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本紙調査結果まとまる 「大規模農家と農業法人の経営状況とJAグループに対する意識調査」

08年度大規模農家と農業法人の経営状況とJAグループに対する意識調査
JAへの期待 やはり「販売力」の強化 ―大規模・法人経営
谷口信和 東京大学教授
(西川邦夫(東京大学大学院博士課程)本調査結果の整理)

本紙が実施している「大規模農家と農業法人の経営状況とJAグループに対する意識調査」の2008年度調査結果がこのほどまとまった。この調査は02年から毎年、全国の大規模農家や農業生産法人を対象に行っているアンケート調査で今年で7回め。今年度調査には551の経営体から回答協力を得た。

 集計結果の分析は東京大学大学院の谷口信和教授と西川邦夫氏に依頼した。同報告書から法人経営の現状とJAグループに対する期待と要望などを紹介する。

経営の多角化で成長をめざす

◆常勤の従業員が支える農業経営体へ発展

たにぐち・のぶかず
たにぐち・のぶかず
昭和23年東京都生まれ。東京大学大学院農学系研究科博士課程修了。名古屋大学経済学部助手、愛知学院大学商学部助教授を経て、平成6年から東京大学大学院農学生命科学研究科教授。主著に『20世紀社会主義農業の教訓』農山漁村文化協会、『日本農業年報50 米政策の大転換』農林統計協会(共著)、『農業経済学』東大出版会(共著)など。

 調査は今年3月に実施。551の大規模農家や農業生産法人から回答協力を得た。
 このうち法人が450、非法人の大規模農家が101となっている。最初に今回の分析対象となった経営体の特徴について紹介しておくことにしたい。(以下、質問によって回答総数は異なる場合もある)
 企業形態でもっとも多いのが「有限会社」で331法人。全体の71.5%を占める。次いで「農事組合法人」が91法人で20.9%と、両者で92.4%になる。
 「株式会社」は31法人で全体の7.1%にとどまっており、このうち22法人は株式譲渡制限のある農業生産法人となっている。また、有限事業責任組合LLPは2法人にとどまっている。
 表1は企業形態別に出資金額、出資者数などをみたものだ。
 平均出資金額は「株式会社(譲渡制限なし)」3622万円、「株式会社(譲渡制限あり)」2560万円、「有限会社」709万円、「LLP」300万円と企業形態に対応した序列となっている。ただ、出資者数は株式会社でも6人未満、有限会社では家族数と見合うと考えられる約4人となっている。
 一方、農事組合法人は平均出資金額が1394万円と有限会社の2倍近い。また、平均出資者数は約15人と多く、谷口教授らによる報告書では農事組合法人には「集落営農絡み」で設立されたものが「少なくないと推察される」と指摘している。
 ただし、表1から分かるように農事組合法人の出資額は300万円未満から1000万円以上までかなり幅が広く、しかもあまり偏りが見られず均等に分布している。こうしたことから農事組合法人では、多様な性格をもった組織づくりが行われていることがうかがえる、とも指摘している。
 法人の従業員数は全体平均で9人。内訳は常勤役員2.3人、正職員4.3人、パート1.9人となった。企業形態別にみると「株式会社(譲渡制限あり)」12.7人、「株式会社(譲渡制限なし)」24.3人、「有限会社」8.1人、「農事組合法人」9.7人となっている。
 一方、非法人の大規模農家とLLPはそれぞれ3.5人。こうした結果から、LLPは別にして、法人経営では出資者数の点からみると同族経営的だが、「労働力の面では家族経営の枠を大きく超えた経営体が成立していることが改めて確認できる」としている。
 また、従業員数の内訳で注目されるのは「パート」が平均1.9人なのに対して「正職員」が4.8人と2.5倍の水準となっていること。とくに「株式会社(譲渡制限なし)」に限ってみると、「パート」3.0人に対して「正職員」は実に18.3人となっており、全体としてパートへの依存は低く「基本的には常勤的雇用労働力に依存する法人経営が成立している」としている。

