いを面積に置き換えるということです。しかも一定の経営体にだけ支払うということですから、もらえる人ともらえない人が出てくるというだけのことで自分が担い手に特定されたからといっても何も得する話ではないんですね。

◆集落での改革意識
どこまで浸透するか?

 小田切 確かに議論の仕方に問題があったことは事実だと思いますが、しかし、議論のたどりついたところは地域合意で担い手を特定化するということであって、そこは私はよしとしたいと思います。
 そこでここからは、地域合意で担い手を特定化するということについて議論を深めたいと思います。この問題について、会長、副会長、現場ではどう受け止めていますか。
 三上 私は平成12年に麦、大豆の助成金を使って集落営農ができればと思い地元で作業受託組合をつくりました。法人格までとりましたがここからどうやって先に進むかが今最大の課題です。というのは、地域の合意を得て経営することは非常に難しいからです。
 農地を借りて集めても、米はだめですから、麦、大豆になりますが麦は梅雨があるからだめだ、じゃあ、大豆だとなります。が、大豆は2、3年で連作障害が出てくるからどうしてもローテーションしなければならない。となると、残った農地では何をつくるか。青森なら長イモ、ニンニクがあるからそれを植えようか、ということになりますが、そうなれば水田には戻らなくなってしまう。そこまで合意を得るのは非常に難しい。
 こういう問題があって、単に担い手を合意形成するだけではなくて、作物も合意形成しないとなかなかうまくいかないんです。そこが今各地で悩んでいるところじゃないかと思います。
 小田切 今指摘された経営の課題は別として、「人」ということであればおそらく向こう10年以降だれがこの集落の農業を担っていきますか、という問いに集落内ではほとんど同じ人を指すというのが現状ではないかと思います。そういう意味では集落での担い手の特定化は実質上終わっていると考えていいでしょうか。
藤木 眞也 JA全青協副会長
藤木 眞也 JA全青協副会長
 藤木 そういう地域もあるかもしれませんが、九州など南の地方は、まだそんな状況ではないですね。誰かに任せるのではなくまだまだ自分の家で作っていくという認識が強いと思います。
 集落営農ということでいえば、私の町は平成3年から完全にブロックローテーションが実現している全国でも指折りの地域ではないかと思います。しかし、集落営農に参加する農家のなかでも、サラリーマンをしながら1ha程度の水田を持っていて表作と裏作をやることができるものですから、そういう家では自分ができなくなったとしても息子がどうにかこうにかやるだろうという認識しかない。息子にはやる気は絶対にない、でも、そこの親はいずれはやると思っている。だから、他人には貸さないという意識なんです。
 ですから地域水田農業ビジョンを描くといっても、その前に各農家のビジョンはどうなっているのかが問題だと思いますが、それをまともに描けるのかと思いますね。本当にこれで将来も大丈夫ですかと言われたときに考える人はいるかもしれませんが、果たして誰がそこまで突っ込んで話をしてくれるのかという問題があると思います。
 小田切 地域合意のための手法、あるいは集落と個人の関係が焦点にならざるを得ず、そこをどう乗り越えるかということですね。地域合意が前提であるにせよ特定化が必要だという理由について改めて農水省の考え方をお聞かせください。

