農業協同組合新聞 JACOM
   

特集 「食と農を結ぶ活力あるJAづくりのために2008」


どうするのか日本の農業―日本農業の基本戦略を考える

農業政策を主要政党に問う


 「戦後農政の大転換」をうたった品目横断的経営安定対策は先の参議院選挙における自民党大敗の原因の1つとなった。また民主党は農政を3大政策の1つに掲げて大勝した。その結果、自民党は農政見直し案をまとめ、必要な予算を07年度補正予算と08年度予算で要求、昨年末の政府予算案に盛り込まれた。一方、国際的には地球温暖化対策としてバイオ燃料の原料となるトウモロコシなどの農産物利用が拡大し、食料としての穀物生産と競合する状況にある。そうした中で日本農業の基本的戦略はどうあるべきか、議論の深化が期待される。そこで本紙は東京農工大学名誉教授の梶井功氏をインタビュアーに各党から農業政策を聞いていく。初回は自民党、民主党の登場となったが、次回からは公明党、共産党、社民党、国民新党等の登場を予定している。

転作メリットを拡大「品目横断対策」見直す
転作を推進し自給率をアップ 飼料用米を転作作物の対象に
衆議院議員 谷津義男氏に聞く  自民党
聞き手:梶井 功 東京農工大名誉教授

谷津義男氏
谷津義男氏

◆生産調整に新たな対策

 梶井 世界の食料事情が大きく変わってきた中で日本の食料自給率低下は危機的です。
 谷津 自給率60%を超えていた昭和37年ごろの水準にまで戻すにはどうすればよいか、根本はやはり農家所得なんですね。生産者の意欲を刺激しないといけません。そこを予算でどう確保するかが課題です。
 梶井 それにふさわしい内容は農水予算の平成20年度概算要求には見られませんが…
 谷津 そこで、今年度補正予算で800億円、20年度当初予算の追加で300億円、合計1100億円で「米政策と品目横断的経営安定対策見直し関連対策」というのを実施します。
 梶井 新聞記事だけでは中味がよくわかりません。
 谷津 転作を推進して自給率アップを図る対策です。19年度産米では生産調整をしなかった面積が約7万haあります。また米の需要は年々減少しており、これを面積に換算すると約3万haとなります。20年産では合計約10万haの生産調整が必要となり、これが自給率をさらに下げる要因になります。
 梶井 そこで転作メリット増大に力を入れるわけですね。
 谷津 「見直し関連対策」には8本の対策を盛り込みました。うち転作の推進は「地域水田農業活性化緊急対策」です。
 この緊急対策では、生産調整に協力して麦、大豆、飼料作物などを作るという5年間の長期契約を結んだ生産者に10a5万円の一時金を支払います。
 梶井 条件はつきますか。
 谷津 5万円は19年産の生産調整実施者の場合です。しかしこれまで実施しなかった人(未達成者)が20年産から新規に取り組む場合にも少し差はつきますが、3万円を支払います。契約の相手は各地にある地域水田農業推進協議会です。
 梶井 上限はありますか。
 谷津 1人100万円ですが、都道府県協議会が認めれば、それ以上を支払いますから実質的には青天井です。
 梶井 転作品目は限定されていませんか。

◆飼料用米に重点を置く

 谷津 地域協議会が決めた品目はすべて転作作物とみなして生産調整にカウントします。
 それから飼料の高騰で畜産農家が大変困っていますから、飼料用米を転作作物の対象としました。バイオエタノール米も対象です。それらの低コスト生産技術を確立するため、3年間の契約を結んだ場合、踏切料として緊急一時金5万円を支払います。とにかく稲作農家はコメを作りたがりますからね。
 鹿児島や宮崎などは昔、二期作をしていたのだから飼料用米をつくってもいいんじゃないかという話題も出ています。
 梶井 麦や大豆を作るのはムリな水田がありますから、非主食米づくりは良いことです。問題は価格差です。
 谷津 先ほど申し上げたとおり、3年間の契約を前提として、10a当たり5万円の一時金が出ます。それよりも飼料用が食料の市場に出てくると困るので出てこない品種を選びます。その中には10a900kgも獲れる品種があるとのことです。
 梶井 「食料自給力の技術的展望」(1976年農林統計協会刊)をまとめたとき、、一緒に研究した試験場の方たちは1tは可能だといっていましたよ。ところで、この「緊急対策」というのは産地づくり交付金とは別ですか。
 谷津 もちろん別個の予算措置です。ただ産地づくり交付金は3年間固定なので面積が広がると薄まってしまいますから、そうならないような次年度からの予算づくりも必要です。
 自給率を上げるためには消費も伸ばす必要があります。このため農業と商工業が連携して付加価値の高い加工品をつくる場合には減税措置を講じるといったきめ細かい対策もあります。
 梶井 バイオマスですが、食料と競合しないように木質系で開発していくとの方向を出しているのは正しいと思います。
 谷津 コメをエタノールの原料にするのはまだ先のことです。当面は飼料用米が重点です。
 梶井 食料用の転作品目としてはトウモロコシももっと増やしたほうがよいと思いますが…。
 谷津 地域の協議会が決めればトウモロコシも転作作物として認めます。地域によって気象条件や土壌が違いますから一律にやるのは危険です。
 梶井 この見直しは大きいですね。生産調整も変わってくると思います。
 谷津 大転換ですよ。生産調整もうまくいくと思います。
 梶井 しかし食糧法が生産調整は団体のやる仕事だとしているのはうまくないですよ。
 谷津 それが未達成面積約7万haもの原因になりました。失敗でしたね。申し訳ないけど。そこで今度は農業者団体と国・都道府県・市町村が適切に連携して取り組むこととしました。これがコメ政策見直しの1つです。
 梶井 すると食糧法改正ということになるのですか。