◆消費者への直売など経営の多角化を進める

 調査対象経営の作目ごとの経営面積を示したのが表2である。
 経営面積がもっとも大きいのが水稲。平均で19.88haとなった。ただし、法人では23.05ha、非法人では11.55haと大きな差がある。
 法人でも平均では決して大規模経営とはいえないが、表に示したように50ha以上の経営面積をもつのが21法人あり、そのうち5法人は100ha以上となっている。両者を合わせると全体で9.5%と1割に近く、大規模水稲経営が一定の位置を占めていることが示されている。
 ただし、法人であっても水稲では経営面積5ha未満が22.2%、10ha未満が36.2%もある。この点について報告書では「等しく法人の水稲経営といっても、そこには多様な水田規模と多様な部門にわたる経営類型が含まれている現実」があることを指摘している。
 これは水稲に限らず、露地野菜や、花卉などでも見られる状況で、特定の作目だけを取り出してみれば「大規模経営から零細規模経営まで幅広く分布」していることが示されている。ただ、いずれの作目も経営面積は法人のほうが非法人を上回っていることが分かる。
 表3は部門別の1経営当たりの販売額。土地利用型の作目より、施設野菜・花卉、果樹、茶、畜産のほうが平均販売額は大きい。茶や畜産では5000万円以上の経営が半数を占める。
 一方、米、露地野菜・花卉では平均販売額はそれらにくらべて低いが、それでも5000万円以上の経営が13%〜20%を占めるなど大規模経営体が存在していることを示している。
 表4は経営多角化の取り組み状況を昨年度調査と比較したものだ。小売店取引や消費者直売72.9%、直売所出荷60.4%、インターネット販売34.7%、直売所経営32.4%など、「多角化は何よりもまず消費者への直接販売をめざす販売の改善」(報告書)として取り組まれていることが分かる。これらのほとんどの項目で昨年度調査よりも回答率が上がっている。
 同時に、農産物加工や非農業関連事業への取り組みも、程度はわずかでも増えていることが示された。
 こうした経営多角化への取り組みを作目別、水稲経営面積別に傾向を分析したのが表5である。
 消費者への直接販売をめざす取り組みは付加価値の高い果樹でとくに積極的に進められていることが分かる。農産加工、観光農園への取り組みも群を抜いて高い。
 一方、野菜では小売店取引や消費者直売、直売所出荷、農産加工に積極的に取り組む傾向が見られるが、露地と施設をくらべるとこれらの取り組みは、露地のほうが高いことが分かる。露地野菜では周年的な販売が難しいため、施設野菜経営よりも直売、加工に力を入れるとみられる。
 また、水稲では果樹、野菜などにくらべて、多角化への取り組みでは積極性に欠ける傾向が示された。100ha以上の経営でやや高い数値が見られるが「規模と積極性の相関も明瞭ではなく」、総じて水稲経営では経営多角化の余地が大きく残されている、と報告書は指摘している。

◆4割が赤字、厳しい経営

 経営多角化などの努力をしているものの、経営収支の状況では回答を寄せた経営体のうち黒字は50%以上だが、どの企業形態でも40%前後は赤字となっている。企業形態でみると株式会社(譲渡制限あり)がもっとも黒字経営が多く、65.2%となっている(表6)
 その一方、「大きな赤字で経営転換を検討している」と回答したのは全体で4.4%ある。非法人経営で7.2%、農事組合法人で5.3%、有限会社で3.8%が回答した。
 収支状況を常勤役職員数別に分析した結果では、「3人未満」の経営体では赤字が53.3%と過半となっているが、「4〜5人」で黒字が50.5%となり、それ以降逆転する。常勤役職員数「4人」を「分水嶺として赤字収支基調から黒字収支基調への転換が見られる」と報告書は指摘、おおむね家族経営の枠を超えて法人化が実現された経営で黒字基調となっている点が注目される、としている。
 さらに常勤役職員数が増えるにつれて黒字の経営も増えている(「6〜9人」58.4%→「10〜14人」64.7%→「15〜19人」83.3%)ことも示されている。
 また、経営状況の一側面をみるために水稲について、経営面積別に3年前との販売額の増減を比較したのが表7である。
 「1〜5ha」では「増加(20%以上増加+増加)」は23.3%で、「減少(20%以上減少+減少)」が46.5%だが、「5〜10ha」で「増加」38.7%、「減少」32.6%と逆転する。それ以上の階層では「増加」との回答のほうが多くなっていることが分かる。とくに20〜50ha層では「増加」が50%を超えている。
 しかし、50ha以上層をみると「減少」が23〜40%も存在することから、大規模経営であっても決して安定的ではない状況も浮き彫りになっている。
 こうした厳しい経営環境のなかで、経営多角化がどう役割を果たしているかを分析したのが表8である。
 表7で販売額が「増加」したとした経営体と「減少」したものを比較すると、「増加」のほうがおおむね経営多角化に積極的に取り組んでいる傾向が示されている。こうした取り組みに積極的になることで販売額も増加し、「結果として規模拡大や収支黒字化を生み出すことに貢献している」と報告書は分析している。

