農業協同組合新聞 JACOM
   

特集 「食と農を結ぶ活力あるJAづくりのために2008」


どうするのか日本の農業―日本農業の基本戦略を考える

座談会 その1

自給率向上を真に実現する
農業政策への根本的な転換を


出席者(順不同)
阿部 長壽(JAみやぎ登米代表理事組合長)
幸渕 文雄(愛媛県農山村振興協会顧問)
村田  武(愛媛大学教授)
鈴木 宣弘(東京大学教授)
北原 克宣(立正大学准教授)
司 会(本紙編集部)

 本紙2008年新年号では「どうするのか日本の農業―日本農業の基本戦略を考える」を特集テーマとした。07年は飼料穀物の高騰をはじめとして世界的な食料供給の不透明さが明らかとなったが、日本では米価の暴落に象徴されるように生産現場は今後の農業経営の持続や食料の安定供給にとって深刻な事態に見舞われている。食料自給率が40%を切るなか、農業政策をどう抜本的に立て直すかが問われているといえる。
 稲作地帯、果樹地帯の現場レポートをもとに「独立国家として成立するのかどうかという危機が目の前にきている」との認識のもと、ここでは「基本戦略」を考えるための総括的な議論をしてもらった。
座談会の様子@

食と農を守る地域からの積み上げと消費者との連携を国民的な広がりに

◆どう見る?様変わりした世界の食料事情

阿部 長壽
あべ・ちょうじゅ
昭和10年宮城県生まれ。
宮城県立佐沼高等学校卒。宮城県立農業講習所卒。JA宮城中央会参事、仙南農産加工農協連合会常務理事、JA中田町代表理事組合長、平成10年みやぎ登米農業協同組合理事、16年同代表理事組合長。

 ――食料をめぐる国際情勢が様変わりし、かなり穀物価格の高騰が構造的に続くのではないか、これは一過性ではない、というのが常識的な判断になりつつあります。
 日本は先進国ではまれな食料海外依存国です。国際的な環境変化は日本一国だけでどうなるものでもありませんが、国内の問題は世論を集めれば変えることができるという観点で日本農業の基本戦略を考えていくべきだと思います。
 最初に食料をめぐる国際的な状況についてどうご覧になっているか、これからどう推移するかを話し合っていただきたいと思います。

 村田 国連食糧農業機関(FAO)が昨年11月に食糧見通しに関して公表した「農産物の高価格と不安定性」という特別報告にまず注目しておきたいと思います。
 一昨年来、世界の農産物は主要食糧、飼料を中心に上昇し、それがパスタ、食肉、牛乳などの小売価格にも反映した食料インフレ現象が起きており、それは輸出国、輸入国、先進国、途上国を問わない事態となっているわけですが、FAOはこの報告のなかで、今回の幅広い農産物価格の高騰はWTO(世界貿易機関)の自由貿易体制、つまり、国際的に規制緩和が大いに進んだなかでのことだとして4つの要因をあげています。
 1つは国際投機資本の農産物市場への流入によって、需給ひっ迫を反映した価格上昇幅を超える投機的な動きがあることです。
 2つめに、原油価格の高騰が農業生産コストを引き上げている点と、他方では農産物のバイオ燃料需要を高めており、それによる農産物価格高騰という側面です。
 3つめは、原油高による農産物の輸送コストの引き上げです。
 そして4つめは、ドル安。05年以来のドル安傾向が一般にドル表示される国際農産物市況を高くしているということです。
 現在の状況はこういう要因の絡み合いだと整理しています。ただし、今後については、中長期的にこのまま価格の高騰が続くとは言っていないんですね。
 むしろ価格の不安定性、乱高下の危険性が増しているということを報告している。もちろん現在の高騰局面ではとりわけ低開発途上国への食料援助の緊急性が高まっていると言っていますが、価格の不安定性が増している、乱高下の危険性が高まっているというFAOの指摘は非常に妥当ではないかと思います。
 米国ブッシュ政権の新エネルギー政策による大幅にバイオエタノールを増やすという戦略で、ADM社を筆頭に多国籍アグリビジネスが乗り出しています。ですから、基本的にはバイオエタノール製造は右肩上がりでいくのではないかと見ていますが、バイオエタノール価格も原油価格と連動しながら米国内では価格変動が大きい。
 もうひとつは中国の大豆輸入をはじめとする穀物需要増大が大きいなかで穀物需要の伸びをどう見るか。中国も穀物輸入国に転じて右肩上がりで需要がどんどん伸びていくと見ておいていいのかどうか。最近では食料とエネルギーの需給ひっ迫で盛んに争奪戦と言われますが、単純に食料争奪という見方をすると失敗するのではないかと思いますね。
 鈴木 私も短期・中期で見れば食料・飼料価格の高騰や食料がなかなか手に入りにくいという深刻な状況にあると思いますが、もう少し長期に見ますと、たとえばバイオ燃料の問題についてはセルロース系からのエタノール製造が実用化すれば食料・飼料用とエネルギー用との競合は相当緩和されるわけですね。
 それからこれまでの歴史から見ても需要が伸びたときには、実際には相当な供給増加が起きて価格高騰が調整されてきたという経緯がありますので、現在の食料・飼料価格の高騰が長期的にもどんどん悪化するかどうかについては、もう少し慎重に考える必要があると思います。
 ただ、いずれにしても食料というのは戦略物資であって、日本にとっては端的にいえば、常に「兵糧攻め」の危険を念頭に置いておかなければならないと思います。われわれの体を支えるエネルギーをすでに61%も輸入農産物に頼っているなかで、かりに豪州との自由貿易協定(FTA)が例外品目のない形で結ばれてしまえば食料自給率はさらに30%にまで下がる。それだけでは済まず、日米のFTAも推進したいと考えている人たちが水面下で動いているわけです。それらを考えるとわが国の自給率は放っておけば農水省の試算のように12%まで下がるかもしれないというところに向かって進んでいるということですから、どう食料を確保するのかということは日本にとって非常に深刻な問題で、独立国家として成立するのかどうかという危機が目の前に来ていると受け止めなければいけないと考えています。

