クローズアップ 農政・フードビジネス

農政

一覧に戻る

【米需給調整と備蓄対策】食糧部会 慎重論続出「米政策全体像示せ」

・米価9カ月連続下落
・在庫300万t超す
・米生産の安定をめざせ

 戸別所得補償モデル対策への加入は132万件(集落営農組織を含む)と昨年の生産調整実施数の120万生産者を超えたことから政府は米の需給は引き締まるとの見方を示している。
 しかし、米価は昨年9月から9カ月連続で下落。販売不振で21年産米は30〜40万トンの持ち越し在庫が出るのではないかと懸念されていることに加え、22年産米の豊作や過剰作付けに対する対策が不透明なことに生産現場の不安が高まっている。
 こうしたなか政府・民主党は今後の備蓄政策についての議論を始め、審議会食糧部会に23年度から棚上げ備蓄へ転換する考えを提示した。しかし、来年度からの戸別所得補償制度の制度設計や米・水田農業政策の全体像が不明なことや、財政の持続性などの観点から慎重論が続出した。米の需給問題と備蓄政策をめぐる議論をまとめてみた。

100万トン棚上げ備蓄を提起

需給調整対策は? 過剰対策構築不可欠

 

◆米価9カ月連続下落

7月30日の食糧部会。佐々木政務官は「棚上げ備蓄への転換」を提起したが…… 21年産米の価格(相対取引価格)は、昨年9月の60kg1万5163円から下がり続け、今年6月には同1万4120円に落ちている。20年産は同1万5085円。全銘柄平均で938円と1000円近く下がっている。
 下のグラフに示されているように下落は9カ月連続。過去3年の価格推移とくらべると大きく様相が異なる。
 農水省が6月に開いた米流通に関する情報交換会で、卸関係者は20年産の在庫が持ち越され、その消化が優先されたとし、農水省も「まず20年産から売られ21年産はその次。それでジリジリ下がっていったのではないか」。
 ただ、7月30日の食糧部会では、「戸別所得補償制度導入で所得補てんがアナウンスされたことから、できるだけ早く値を下げて売ったほうがいいという行動の現れではないか」との意見もあった。卸関係者からは消費者の低価格志向の指摘も。「買い叩きではないが市場価格を考えると高い価格では仕入れられない」。

(写真)7月30日の食糧部会。佐々木政務官は「棚上げ備蓄への転換」を提起したが……

 

米の相対取引価格の月別全銘柄平均の推移

◆在庫300万t超す

 

 6月末の米の在庫は民間218万t、政府98万tと合計で316万tとなっている。300万tを超すのは15年6月末期以来だ。
 民間在庫は21年にくらべて6万t増えた。16年から20年にかけては160万t〜180万tの水準で200万tを超えるのはこの2年の傾向だ。
 これに対し、農水省は11年から14年にかけても民間在庫が220万t水準だったことを指摘。「極端に上ぶれしているわけではない」(計画課)という。
 しかし、たとえば11年の主食用の需要量は約910万t。21/22年(今年6月末まで)のそれは810万tでそもそも需要量が100万tも違い、過剰感を同一に論じられない。
 そのうえで何より重要なこと、とJA全中の冨士専務が食糧部会で主張したのは「実質の持ち越し在庫量」の見込みだ。JA全農によれば未契約数量は現在、35万tにのぼるという。
 一方、食糧部会では22/23年(来年6月末まで)の需要見通しを昨年より5万t減、過去最低の805万tとした。
 23年産の生産目標数量は今年の作柄などをもとに11月末に決めることになるが、かりに持ち越し在庫が発生すればそれを差し引くことになりかねない。
 さらに過剰作付け面積が5万ha(21年)だとすれば25万t、豊作で10万t増にでもなれば、持ち越し在庫と合わせて合計で70万t近くも過剰が発生することになる。米価下落、さらに来年の生産数量目標減という事態になりかねない。
 そのためJAグループは米の需給調整対策が必要との主張をしているが、政府はモデル対策の加入状況(132万件)からみて需給は引き締まる、価格下落対策として「変動部分」が措置されている(総額1391億円、10aあたり1万1000円程度)、過剰時の市場隔離は需給調整に参加する人としない人の不公平感を生むため実施しない、のが基本的立場だ。
 しかし、冨士専務は「60kgで1000円下落すれば1000億円(対象数量600万tの場合)の財政負担となる」と指摘、財政負担の観点からも需給調整対策の必要性を強調した。

5年棚上げ、20万ずつ飼料に


◆米生産の安定をめざせ

 

 こうしたなか8月9日の食糧部会には米の備蓄について国産米100万t、毎年20万tづつ買い入れ、播種前契約による買い入れ方式、5年間棚上げ備蓄して20万tづつ飼料用など主食用以外の用途に販売する、という案を農水省は提案した。民主党が政策集で棚上げ備蓄への転換を盛り込んでいることを受けたものだ。これにともない緊急買入れは実施しない方針も示した。23年度から実施する方針。財政負担は年520億円と試算。これは16年〜21年度までの平均経費と同水準という。
 議論の結果、「備蓄の目的」について「不足時に消費者へ安定供給すること。過剰米対策や米価維持対策を目的とした買い入れや売渡を行うべきではない」が大宗だった、と部会はまとめた。
 ただし、「需給調整や価格問題は別の政策で議論すべき」、「出来秋の豊凶変動には国がサポートすべきでは」との意見もあった。
 備蓄方式については、需給や価格に影響の少ない棚上げとすべきとの意見もあったが、「棚上げ備蓄に切り替えることに違和感あり。財政の持続性に誰もが疑問を持っている」といった意見のほか、戸別所得補償制度が導入されたことから「価格下落への生産者の不安は排除されるはず。それなら回転備蓄でいいのでは。米価が下がれば買入れにかかる財政負担も減る」との指摘があった。また、「飼料用売却に消費者の理解を得ることは難しい」、「食育からも疑問」と飼料用米にすることへの抵抗感も。
 冨士専務はこの提案について「米政策全体像が明確でなければ議論できない」と指摘。100万t水準は「1.5カ月分」だが「本当にそれで十分か」という問題のほか、運営ルールのあり方も強調した。
 現在の政府の考え方に従えば、豊作などによる過剰対策は打たず、不作になったら備蓄米を放出する、というのであれば米価に影響しないはずはない。
 「棚上げ方式であってもマーケットに中立はあり得ない。備蓄が需給や生産安定といった目的を併せ持つのは当然。米政策全体で考えるべき」と指摘した。
 棚上げ備蓄については生産者委員からも財政を心配する声があった。こんな理由からだ。「土地改良予算の大幅減で現場は本当に困っている。備蓄でまた農業予算が削られないか?」。
 農水省は8月末の概算要求時点で戸別所得補償制度の設計と合わせて備蓄政策も示す。「国家戦略」として財政・政策像を示すことが求められている。

(2010.08.13)