◆現場で望まれる政策、もっと重視を

柄澤 彰 農林水産省経営政策課長
柄澤 彰
農林水産省経営政策課長
 柄澤 行政の立場から申し上げますと、農家のうち、副業的農家の農業収入は年間30万円ぐらいで、農家総所得の5%以下という実態です。かたや主業農家は平均でも470万円以上の所得を農業から得ています。
 もちろん副業的農家も農業をするのは自由です。しかし、農政の立場から言いますと、年間30万円の農家所得と470万円以上の所得を、まったく同じような手厚さで政策支援するということは、納税者の理解を得る上からも非常に難しいのではないかと考えているわけです。
 ですから政策支援の対象というひとつのジャンルのなかにできるだけ移動してきていただいて、担い手として安定的、継続的に経営していただくということをしないと、農業自体も成り立ちませんし、国民の理解も得られないということが基本にあると思います。
 そんなことを言うのであれば、兼業農家や小規模農家はどういう選択をすればいいのかという疑問が起こると思いますが、それには3つほど選択肢があると考えています。
 1つは個別に小規模生産するのはコスト面からいっても成り立たないので、経営資源を担い手といわれる方に出すという選択です。そのときにそれは切り捨てではないかという声もありますが、われわれの試算では、5反以下ぐらいの零細な規模での稲作所得と、農地を出すことによる地代収入や生産コスト不要分とをくらべると、農地を出したほうが得だという結果もあります。
 2つめは集落営農の組織化です。集落営農に参加することで配当収入もありますし、さらに出役すれば賃金ももらえる上に、集落営農が経営安定対策の対象になることも考えられます。
 そして3つめの選択肢としては、小規模でも高付加価値の農業生産に取り組むということです。有機農業や観光農園などの形であれば、収益もかなり上げられると思います。こういった選択をしていっていただくことは十分考えられるので、今のままの農業構造を温存することは政策としては成り立たないと思います。
 三上 お話を聞いて基本的なことを聞きたくなるのは、農政って何なのかということです。
 私は今年34歳になりますがちょうど減反が始まった年に生まれたことになります。もともと米で食べていた農家がほとんどでそれが減反が増えてきて、何とかしなくてはならないといろいろ考えたのが長イモやニンニク、ゴボウといった畑も含めた経営でした。農家もいろいろ努力してきたわけです。専業でも兼業でも。
 農家にとってみればそういうなかで何がほしいかといえば農産物価格です。ある程度採算が取れる価格帯であれば経営安定対策はいらないわけですね。それができなかったから担い手がいないという現状になったのではないか。
 実態をみれば担い手をなんとか育成しなければならないのだという指摘ですが、今までも実態を見てきたはずですよね。
 そうであれば、担い手を限定した経営政策を議論する前に、市場のあり方を見直すとか、最低限のコスト部分を保障するとか手をつけるべきではないか。われわれ農業者からすると今農産物では採算がとれないから国に求めているだけであって農産物で採算がとれれば問題はないんです。そういう構造にするいろいろな方法があると思います。
 小田切 ご指摘の問題は価格政策にかかわる議論だと思います。これは、残念ながら、国際的な規律、WTO農業協定の制約のなかで、当面は議論をしなければならない。もちろんWTO協定自体を変えることも課題ですが、基本計画レベルでは、時計の針を戻すという議論は、できないんだろうと思います。
 三上 戻すことはできないのでしょうし、担い手に対する経営安定対策はもうここまでくれば確かに必要かもしれません。しかし、私が言いたいのは、ほかにもまだやらなければならないことがあるのではないか、それも既存の政策のなかでできることがあるのではないかということです。担い手に施策を集中するという前に。