◆不安定性増す国際穀物価格

鈴木 宣弘
すずき・のぶひろ
1958年三重県生まれ。1982年東京大学農学部卒。農林水産省、九州大学教授を経て2006年より現職。専門は、農業経済学、国際貿易論。食料・農業・農村政策審議会委員(会長代理、企画部会長、畜産部会長、農業共済部会長)。

 ――FAOが指摘する価格の不安定性と乱高下の危険性とは、たとえばトウモロコシは2倍に上昇したわけですが、2倍は上がり過ぎでそこには投機の影響があるだろうと。乱高下が生じるというのは、ファンドは儲からなければさっと引き上げることもあるし、増産要素もあるから、という見方に立っているということですか。

 村田 そうではなく価格の乱高下といっても需給は相当ひっ迫していますから、基本的には高値であって、そのなかでの乱高下の危険性ということです。

 ――さらに急激な需給のひっ迫は起こり得るということですね。

 村田 はい。国際的な規制緩和で関税が引き下げられ課徴金制度もないなかで国際価格が変動するわけですから、輸入国にとっては輸入農産物がものすごく変動することも想定されるということです。
 鈴木 さらに補足しておきたいのは、非遺伝子組み換え農産物の調達が非常に難しくなることも考えられることです。
 すでにバイオ燃料の増産で遺伝子組み換え農産物の作付け比率がどんどん上がって、日本が非遺伝子組み換え農産物を買おうとすると非常に高いプレミアムを払わなければならなくなっている。そのうち種を独占するモンサント社が非遺伝子組み換え品種の種を販売しなくなり、そもそも非遺伝子組み換え農産物は手に入らなくなるとの見解さえ出てきております。豪州でも塩害と干ばつに強い小麦を作らなければ増産が困難になってきており、そのためには遺伝子組み換え品種に頼らざるを得ないということです。
 先ほどは、需給がひっ迫すれば増産になると言いましたが、それはこうした遺伝子組み換え技術を動員して確保できるということであって、日本のような立場でいえば、非遺伝子組み換え農産物はほとんど手に入らないということになりかねないということも併せて考えておかなければならないと思います。

