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【土づくり推進フォーラム】
亜リン酸で農産物の高品質化・収量増 土づくりシンポジウム

 「ニッチな資材だが、農産物の高品質化、収量増に大きな効果がある。全国的に利用が広がっている」と紹介されたのは亜リン酸。野菜、果実、水稲などさまざまな農産物で「1個重が増えた」、「根張りがよくなった」などの効果が報告されている。12月3日、都内で開催された「土づくりシンポジウム」でJA全農肥料農薬部が発表した。

◆リン酸より水溶性・吸収性が高い

JA全農肥料農薬部の小宮山鉄兵氏 土づくりシンポジウムは、土づくり推進フォーラム(事務局:日本土壌協会)が主催し、毎年夏と冬に2回開催しているイベントだ。環境保全型農業や土壌改良資材の新技術など、毎回異なるテーマで開催している。
 今回のテーマは「農作物の品質向上と土づくり」。研究者や生産者など、4人が農産物高品質化の取り組みを発表した。
 この中で、JA全農肥料農薬部の小宮山鉄兵氏(=写真左)は「亜リン酸」の効能とさまざまな試験結果について発表した。
 亜リン酸は、欧米では1990年代末頃から、その効能が報告され始め、日本では2002年頃から使われ始めた。商品化された例としては、大塚アグリテクノの「ホスプラス」、「亜リン酸粒状肥料」などがある。
 通常、肥料として使われるリン酸(オルトリン酸)は、H3PO4だが、亜リン酸はH3PO3。分子数が少ない分、水によく溶け、作物への吸収もよい。一方、培土への吸着率はオルトリン酸が22%に対し、亜リン酸は6%と非常に低く、それだけより多く作物に吸収されやすい性質を持つ。


◆栽培暦に取り入れているJAも

水稲の育苗箱でも、リン酸のみを施用したのに比べて明らかに根張りがよくなった 葉面散布、培土施用のどちらでも利用でき、いずれの利用法でもさまざまな効果が報告されている。
 葉面散布では、佐賀のウンシュウミカンで着花・果が促進され収量向上、長崎のジャガイモで春・秋穫りともに1個重が増えた、北海道の小麦で収量増と穂発芽抑制、などの試験結果が報告されている。
 培土施用では、ネギ、ニンニク、ラッキョウなど主にユリ科の作物で高い効果が報告されており、鳥取のネギでは地上部・地下部ともに生育向上、兵庫の黒大豆では大粒割合増などの効果があった。育苗箱への亜リン酸の施用を、栽培暦に取り入れているJAもあるという。また、水稲の育苗箱でも、リン酸のみを施用したのに比べて明らかに根張りがよくなった(右写真参照)。


◆高価な資材、過剰施用に注意

 小宮山氏は亜リン酸の利用について、いくつかの注意点も指摘した。
 一つは、資材の価格である。実際の使用量と平均的な価格で試算すると、葉面散布では10aあたり約300〜400円。培土に混ぜて施用する場合は、128穴のセルトレーで1株あたり1.1〜2円ほどかかるという。「高価な資材であり、費用対効果を見極めて効果的に使ってほしい」という。
 また、亜リン酸は少ない量でも高い効果がある一方、過剰施用は生育障害をもたらすことがわかっている。「使用量の上限が指定されている特定普通肥料ではないが、使う時にはメーカーの使用基準を遵守してほしい」と注意喚起している。
 こうした効用を持つ亜リン酸だが、実のところ、そのメカニズムはまだあまり解明されていない。亜リン酸の転流自体による効果、または、亜リン酸によって光合成産物が活性化されることによる効果、などの仮説が報告されているだけであり、小宮山氏は「今後のさらなる試験研究」への期待を述べた。


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