◆地域農業再生に納得できる政策の姿を

 小田切 先ほども言いましたように、私は農水省としても地域合意という農政の方向を打ち出したというのは、ひとつの前進ではないかと考えています。
 そうはいってもみなさんの現場の感覚ではそれは無理だということのようですが、しかし、では、今度は逆にお上が選別すればいいのかといえば、決してそうはいかないし、それは許してはいけないと思います。そういう意味で半歩ほどの前進かもしれませんが、そこは評価して地域農業発展の糸口を見つけるべきではないでしょうか。
 藤木  土地の利用集積ができて担い手に集中すればそれは理想的だと思います。私の経営のメインは畜産ですが、私なりに計画があって、それを考えるとたぶん80〜90haの水田を使わなければならないと思います。意欲はありますし、またそれが可能な条件の地域に住んでいますからね。
 ただ、私は米をつくるわけじゃないんですね、稲わらがとりたいがためにやるわけです。先ほど、品目横断政策についての考え方が説明されましたが、私は畜産と水田でもいいのではないかと思う。
 しかし、地域では基盤整備が遅れていて、20a区画で用排水兼用です。それを今さら30a区画で用排水分離の基盤整備をしましょうと言われても、誰も応じてくれません。ただし、道から道までを1区画にすれば2ha程度になりますから、畦を取ってしまえば平坦地ですから十分に一枚の水田として使える。また、退職した方でも十分にオペレーターとして雇えると思います。その人たちの雇用をやりながら機械さえ抱えられればやれないことはないと思います。しかし、そこまで理想的な集積ができるのかどうか、なんです。
冨士 重夫 JA全中農政部長
冨士 重夫 JA全中農政部長
 冨士 さまざまな問題がありますが、私たちも地域合意による担い手の特定や地域の話し合いによって担い手を合意していくという以外に基本的には方法はないと思います。
 ただ、気をつけなければならないのは、新しい経営安定対策をこれからどうするかという問題があるわけで、そういう仕組みをどうリンクさせるのか、させないのかということだと思います。それが地域合意に対するインセンティブを与えるか与えないか大きな影響となるからです。
 とくに今回の経営安定対策はWTOの規律上、「緑」の政策に転換していこうということから導入しようということですね。ですから、本当は担い手のみなさんにすれば数量に着目した支払いのほうがやりがいがあるわけで、努力が報われることになる。しかし、そうした「黄」の政策は認められないから、「緑」にするというわけです。
 しかし、「緑」にすると言ったとたんに、極端に言えば、これは生産に連動しない支払いなんだから何を作ってもいい、面積さえあれば、という話になってしまう。
 ただ、もともと緑の政策とは生産と連動しない支払いですが、一方で対象者を絞ること自体、生産を一定の方向に誘導することでもあるわけですから、対象を絞ったうえでの「緑」の支払いは可能かという議論もあると思います。
 ですから、新たな経営安定対策を構造政策、地域での担い手育成や集落営農の組織化にどう連動させるのか、よくよく考えてまた、日本の実態に即してやらないと現場が混乱するし、地域での担い手の特定化などできないということになってしまうと思います。
 たとえば、集落営農を組織化するひとつの契機は土地改良事業ですね。土地改良することによって農地の面的、団地的な利用を考えようということになる。もうひとつの契機はいわゆる機械化貧乏ですね。集落全体で10ha程度の農地しかないのに機械は10台も20台もあって、もうこれはもたないからやめようよ、もっと合理的に考えよう、という話になる。だいたいこの2つが象徴的なケースです。そういう意味では集落営農で1集落1農場的な農業をやっていくことは必要なことです。ただ、それをどう進めていくかというときに、個々の人たちにはいろいろな思いがあって、なかなかまとまらない面もあります。
 そこで、それをまとめていくコーディネーターとしての農協、行政、普及所といった機関が一体となってサポートして集落の将来像を描くということが必要だと思います。そのことがなくて集落の人たちに任せているだけではなかなか進まないと思います。
 小田切 地域合意に基づく担い手の特定ということに非常に大きな課題があるということがよく分かりました。
 また、地域合意に基づく担い手づくりに普及員や農業委員会、農協の営農指導員が一体化、ワンフロア化での対応も課題となっています。ワンフロア化の話は、しばしば合理化という視点で議論してしまいますが、そうなると縮小再生産の道をずっと繰り返してしまう。そうではなく地域農政資源の強化という発想でのワンフロア化という議論が望まれると思います。