JA利用の「二極化」への対応が課題

◆販売金額、増えるにつれてJAのシェア低下―米の出荷先

 経営改善のため販売先の多角化などの取り組みが大規模農家・農業法人では課題となっていることが今回の調査では明らかとなったが、谷口教授はこれを外部との提携という視点からJAとの関係を分析した。
 表9は販売金額別の米の販売先割合である。
 全体で「JA」と「連合会」を含めてJAグループへの出荷は45.1%を占め大規模農家・法人の最大の販売先となっている。しかし、販売金額が増加するにしたがって販売先としてのJAグループのシェアが低下していることが示されている。
 しかも、その低下傾向には2つの特徴があると報告書は指摘している。
 1つは販売額100〜500万円層の57.5%(JAと連合会計、以下同)が、同1000〜2000万円層では35.3%へと低下する点。この変化から読み取れるのはJAが占めていたシェアに替わって、集荷・卸売業者(16.7%が23.2%へ増)と直売所等での消費者への直売(18.2%が19.4%へ増)が増えているということである。
 もう1つは販売額2000〜5000万円層の48.0%が同1〜3億円層では26.0%へ低下することである。ここでは直売所販売の増加(17.4%→24.6%)に加えて、加工・外食業者(4.0%→16.7%)や小売業者(8.4%→13.3%)、生協等の消費者グループ(4.4%→6.9%)が販売先として増えていることが分かる。
 こうしたことから一口に米の販売金額が増加するにつれてJAへの販売比率が低下するといっても、販売規模によって「いわゆる『JA離れ』を引き起こしている相手が大きく異なっていることに注意せねばならない」と指摘している。

◆JAの強みはどこにあるのか?

 では、どういう理由でJAを販売先にするのか、それとも他の業者等にするのか。その理由割合を回答してもらったまとめが表10である。
 これによると同じ理由であってもJAを選択するか、他を選択するか分かれていることが示されている。
 たとえば「価格水準」の項をみると、販売額500〜2000万円層では34.5%〜28.1%が価格水準を理由にJAに出荷しているが、同時に63.0%〜52.5%がその同じ理由から他を選択していることが示されている。これは個々の経営体が属するJAと、競合する他の販売先の対応とが地域によって異なるからと考えられる。ただし、価格水準に関しては、どの階層でもJA以外を選択する理由として挙げられている割合のほうが高く、今回の調査対象では価格面では「JAが他の業者等に大きく水を空けられている実態」が示されている。
 ただ、「取引の継続性」については多くの階層でJAのほうが優位性を示した。「決済サイト」についても販売額5000万円層まではJAが優位性を示している。
 一方、他を選択する理由として挙げられたのは価格水準のほか、「価格の安定性」と「情報の入手」である。とくに情報の入手についてはJAより他の業者等のほうが優位と考えていることがほとんどの階層で示された。
 これに対してJAが優位に立っているのは、技術指導、出荷作業の簡便性、政策支援、経営管理支援だ。出荷作業の簡便性を除けばJAを選択する理由としては圧倒的であることが示されている。
 谷口教授はこうした分析結果から「金と情報といった販売上の根幹を占める理由で他の販売先が優位に立っていることがJAの地盤沈下の背景。しかし、他面では技術、地の利、政策連動、経営管理といった販売を支える条件では明らかに他の販売先にくらべて優位に立っている」と指摘、今後これらの点でさらに優位性を示すとともに、価格水準や情報提供などの点を大きく改善することが「米販売におけるJAの地位回復にとっては避けられない課題だ」と強調している。

◆個別のニーズに柔軟に対応を

 表は掲載できないが、露地・施設野菜の販売先についても、JA・連合会のシェアは35%前後で最も高い。次いで両者とも直売所が20%近くを占める。
 ただ、露地では販売額2000万円未満層でJAへの出荷割合が高いが、施設では5000万円以上層のほうが高いという対照的な傾向が示されている。
 販路選択の理由から分析した結果、露地野菜では2000万円未満層は取引と価格の安定性を重視してJAや直売所への出荷を選択しており、また、JAの技術指導、情報入手、出荷作業の簡便性も有力な選択基準になっていることが分かった。
 ただし、2000万円を超える層になると、同じように取引と価格の安定性を志向しながらも、加工・外食業者、量販店などとの直接取引に乗り出す傾向がうかがえる。それは契約栽培が「経営上重要になるからではないか」と報告書は分析している。
 一方、施設野菜では、露地より計画的な生産が可能となることから、取引の継続性が重視されJAを販売先として選択することに結びつくようだ。また、施設野菜では施設建設にあたって政策支援の取りつけ、団地化促進などにJAの果たす役割が大きいことから、5000万円以上層でのJAへの出荷割合が高まっているのではないか、とも推測している。
 このように法人経営は個別のニーズに即して多様な販路開拓をしており、JAにとっては「ニーズに柔軟に対応することが求められている」と指摘した。

