農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 生産者と消費者の架け橋を築く女性たちの役割

 ルポ・JAファーマーズマーケット(2)

もっと活かそう食と農「提案」の場

JA紀の里(和歌山県)
めっけもん広場


◆京都や大阪から買いに来る人、人

JA紀の里
 新しいキャベツが入りましたぁー」と大きな声で呼びかけながら、台車に乗せられたキャベツが次々と売場の平台に乗せられるとその側から手が伸びて籠のなかにキャベツが入れられていく。キャベツもそうだが、たいがいの野菜は複数の生産者のものが並べられている。ほうれん草の売場には、葉丈の長いもの短いもの、根付きのもの、葉色が濃いものや薄いものなど、同じほうれん草でも生産者によってさまざまだ。量販店なら統一された規格品が並べられるが、ここは「めっけもん規格」でさまざまなほうれん草がある。消費者はそれぞれを手に取り見比べて気にいったものをカートに入れていく。それが買い物の楽しさを演出する。
 1月11日水曜日、平日の朝10時頃なのに店のなかはカートが行きかい普通に歩くことが難しい。それでも「今日はまだそれほどではないですよ。土日とかのピークには歩くことも難しいです」と店内を案内してくれた野菜ソムリエの西野奈美さん。
 お客は主婦が中心だが夫婦で来ている人も多く、ご主人が両手にビニール袋を下げて車へ走り、戻ってきてまた夫婦で袋を下げて行く姿もある。サラリーマン風の中年男性もいる。奥さんに頼まれて会社をちょっと抜け出してハクサイなどを買いに来たのだという。明らかに八百屋さんと思える人もいてキャベツだけをせっせとカートに山積みにしている。
 160台入れる駐車場はほぼ満車の状態だが、次々と車が入ってくる。車のナンバープレートを見ると、地元の和歌山が多いのは当然だが、大阪府の和泉やなにわナンバーも多い。そしてもっと遠い神戸や京都ナンバーの車も見られる。中年の主婦二人が大量に買い込んだ野菜を京都ナンバーの車に積み込んでいるので話を聞いてみた。二人は姉妹で月に1回はここに来る。今日は二人だが家族でくることもあるという。なぜ京都からとの問いに「新鮮で安いから」と答えが返ってきた。そして「よけい買わんようにしようと思っていても、ついつい買うてしまう」ので、嫁いでいる娘さんへあげたりするのだとも。野菜を積み終わって帰るのかと思っていると、朝に採った花で鮮度がよく安いから必ずここに来たら花を買って帰ることにしているのだと花売場に向かった。
新鮮で味の良い地場農産物求めて京都、神戸からも
新鮮で味の良い地場農産物求めて京都、神戸からも

品質向上・品揃えの充実で年間24億円以上の売上

◆1日中来店者があるようにみんなで品揃え

 ここは和歌山県のJA紀の里のファーマーズマーケット「めっけもん広場」。登録生産者は約1500名。1日平均出荷者数は約500名。営業時間は朝9時から夕方5時まで。来店客数は平日が2000〜2500名、土日祝日は3000〜3500名だがこれはレジを通った数で、夫婦や家族で来る人も多いので、この2倍近い人が来店しているのではないか。
 めっけもん広場がここにオープンして5年。いまでは年間24億円以上(16年度)を売り上げる。なぜ、24億円もの売上げが上げられるのだろうか。
 一つは、開店から閉店まで品物をできるだけ切らさないようにしていることだ。生産者は朝6時半から8時半までにその日出荷する農産物を搬入するが、その後は電話で自分の品物がどれだけ売れているかを確認できる。そして品切れになりそうだと判断したら随時、追加搬入することができる。オープン時から導入されている販売状況を確認する電話システムは、1日に1000件も利用されている。それは「一日中お客さんに来てもらおう。そのためにはみんなで品揃えの努力をしようという意識があるからだ」と川原義史店長はいう。

◆“売れたらスカッとする”売れるものをどう作るか

 野菜や果物など生鮮品で売れ残った品物は、5時の閉店後に生産者が引き取ることになる。そのときに「なぜ売れなかったのか考え、売れるものをどうしたら出せるか考える」そのことでレベルがしだいに高くなってきていると川原店長。登録生産者は趣味的に作る人からJAの共選を通して市場流通に出す人までさまざまだが、売れるものを作ろうという意識が多くの生産者に強くあるということだ。
 自らもめっけもん広場に出荷する石橋芳春組合長は「商いは飽きないですね。面白い。良いものを作り自分で値段を決めて出して(店が基準価格は決めている)、全部売れたらスカッとします」という。毎日、今日はどれくらい売れたとか売れなかったが分かり、そこから消費者のニーズを考えることができるのが「消費者と直結したファーマーズマーケットの一番いいところだ。市場流通ではそれは分からない」と大原稔販売部長。
 専業農家にとっては、JAの共選に出荷し市場流通させることは安定した販売ができ安心だが、消費者と直結したファーマーズマーケットにも出荷することで消費者の動向に直に触れ、何を消費者が求め、それに応えるにはどうすればいいかを考える機会を持つことになる。ここだけに出荷する生産者も石橋組合長がいうように売れれば嬉しいから、売れるものをどう作ろうかと考え工夫するようになり、全体としてレベルが高くなり、それが集客力の向上につながっていくことになる。