生産者の意欲を支える 日本農業の「指針」提示を
小田切徳美 東京大学助教授
小田切徳美 東京大学助教授

 小田切 さて、地域のあるべき担い手構造を地域のなかから発想していく、組み立てていくという問題を話し合ってきましたが、そういう路線が現実にできればいいがなかなか難しいという意見もありました。基本的な点として何が問題でしょうか。あらためて、議論してみたいと思います。
 三上 つまり、条件をつけて担い手を特定化しようという前に、自分たちが担い手だと思ったらそれを担い手に位置づけてくれればいいじゃないか、と基本的に思うわけです。われわれ農業者もそれなりに努力が必要ですが、今の議論では国からの押しつけ的な部分がどうも先に立ってそれにあわせなきゃならないのか、という気になってしまう。
 逆に農業者がこういうかたちでやりたいんだけど、これを担い手として位置づけてくれというほうがまだすんなりいくのかなという気がしますね。
 その点をJAグループとしても、意欲あるものを担い手として位置づけてくれ、という主張になっているのだと思います。ある程度基準は必要かもしれませんが、基準とかラインの部分が先に立って農業者としてはそこに非常に嫌悪感を感じてしまうということです。そのラインにいくまでには、ああしなければいけないのか、こうしなければいけないのか、と制約として考えてしまう。そうではなくて、自分たちだったら3人で10町歩ぐらいやるからそれを担い手として位置づけてくれとか、法人化まではいかないが見なし法人ぐらいにはなるから、というような段階から始まらないと。最初からハードルが高いとなかなか取り組みづらいということがあります。
 小田切 そうすると担い手支援の方式はひとつは手上げ方式、もうひとつは支援の内容自体をその主体、担い手が提案できるようにするということですね。
 農水省の方針はいかがでしょうか。
 柄澤 認定農業者制度には、運用のバラツキがあるなどの批判があることは承知していますが、認定農業者制度は、あくまで国ではなくて市町村が地域の中で認定する制度です。地域にいちばん近い行政が担い手を認定していくということが筋だと思いますので、この制度の運用に問題があったとしても、そこは改めながら、やはり市町村が担い手を認定していくというこの仕組みを使って、個別の経営の認定を行い、それに国がいろいろな施策の手当てをしていくというのが基本的な姿ではないかと思います。
 小田切 自分で手を上げてまさにその場でほしい支援を申請できるようなタイプが今後望まれると思いますが、その糸口が認定農業者制度や特定農業法人制度のなかにあると思います。しかし、残念ながら地域のほうもまだそれを使い尽くしていない。
 あるいはそもそも認定農業者制度にメリットがないという批判もありますが、メリットがあるように、国に加えて市町村を動かすというのも手ですよね。市町村に認定農業者独自の支援策をつくってもらえばいいわけです。確かに財政難ではありますが、国には財政難に加えてWTO規律があり、がんじがらめです。だから、地方がもっとも動けるような財政面での手当が重要となります。
 三上 ただ、気になるのは担い手として位置づけられたとして、たとえば自分たちの地域の水田農業ビジョンでは50人ですが、この50人に対して政策支援を受ける以上、農地保全しなさい、環境保全しなさい、食料を守りなさいなどいろいろな条件がついてくると思いますが、果たしてわれわれはどこまでやらなければいけないのかということです。産業としての農業というならそこは少し違うのでないか、ボランティアのようなことも入ってくるのかという気がします。
 そういう点では今後の農政のあり方といいますか、農業の方向性というものをもう少しきっちりしてほしいし、国内生産の増大プラス備蓄と輸入というのが基本だと思いますが、そのなかでこれから日本農業はどうするのかもっと明確にすべきだと思います。農業者も数が限られてくると自ずとそういうことも考えざるを得ないと思うんです。たとえば、自分の地域でも米が主体ですが過剰米が出たらどう処理をするのか、今後、米づくりはどうするのか今以上に考えざるを得ないということがみんなのなかに出てくると思います。そのときにJAグループもそうですが国として農業の総体的な方向をきちんと示しておくことが大事だということです。逆に言えばこれが基本計画の前提にならなければいけないわけで、その前提があってから基本計画を詰めていくということではなかったかということです。そこが現在でもはっきり見えたという気がしないです。

地域の合意形成に不可欠な農村振興政策

 小田切 今の論点は非常に重要な論点です。ひとつは、数少ない農業者が「担い手」として、なにもかも担わされてしまうという構図。これは、その中身が先送りされました農村資源保全対策と関連する問題です。もうひとつは、いわゆる財政負担型農政へ転換する中で、その負担をめぐる国民的コンセンサスが、従来以上に重要になるわけですね。それがなければ、新しい農政はひっくり返ってしまうわけです。今回の基本計画はまさに国民的コンセンサスをお題目ではなく、実質的に獲得することに向けて具体的な運動にまで展開できるかどうかが重要だと思います。
 柄澤 基本計画の議論は非常に分かりにくい面があるかもしれませんが、今の時点の基本的考えをごくシンプルに言いますと、今までの農政のよくなかった点のひとつとして、農業の産業的な側面と、農村振興的な、あるいは環境的な側面がかなりごちゃごちゃになって施策が組み立てられてきたという点があります。
 ですからそれを今回の基本計画では、産業政策的な側面と農村振興的な側面を峻別していこうということです。ただし産業政策というと、すぐに農業は工業と同じのか、農村はどうなってもいいのかという批判が出ますが、そうではなくて、農村振興政策はそれ自体必要なんだということです。必要だけれども産業政策とは違う側面で必要だということを分けておかなければいけないということです。
 では、産業政策をどう考えるかですが、他産業並みの所得を得るということのほかに、日本農業固有の問題として、自給率が低いこと、それから農業の多面的機能をどう考えるか、そうした問題がどうしてもあります。ですから、欧米型の直接支払い制度をそのまま持ち込むことはできないことから、日本独自の課題も処理できるような政策体系にしようということで、これを日本型直接支払いと呼んでいるわけです。

