コラム

安高澄夫のもの申す

一覧に戻る

【安高 澄夫】
賞味期限切れ

 伊勢の名物「赤福」で賞味期限切れ問題が起こったのは2007年10月、2年半ほど前のできごとだ。正確には「消費期限表示の改ざん」で、JAS法違反だった。監督官庁の農林水産省は立ち入り調査をし、法令にもとづく措置を指示した。
 「白い恋人」も似たような事件だった。ミートホープから船場吉兆まで様々な食品偽装が発覚した。悪質さではそれぞれ違いがあるが、「赤福」や「白い恋人」によるその後の信頼回復努力はお客さんに通じたようだ・・・

 伊勢の名物「赤福」で賞味期限切れ問題が起こったのは2007年10月、2年半ほど前のできごとだ。正確には「消費期限表示の改ざん」で、JAS法違反だった。監督官庁の農林水産省は立ち入り調査をし、法令にもとづく措置を指示した。
 「白い恋人」も似たような事件だった。ミートホープから船場吉兆まで様々な食品偽装が発覚した。悪質さではそれぞれ違いがあるが、「赤福」や「白い恋人」によるその後の信頼回復努力はお客さんに通じたようだ。
 「赤福」をつくっている会社は食べ物をつくるのが仕事だから、その商品に責任を持たなければいけない。農水省に叱られて責めを負うのは当然だ。
 ところで、農水省の仕事とは何だろうか。

◇  ◇

 農水省のつくった商品の中に食糧管理法があった。食管法は戦時中の1942年にできて53年間生き続け、1995年になくなった。できたときは食糧不足の時代。農家から強制的にコメを集めて、国民に配給した。
 1972年に大学に進学した私は住民票を移した。そのとき、転入先の市役所で米穀通帳をもらった。米穀通帳でコメを買うことはなかったが、歴史の証拠品として米穀通帳は今も大事に保管している。
 1970年ごろからコメが余りはじめ、減反政策がはじまった。米穀通帳を必要としない時代になった。食管法ができて28年が経っていた。このときまでが賞味期限。しかし、その後も25年間、食管法は日本農業を歪め続けた。
 「赤福」や「白い恋人」で腹痛になったという話は聞かなかった。しかし、食管法はコメが余るようになってからも農家を縛った。活きのいい稲作農家が時代遅れの法律に行く手を阻まれ、涙をのんで新しい稲作経営を断念した。農水省には法律の賞味期限を管理する責任がある。賞味期限が切れた法律を放置した罪は重い。その後遺症は続いている。食管法が今も生きているかのような需給調整を続けている。

◇  ◇

 形式的には食管法は15年前になくなった。しかし、農地法や農協法はまだ生きている。これらも戦中戦後にできた法律で、食管法とは表裏一体に機能してきた。これらの賞味期限もとっくに切れている。農地も農協も腹痛を感じている。農家戸数が250万戸なのに、正組合員は480万人。農家戸数が480万戸だったのは1970年代の話だ。
 これほど明確なのだから農水省の責任は重い。農水省が自らを正すことができないならば、ミートホープや雪印食品と同じ道を歩むことになるだろう。
 農水省が賞味期限切れならば、農水省に対する業務改善命令が必要だ。


※安高さんの「高」の字は正式には旧字体です。

(2010.03.30)