花もめっけもん広場の目玉だ
花もめっけもん広場の目玉だ

◆端境期でも消費者が欲しいものを作る生産拡大運動

 二つ目は、生産拡大運動だ。めっけもん広場で売られている農産物の7割は登録された生産者が出荷したものだが、その他にそれを補完するための仕入品がある。仕入品でもっとも多いのがJAの共選から仕入れるものだ。JAの内部流通品で、JA紀の里ブランド品だ。そして全国のJAと提携して仕入れるものがある。リンゴや梨など紀の里では採れないものや端境期の品揃えのためにいくつかのJAと提携している。さらに市場から仕入れる場合もある。
 仕入品は確実に売れるものだが、めっけもん広場の生産者にはプラスにはならない。この分を生産者が作れば確実に売れ所得向上になる。主要品目について、端境期など仕入品が多い時期の生産を目標を決めて拡大しようという運動だ。
 川原店長は、消費者が求めている青果物は市場のランキングに表れているという。ファーマーズマーケットのランキングが市場のそれと違う場合には、品揃えができていないからだ。例えばレタスは16年度のめっけもん広場では13位で1000万円だったが、市場では3位(東京青果)だ。きちんと品揃えできて3位になれば3000万円増えて4000万円になる。そこで「レタス3倍拡大運動」を実施し、売上げを確実に伸ばしている。レタスとキャベツ・ハクサイ・ブロッコリー・ピーマン・ダイコン・ゴボウ・ニンジン・ほうれん草を「チャレンジ9品目」として目標数字を定めて生産拡大に取り組んでいる。
 「元気な農業 元気な地域 元気なJA」がJA紀の里の05年からの5ヵ年計画のスローガンだが、「農家の生きがい、やりがい、そして農業の活性化につながらなければ店の存在意義がない」(川原店長)という考えが基本にある。しかし、端境期などに栽培するのだから難しい面は多々ある。それを指導するのが営農指導の仕事になる。営農指導部門と連携した展開がされなければ生産拡大はうまくいかないことになる。

協同の心で店を盛り上げ 元気な農業・元気な地域をつくる

◆学校給食にも食材を供給

 だが大原部長は「作ればいいとだけはいえない」という。それは「オーバーフローしたときに、作れと奨励した責任をどうとるのか」という問題があるからだ。だから「営農指導は慎重にしなければならないし、生産者に判断してもらわなければいけない状況もあるので、生産者自身が判断できるようありとあらゆる情報を生産者に提供するのがJAの役目であり、そのうえで牽引していく」。そしてオーバーフローした場合は、販売部が「フォローアップする。そのためにめっけもん広場は販売部に属している」のだという。
 めっけもん広場は最近では学校給食への食材供給も始めたし福祉センターへも拡大したいと考えている。給食は決められたメニューに沿って食材供給しなければならない。そのためには誰が何をいつどれくらい生産できるのかを把握しなければならない。それができる体制がここではできているということだ。「あるものだけを売る」直売所から一歩踏み込んだめっけもん広場の姿をみたといえる。

◆野菜ソムリエが情報を発信

 三つ目は、消費者への情報発信だ。めっけもん広場には、JAファーマーズマーケット野菜ソムリエの資格を取得した永山由美子さんと前出の西野さんの二人がいる。野菜ソムリエについて川原店長は「私たちは販売のプロではないし接客技術もないので、食べ方や栄養価値などの情報を伝えていかないと消費者と生産者が結びつかない。そうした情報を伝え接客能力をアップさせる一つの方法」だと位置づける。
 実際には旬のレシピやその栄養価を掲示したり、売場で調理方法や食べ方を消費者から聞かれたときに答えたりしている。とくに野菜ソムリエのディスクが設けられているわけではなく、永山さんも西野さんも他の職員さんたちと同様に売場に出て、忙しく動き回りながら、これはどうやって食べればいいのかと考えている消費者に適切なアドバイスをしていた。

◆JAブランドから個人ブランドへ

 情報発信の定番といえるPOPだが、めっけもん広場では個々の生産者がつくったものが意外に少ないと思った。川原店長は「POPは努力の最初の段階だ。POPや見かけで売っているうちはまだ甘い」と厳しい。ミカンは、2000人来店したとしても買うのは1000人だ。それを1200人するためにはどんな努力が必要なのかと考える。消費者のニーズに応えた「間違いのない味のものを供給していけば固定客が必ずつく。そういう状態をつくること」だという。それは「紀の里」ブランドからさらに一歩進めて「個人ブランド」をつくることであり、「それが農家の仕事」だとも。
 調理方法や食べ方、健康や栄養などの情報はどんどん発信していくが、最終的には消費者が美味しいといえる味が決め手になり、それをどう作れるかが勝負の分かれ道になるということだろう。

◆安定した農業が確立されなければ成功とはいえない

 これまで生産者と消費者の架け橋としてめっけもん広場がどのような役割を果たしてきたかを駆け足でみてきた。その背景にあるのが「協同の心」だと石橋組合長はいう。生産者個人個人は自分の作った農産物を一つでも多く売りたいと思っている。高齢者や女性もいれば市場出荷もしている生産者もいる。売れるからといって売場面積を広く確保せず、多少の犠牲をはらっても高齢者のものでも売れるようにお互いに助け合う。そうした「協同の心」でめっけもん広場を発展させていくことが、市場流通とは異なるファーマーズマーケットの存在意義だということだ。
 めっけもん広場は毎年2月に出荷者大会を開くが、JAの総代会では7割程度の出席率なのにここにはほとんどの世帯が出席するという。そして毎年、寸劇やミュージカルを上演し、協同の理念の大切さを分かりやすく訴えている。
 めっけもん広場はファーマーズマーケットの成功例として紹介されることが多い。しかし川原店長は「売れるものを自分たちでつくっていこうというのが最初の段階だった。そこから安定した農業をつくる段階はこれからだ。成功といえるのはそれができてからだ」という。そして「まだまだこれからが楽しみだ」とも。

(2006.1.25)



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