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【金右衛門】
有料老人ホーム建設にひとこと

 都会における住環境の良さは、緑が多いこと、隣家との空間があること、そして通勤に...

 都会における住環境の良さは、緑が多いこと、隣家との空間があること、そして通勤に便利で、伝統的な街並みが残り、近くの商店街が繁栄していることなどがあげられよう。さらに農家や農地が混在していれば都会にも安らぎや癒しがある。
 都会には、国土交通省管轄の「生産緑地」と農水省の「農地」がある。若い人の都心回帰の流れもあるが、いまその都会の「生産緑地」は少しだが増えて「農地」がどんどん減りつづけている。普通の土地には、宅地並み課税で30倍の税金がかかる。都会でアパートを経営しながら採算無視で細々と畑作の都市農業を続けていた旧い地主が高齢や病気で、力が衰え、その人の農業への思いが及ばなくなると問題が発生する。バブルがはじけても未だ都心の土地は高価だけに遺産相続のごたごたが発生する。子息がサラリーマンで農業を継がず、農業技術も営農の方法も分らず、仕方なく先祖伝来の土地を手放してマンション等が建つケースが増えている。
 最近都心のS区で持ち上がった有料老人ホーム建設の行方をみる。畑の面積は1500坪。25年以上に渡りS区が農家から無償で借り上げて、約160区画に細分し区民農園として貸し出していた。期間は2年間。農業を楽しみたい区民は抽選で当たれば農作業ができる。2年〜4年待ってようやく当たったという人もいた。農家は区に貸すことにより税金も安く、先祖伝来の土地が耕され満足していた。
 昔の地主が高齢になり半ばボケ始めると、3人の子息が集り兄弟で相続の議論をはじめた。どう安く見積もっても路線価格坪当たり100万円はする。総額15億円、相続税20%は3億円になる。手持ち現金でそんな余裕金のある家はないだろう。それなら借金をして老人ホームでも建てれば、借金相殺で税金が安くなる。土地の有効利用ができると吹聴した人がいる。真相はわからない。
 農地が減って、醜い箱物建築物が立つだけだ。建築基準法に違反してなければ、業者は敷地目一杯建物を建てる。「街づくり条例」には地域住民とよく話し合うという項目はあるが、住民も個別利害が対立し、まとまった住民パワーにはならない。
 老人ホームという公共施設でありながら、東京都もS区も行政としては予算がない、補助金は出さないという。民間事業者が老人ホームを運営するという届出を受理して乗っかるだけ。つまり、老人アパートを建設し、老人からお金を取り上げる市場原理に委ねている。地方行政は結局は行司役で勝った方に従っている。いつから公共心が消えて、市場原理が日本人の心を支配するようになったのだろう。農地保全について、農家も市民も相談する適当な人がない。
 「農地」と「農民」を農水省側に取り戻すべきだ。農地が「宅地」や建物になり、農地の所有者が「株式会社」になれば管轄が他省へ移ってしまう。緑と空間と安らぎの農の風景はいずれ消滅してしまう。

(2004.07.13)