◆米国のバイオ燃料政策の背景と深刻化する食料生産環境

 阿部 この問題で疑問に思っていることは、なぜ米国が急にバイオエタノールの増産ということを言い出したのかということです。やはりイラクで失敗したのでということでしょうか?
 鈴木 イラク問題のひとつ前に、米国は長い間の穀物価格の低迷で農村不況が深刻化し02年農業法で復活させた不足払い制度で農家の所得を補てんしていたということがあります。その財政負担が大変になってきて、米国政府は穀物価格を高騰させて何とか財政負担を減らそうとし、中国がトウモロコシをどんどん輸入するようになるから価格が上がると目論んでいたらなかなか価格が上がらない。
 そこでしびれを切らして国内需要で何とかしなければいけないと思って、バイオ燃料に目を付けたところに、9・11が起きてコンセンサスが得やすくなったということで、バイオ燃料需要で価格を上げる、という動きになってきた。これは農林中金総研のRuan主任研究員が指摘しております。しかも、もし復活した不足払いの補助金についてWTO交渉で各国から叩かれて削減しなければならなくなっても、農業予算ではなくエネルギー省の予算で別途農業補助金を確保できることになった。大義名分があるわけです、エネルギー自給率を高めるという。そういう形にうまくシフトしたということだと思います。
 阿部 バイオエネルギーブームは世界の食料に大変化を引き起こしているということだと思いますが、このブームは一時的なものかどうかについてはどうでしょう。
 鈴木 ブッシュ大統領は07年の年頭教書で350億ガロンのバイオエタノール製造をめざすといったわけですが、それをすべてトウモロコシで製造したら、米国のトウモロコシ作付け面積を全部使っても足りないということでした。ところが、上下院で通った具体的な法案では2022年までに360億ガロンを使用義務目標とするが、そのうちの210億ガロンはセルロース系で製造するということです。つまり、食料・飼料と競合しないところにシフトするというメッセージは出しているわけです。実際にセルロース系に移行する方向を考えていないとエネルギーと食料・飼料との競合になってしまうわけですが、ただ、それがいつ実現するかによって現在の危機的な状況が長続きするかどうかが左右されるということです。

 ――バイオ燃料の問題を整理すると、今はエネルギー価格が上昇しているので世界的には農産物がバイオ燃料のほうにシフトしている面があるということですが、エネルギー価格とは関係なくCO2対策として政策的に進めざるを得ないという側面もあるということですね。そのほか世界の食料事情としてふまえておくべきことはありますか。

 北原 私が懸念していることのひとつは環境の問題です。先ほども豪州の干ばつについての指摘がありましたが、とくに水の問題が深刻で、中国でも西部の砂漠地帯はもちろんですが現地の研究者によると華中、華北の大半の地域で水不足の状態だと言います。東北部には水田もありますし、今後、水問題が深刻化することも考えられます。
 そういう意味で食料供給の点からいえば、先ほどから指摘されているエネルギー需要問題に加えてやはり自然環境の変化がこれから大きな影響を与えることになるのではないかという気がしています。

◆輸入を前提にした国内農業政策を検証

 ――こうした国際的な状況のなか今後、食料価格の乱高下も懸念されるとはいえ、昔のような安値に戻ることもないだろうという見通しです。そこで次にこれが日本の農業に与えている影響についてお話いただけますか。

 幸渕 私からみかん産地で現実に起きている問題について報告します。みかんは生産過剰になって非常に苦労して国内で減反しはじめた、にもかかわらず、オレンジ・果汁の自由化がなされたわけですね。
 生果にはみなさん非常に関心があったと思いますが、実は影響が大きかったのはジュースです。ジュースが完全に自由化されて非常に安い価格で日本に入ってきた。一言でいえば日本のみかん総生産量を超えるような量が外国から入ってくるようになり、このことによっていちばん土台になるべき加工原料価格が崩壊してしまったのです。
 一方、輸入されるオレンジジュース原料が生果で100万トン換算にまでなったわけですが非常に安い値段のため、これを利用しながら農協系統も輸入原料と国産のみかんジュースをブレンドしてみかんジュースを作ってきた。みかんのすそ物は加工原料に回されるわけですが、これが通常は20%になる。つまり、2割は加工向けということですから、この価格がどのくらいになるかによって生産者の手取りにも大きな影響があるわけで、輸入の安いジュース原料を利用して加工してきたわけです。
 ところが、ここに来て輸入オレンジジュースの価格が上昇し始めた。かつては1リットル150円水準だったのが、06年には250円、07年には350円になって加工事業に非常に大きな影響が出ています。
 村田 つまり、農産物輸入自由化のなかで、畜産は安い輸入飼料原料に依存することで展開してきたわけですが、柑橘というのは加工仕向品をどう処理するかということが全体の農家収益に非常に決定的な意味を持った。そこを国の政策で加工原料部分を1kg35円、あるいは40円水準で支えたときはよかったわけですが、その支えも引き下げられ今では10円を切っています。
 幸渕 そして今度は輸入価格の高騰によって加工事業そのものも振り回されることになっております。
 村田 振り返ってみると農業基本法農政以降の展開は米だけは自給政策型でしたが、麦、大豆をはじめほとんどすべての農産物について市場開放し、とくにプラザ合意後の円高以後は、安い農産物輸入を前提にして国内農業を展開してきた面があるわけです。
 それが今のように逆転したときに畜産飼料や柑橘などに象徴されるように大変な事態となっていることを改めて認識しておく必要があると思います。
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(2008.1.21)

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