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【金右衛門】
「華氏911」にひとこと 問われる米国の良心

 カンヌ映画祭でパルムドール賞を受賞したマイケル・ムーア監督のアメリカ映画「華氏...

 カンヌ映画祭でパルムドール賞を受賞したマイケル・ムーア監督のアメリカ映画「華氏911」を観た。痛烈なブッシュ風刺のドキュメンタリー映画である。ディズニー傘下の配給会社が米国上映をためらったのもうなずける。アメリカは温度を測るのに摂氏でなく華氏を使う。華氏451度(摂氏換算232度)は紙の燃える温度、そして「華氏911」(摂氏488度)は「自由が燃える温度」の意味という。
 2001年9月11日ニューヨーク世界貿易センターが崩壊し、3000人が死亡した日の朝、ブッシュ大統領は、弟が知事をしているフロリダ州のある小学校を訪問、子供の教室で椅子に座っていた。秘書が緊急事態を耳打ちに来ても、7分間ボーっと童話の絵本をめくっているというシーンが写った。偶然に教師が大統領を撮ったビデオが採用されている。ブッシュ大統領は就任から、同時多発テロが起きる8カ月間、42%が休暇だったという。
 映画はブッシュがテロ対策を事前にもっと勉強しておくべきだったと批判している。それ以上にこの映画の凄い所はブッシュ家が、サウジアラビアの大富豪ビン・ラディン家一族とテキサス州で石油事業や兵器産業で密接な繋がりのあることが高級ホテルのパーティ映像を通して観客に知らしめたことだろう。世界貿易センターを攻撃したのがオサマ・ビン・ラディンであるなら当然一族から事情聴取すべきだったのに、事件直後一族24人はボストンから自家用機を飛ばしてアメリカを脱出する。後に「ビン・ラディン・フライト」と呼ばれるもの、それを許可したのはホワイトハウスとFBIだと述べている。
 そして、後は世界第2の石油資源国イラク攻撃である。「イラクは関係ありません」と周囲がいっても、ブッシュは「イラクを攻撃しよう」、ブッシュ政権は戦争を始めるに当たってイラクのフセイン大統領がアルカイダとつながり、9.11テロに関与していたとアメリカ人の恐怖をあおった。これが成功、70%のアメリカ人はテロの恐怖を信じたという。
 膨大な資金がイラク戦争に注ぎ込まれ、一方、戦時物資は入札もなくチェイニー副大統領出身の企業から調達されている。戦争で金儲けする人が写る。その他に、日本人3人の人質映像も出てくる。自作自演とは思えない。
 アメリカは徴兵制でなく、志願兵制である。海兵隊募集官が貧困の町村を廻って若い青年を兵士に勧誘するシーンがある。アメリカの地方の若者には、職場が少なく軍隊しか行き場がない、そして戦場へ送られる。イラクではアメリカ兵士も傷つく、死亡者も出る。上院下院議員の子息は1人しかイラクへ派遣されていない。それは何故かとムーア監督自身が議事堂前で議員をインタビューするが、ほとんど無視され通り過ぎてゆく。このあたりの映像は賛成、反対意見を交互に挿入されてユーモアがあり娯楽映画のように笑える。
 「戦争が好転しようとしまいと問題ないのだ。大切なのは戦争状態を存続させることだけである。」英国の作家オーウェルの言葉で締めくくる。アメリカメディアでは「華氏911」論争で全米席巻ともいわれる。今年11月の大統領選挙は民主党のケリー候補と共和党ブッシュの選挙予想は接戦である。いよいよアメリカ人の良心が問われている。

(2004.09.08)