◆市町村の「特認」設ける

 谷津 現在の食糧法で対応できます。
 それから品目横断的経営安定対策の見直しでは、面積要件を満たさなくても市町村が認めた担い手の加入を認める特認制度を新設します。現行の知事特認制度は全く活用されなかったため市町村の特認に代えました。
 今後は「地域水田農業ビジョン」において担い手として位置づけられた認定農業者と集落営農は市町村が認めれば加入できます。
 梶井 集落営農で生産コストを下げている組織はたくさんあります。そこを評価して加入を認めればよいと考えますが、5年以内の法人化とか何とか条件をつけるのはまずいと思います。
 谷津 確かにただちに法人化なんてムリな集落営農もありますからそういう画一的な指導等はやめます。しかし法人化をめぐって浮かび上がったのは、生産費がわかってきたことです。それまでは自分たちの労賃をはじめコストがいくらなのか全くつかんでいなかったけれど、法人化を議論する中で初めて自分たちの農業が赤字だという認識が出てきたのですよ。そうしたことを基に今度の政策を打ち出しました。
 梶井 次に米価低落の下で農家が問題にしてきたのは、収入減少の影響緩和対策(ナラシ)の中に米価低落に対するピン止めがないことです。
 谷津 ナラシ対策も見直します。今、作業中です。
 梶井 民主党の戸別所得補償法案が受けているのは、そこのところだと思います。
 谷津 民主党案は減反しないけど生産数量目標を決めるのですから減反と同じです。また市場価格が生産費よりも下がったら生産費まで補償するといいますが、生産費をいくらにとるのか誰にもわかりません。経営面積が小さいほど生産費は上がりますから、基準のとり方によっては小規模農家には結局助けになりません。
 梶井 規模の大小で受益に差が出るのはやむを得ません。しかし、一定の不足払いがあることは大事なところだと私は思います。「見直し関連対策」で、ほかにも今までと違った特徴点はありますか。

梶井氏×矢津氏

◆高齢者も認定農業者に

 谷津 認定農業者は65歳までといった一部市町村で行われている年齢制限は廃止または弾力化することとしました。また産地づくり交付金は小規模農家、高齢農家にも支払われます。品目横断的経営安定対策の加入者でなくても、生産調整を実施している農家にはすべて支払われるわけです。
 梶井 生産調整の問題に戻りますが、秋田県の八郎潟では生産調整をまじめに実施してきた農業者ほど苦しんでいます。
 谷津 そこなんですよ。だからその人たちを助けなきゃと私どもも現地に出向き、生産調整の参加者、非参加者と別々の会場で車座になって話し合いました。その結果を今度の見直し対策に盛り込みました。
 梶井 最後に、農地制度についての検討作業はどんな状況ですか。
 谷津 農地の出し手、受け手の情報を市町村段階で一元化するとともに、コーディネーターを置いてモデル的に農地を面的にまとまった形で利用集積するために必要な予算を新年度で措置することにしています。農地法等の改正の必要も出てくるので、その作業もしています。
 梶井 改正が必要なのはどういう点ですか。
 谷津 現行では農業委員会や、農地保有合理化法人等が行っている農地の利用調整等に関する改正が必要です。
 梶井 農地の出し手の情報を受け手に知らせたり、両者の要求を調整する機能は農協の農地保有合理化法人でも果たせますが。
 谷津 市町村段階の農地保有合理化法人はあまり動いていませんし、それに地域によって、その活動にうんと差があります。
 梶井 そこをどうするかを、まず議論したほうがよいと思います。
 谷津 いや、今の農地保有合理化法人も面的集積機能を担えるようにと考えています。
 梶井 高い報酬を払ってコーディネーターを置くとのことですが、そういう役割は農業委員会の農地主事あたりが果たしてきました。その農地主事の必置規制がなくなりましたが、その復活とか農業委員会の機能をもっと活発化させたほうが良いと思います。
「衆議院議員 筒井信隆氏に聞く 民主党」へ

※谷津・筒井両議員に対する梶井氏のインタビューを終えては、筒井議員インタビューの最後に掲載。

(2008.1.15)

社団法人 農協協会
 
〒103-0013 東京都中央区日本橋人形町3-1-15 藤野ビル Tel. 03-3639-1121 Fax. 03-3639-1120 info@jacom.or.jp
Copyright ( C ) 2000-2004 Nokyokyokai All Rights Reserved. 当サイト上のすべてのコンテンツの無断転載を禁じます。