コラム

今村奈良臣の「地域農業活性化塾」

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【今村奈良臣】
直売所は地域の司令塔になろう

1、直売所は地域の生産者、消費者の司令塔になろう
2、ピンピンコロリ路線を推進しよう
3、「四安」の道を追求しよう
4、地産、地消、地食を推進しよう
5、ChangeをChanceへ
6、直売所にかかわる人は全員名刺を持とう
7、多様性の中にこそ真に強靱な活力ははぐくまれる。
  画一化の中からは弱体性しか生まれてこない

 山形県の遊佐町に奥山京子さんという大変すぐれた女性がいる。山形県の表彰事業にす...

 山形県の遊佐町に奥山京子さんという大変すぐれた女性がいる。山形県の表彰事業にすぐれた農業者を表彰する大高根農場記念山形県農業賞というのがある。その第49回表彰の栄誉に奥山京子さんは輝いた。これまで女性で受賞したのは2人目ということである。
 私は奥山さんに懇請されて去る2月21日に受賞記念祝賀会で記念講演を遊佐町で行った。奥山さんは遊佐町にある活気に充ちた直売所「ふらっと」を中心に生産者、特に地域の女性を指導され、消費者を含め食農教育の推進に尽くされてきた。そういう背景を踏まえて講演したので、全国の農村、特に女性の皆さんに役立つと思い、私の当日の講演の要点を再現して参考に供したいと思う。

1、直売所は地域の生産者、消費者の司令塔になろう

 農産物直売所は地域の農林水産物やその加工品が出荷され集まり、地域の消費者や他のいろいろの地域から来たお客さんたちが求めたいものを買いに来る。その「結節点」だと思う。お客さんが何を求めているか、どういう品質のものを求めているかということを的確に把握し、分析し、その情報を生産者に伝え、生産、供給してもらい、地域の農業に活力と活気をもたらす司令塔である。同時に、それは地域の仕事おこしセンターでもある。兼業機会の激減したいま、農村の中で新しい仕事を造り出す役目も持っている。そういう位置づけを行い、さらなる発展を希望する。

2、ピンピンコロリ路線を推進しよう

 いま、農村の高齢化は急速に進んでいる。しかし、私は農村の高齢者を単に高齢者と呼ばずに「高齢技能者」と呼んでいる。農村の高齢者は、これまで生きてきた歴史の中で、智恵と技能、技術などを頭から足先までの五体にすり込ませて働き、生きてきた。その高齢技能者の持つ智恵や技能を農業生産や加工に生かす道をつくってほしい。そのためには、若い女性、中堅の女性のリーダーシップが欠かせない。活力ある地域は全国どこをみても高齢技能者と女性が輝いているところだ。そして、高齢技能者は農業生産やコミュニティ活動に励みつつ、ある日、皆なにたたえられて大往生を遂げてもらいたい。そういう地域にしていただきたい。

3、「四安」の道を追求しよう

 昨年の世相を清水寺の貫主は「偽」と書いた。そういう世の中だからこそ「四安」を強調したい。四安とは、安全、安心、安定、安価である。安全、安心は説くまでもない自明のことだ。安定とは、食料は一日も欠かさず安定的に供給することが原則だ。安価とは、単に安ければよいということではない。生産者の再生産を可能にし、生産者のふところを温めながら、消費者が手を出しやすい「値ごろ感」が重要だ。安売り競争に走る直売所はどこでもつぶれている。

4、地産、地消、地食を推進しよう

 地産、地消は改めて説明しなくてもよいと思う。ぜひとも「地食」を併せて推進してほしい。地域に根ざした食、地域の伝統食、そして大災害時に必要な伝統的な防災食、保存食なども含めて、地域の学校給食、老人ホーム、病院食などへも広げてほしい。特に次世代を担う子どもたちに広げてほしい。

5、ChangeをChanceへ

 世の中は激変(Change)して弱った、困ったと叫んでいる地域も多い。しかし、それを声高に叫んでいるのではなく、地域の英知と総力を傾けて、好機到来(Chance)と常に前向きに考え、「gをcに変えよう」ということを合言葉に頑張っていただきたい。奥山さんのこれまでの活動を一言で表現すれば「gをcに変えた人」と言えると思う。

6、直売所にかかわる人は全員名刺を持とう

 名刺は情報発信の原点であり基本である。
 これまで日本の農家の皆さんは、農協とか土地改良区とか農業委員などの役職についた人以外は名刺を持たなかった。持つ必要もなかった。しかし、現代は違う。特に直売所にかかわっている方々は生産者、出荷者でも全員きれいな名刺を持ち、多彩な情報の発信をしようではないですか。自分の自信作はもちろん、地域の特産物の誇りを名刺に表現し、お客さんを通して全国に発信しようではありませんか。

7、多様性の中にこそ真に強靱な活力ははぐくまれる。画一化の中からは弱体性しか生まれてこない

 この考え方を私は一貫して説いてきたし、実践してきた。そこでさらに重要なことは、「多様性を真に生かすのはネットワークである」と考え、説いてきた。直売所はネットワークの典型だと思う。奥山さんが評価され表彰されたのも、すばらしいネットワークを作り推進してきたからだと思う。心からお祝いしたい。
 どうか全国の皆さんも奥山京子さんのようにそれぞれの地域で頑張っていただきたい。

イラスト:種田英幸
イラスト:種田英幸

(2008.03.21)