 冨士 ぜひとも農村地域政策の具体像を早く出してもらいたいですね。そこがないと民心は安定しませんよ(笑)。
 藤木 現場からすれば本当にそうです。今のうちにしっかりやっておかなければ10年後に今の中学生は一人も中山間地域には残りません。今の専業農家の後ろ姿を見ている中学生たちが残る残らないは親父の背中だけですからね。そこは早急にやってもらわなければならない。
 それからこういう議論の前に、国は農業をこういう方向にもっていくんだというもう少し明確な柱がないとわれわれも具体的にイメージが湧いてこないですよね。
 小田切 今日の議論は3つの点が焦点になったと思います。1つは担い手の、集落等の地域からの特定ということが、全中からはもちろん、農水省からも本格的に言われるようになってきたわけですが、そうしたことを促進するためには、なによりも先送りされた経営安定政策や農村政策が具体化されなければならないという点でした。また、この論点をめぐり、人の特定化だけでは不十分で、作目を含めた経営までも地域の合意を得ることになり、ここに大きな問題点があるということも重要な指摘だと思います。
 2番めは、組織的に一本化するかどうかはともかくとして、担い手の支援組織は、農業関連機関など政策資源を一体的に運用することやそのためにワンフロア化するなど有効的に活用することがますます求められているということでした。
 この点では、先ほどは産業政策と農村地域振興政策を峻別することが大事だという指摘がありましたが、私はさらにそれを現場レベルで再結合することが重要で、その再結合の機関が農業関連機関だろうと思います。そういう意味でも、こうした試みはますます重要になってくると思います。
 そして3番めには、最後に指摘されたように10年後には中山間地域集落には、中学生がだれもいなくなってしまうというような状況の中で、農政改革にはスピード感が必要だということも議論されました。しかし、このスピード感と同時に安定感も必要なことは間違いありません。とくに経営安定対策が朝令暮改に終われば間違いなく担い手がいなくなってしまうわけです。そうしたことも、今日の議論の延長線上に出てくる課題だと思います。
 そしてこれらの前提として会長、副会長がともに強調したのが、「分かりやすい農業政策」だっただろうと思います。それは、農業にとっての願いであると同時に国民にとっても同じだろうと思います。そうした方向を、それぞれの立場から目指し、主張していくことが重要だろうと思います。
 長時間ありがとうございました。

ミニ・シンポを終えて

 全青協の三上会長、藤木副会長のお二人に加えて、新基本計画にかかわり担い手政策を担当する農水省の柄澤課長、そしてJAサイドから対案を提起されている全中・冨士部長との座談会であった。
 意外だったのが、少なくとも私が聞く限りでは、農水省の路線とJAサイドが主張するそれに大きな隔たりがないように感じた点である。農水省の認識と方針提起に前進があったと私も評価して、発言した。しかし、こうした集落等の地域レベルからの担い手の特定化という方向性に、むしろ現場のお二人から違和感が示された。
 それは、要するに、経営安定政策、農村政策等の本来パッケージで示されるべきものが、新基本計画の策定を目前にしても、バラバラになっていることへの批判であった。そうした状況の中で、担い手のあれこれを議論しても何も展望を描けないということであろう。いうまでもなく、それは正論である。また、それを集落の実態や作目選択等の具体的な論点を交えて、問題提起されている点には迫力があった。
 先送りされた論点の具体化と同時に、それらのパッケージ化による新農業政策の全体像が、基本計画の策定後、ただちに求められているのである。(小田切)

(2005.3.9)


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