◆規模拡大にともないJAに結集する面も

 表11は生産資材の購買先割合をまとめたもの。JA・連合会の割合が高いのは「肥料」、「農薬」、「米袋」であり、「農業機械」はメーカー、「園芸用施設・資材」では農業資材業者が優位にある。
 ただし、これも経営規模によって傾向が異なる。
 米の販売金額別で分析した結果では、たとえば肥料はJA・連合会の割合が平均で58%となっているが、2000〜5000万円以上層では71.2%、5000万円〜1億円層では67.7%と高くなっており、大規模経営ほどJAへの結集率が高いという結果だ(表12)。谷口教授は、大規模経営ほど計画的な生産・出荷体制が求められており、「スポット買い」的な手当ではなく、継続的・安定的な取引を望んでいることが背景にあるのではないかとしている。一方、むしろ比較的小規模な経営でスポット買い的な行動が取られているのではないかとみる。肥料のホームセンター利用はどの階層でも率は低く、1000万円〜1億円層では最大でも0.9%にとどまっている。しかし、100〜1000万円層では2.5%〜3.5%となっており、ここに経営規模が相対的に小さい層でのスポット買いの傾向がみてとれる。

◆大規模経営で判断が分かれるJA利用

 経営規模が拡大していくにつれて、設備投資のための長期資金や、雇用者への賃金支払いのための短期資金などの調達が重要になる。表13は経営部門別の平均借入構成率である。
「JAバンク」の利用率は米、麦、大豆などの土地利用型経営で高く、露地・施設野菜や果樹、畜産などではやや低いという傾向がみられる。
 ところで、大学院の西川邦夫氏は今回の調査結果をもとに法人経営のJA利用構造について分析している。
 図1は購買利用率と販売利用率の相関関係を販売金額別にみたものだ。図に示されたように販売額500万円以下層ではJAの利用について販売、購買に連動性がなく、ばらつきがみられる。
 一方、1億円以上層では販売と購買の連動性が見られる。そこには販売・購買とも全面的にJAを利用する経営と、利用しない経営とに分かれることが示されている。金融利用と販売利用との連動性についても同様に分析しているが、そこでも図1とまったく同じ傾向が示されている。
 西川氏は大規模経営はその時の事情でJAの利用について選択をしているが、「経営が成長していくにつれてそのような選択の積み重ねによってJAを利用する経営と全く利用しない経営へと分化している」と指摘している。担い手対応などJAグループの経済事業がこれにどう対応するかが問われているといえるだろう。

米の生産調整、「行政の責任で」が大規模層の声

◆生産調整に行政関与を期待

 最後に米政策への評価とJAに対する期待について今回の分析を紹介しておきたい。
 表14は今後の生産調整のあり方についての意見を経営面積別にまとめたものである。
 ここに示されているように生産調整について行政の関与を強める方向を求める意見は20ha以上層では50%を超えている。さらに50ha以上の大規模層では「行政が責任を持って実施する方向に戻すべきである」という意見のほうが優位になっている。
 一方、生産調整を廃止して直接所得補償を実施すべきである、という意見は10ha以下の層で優位を占める。こうした結果から大規模経営ほど政府の責任による生産調整の実施を求めており、直接所得補償に期待する志向は弱いと報告書では指摘している。
 このような大規模・法人経営が米についてJAに期待することを聞いた結果が表15だ。高価格での販売、さまざまな販売努力といった項目での回答が高い。そのほか有利な資金対応、高レベルの営農指導、細やかな情報提供などと続くが、経営規模によって期待に差があることに注意したい。また、「特に期待することはない」との回答もかなりの率になっていることもしっかり受け止める必要があるだろう。
 谷口教授はJAへの期待はやはり販売力にあり、とくに大規模層ではそうした「真ん中ストライク」の期待が高いということを改めて受け止めるべきだと指摘している。

(2008.12.05)