コラム

今村奈良臣の「地域農業活性化塾」

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【今村奈良臣】
農業の六次産業化で地域を興す

 去る5月8日に山形県立農業大学校で講演を行った。農産加工経営学科が新設されたこと、創立55周年を迎えたことを記念して開催されたものである。学生は全員が出席し、教職員をはじめ、山形県の職員、特に第一線で活躍されている普及や技術指導に当たっている方々も多数出席されて、大学校の記念講堂の大ホールは超満員で、私も気合いを入れて講演した。
 講演の要点は後に紹介することにして、私の希望で、卒業生の何人かに会い、卒業生がどういう活躍をしているか、つぶさに調査したいと学校に申し入れていた。講演の前日に訪ね、卒業生を4組訪ねた。いずれもすばらしい活動をされていた。

 去る5月8日に山形県立農業大学校で講演を行った。農産加工経営学科が新設されたこと、創立55周年を迎えたことを記念して開催されたものである。学生は全員が出席し、教職員をはじめ、山形県の職員、特に第一線で活躍されている普及や技術指導に当たっている方々も多数出席されて、大学校の記念講堂の大ホールは超満員で、私も気合いを入れて講演した。
 講演の要点は後に紹介することにして、私の希望で、卒業生の何人かに会い、卒業生がどういう活躍をしているか、つぶさに調査したいと学校に申し入れていた。講演の前日に訪ね、卒業生を4組訪ねた。いずれもすばらしい活動をされていた。

◆六次産業化のトップランナー

 松坂初子さんは昭和37年卒業の第1期生である。御主人の英昭氏をはじめ、4組の夫婦8人でチームを結成し、新庄市萩野で「萩野もち加工組合 ふるさと工房」を運営している。この組合の創設は平成7年だから14周年を迎えている。
 私は平成6年に全国にわたって「農業の六次産業化を推進しよう」と呼びかけたのだが、初子さんは「平成7年にもち米の生産、そして加工、販売の六次産業化に取り組みました」と、若々しい笑顔を見せながら話を切り出してくれた。最上地方では恐らくトップランナーだろうし、全国でももっとも早い六次産業への取り組みだったであろう。初子さんの話を紹介しよう。
 工房設立以前は、水稲、肉用牛、野菜、しいたけ等の複合経営をしていたが、米価の低迷を機に自分たちで生産したおいしいもち米(ヒメノモチ)に付加価値をつけ、冬期の就業確保と豪雪地帯での周年農業の実現をめざして餅加工に取り組んだ。平成7年5月にもち加工組合を設立し、農業生産体制強化総合推進対策事業により加工施設を新設、10月から加工販売を始めた。
 設立当初は農協を通じて都会の消費者センターをターゲットにした販売を行った。しかし、平成8年からは、新庄市内のスーパーや直売所“まゆの郷”での販売のほか、イベントへの参加などを通じて売上を伸ばしてきた。また、少量の注文(例えば節句や祭礼など)にも応じる小回りのきく対応が地域の信頼を得て、学校給食や各種催しにおける生餅の注文も次々と多くなってきた。さらに地域との協調や活性化のために、高齢者組織や児童館等の活動に参加し、もちつきやもちの試食などを通して、地域貢献活動の一翼を担っている。
 組合の運営については、毎週月曜日に定例役員会を開催。8名全員が組織運営に携わり男女共同参画を実践するとともに、報酬等については、男性4名全員が年2回役員報酬として配当金を受け取り、女性は労働時間に対応して給料を毎月受け取っている。
 こうした着実な発展のうえに立って、生産者と消費者というこれまでの注文と商品発送という一方通行の関係を改めようとして工房の所在地の萩野、仁田山地区に足を運んでもらい、もちを食べ、農村の暮らしや文化について、ゆったりした会話を通じて相互交流を進めたいと考え、「もち処 もちもち亭」を平成14年10月にオープンした。テーブルが5つ、カウンターに7脚ほど、そして明るい調理場があるこじんまりとしたレストラン形式になっている。初子さんたちから私も、ここで納豆、あんこ、ずんだ、雑煮等をいただきながら以上のような話を聞いた。
 さて、若干営業内容について紹介しておこう。
 ふるさと工房は、「手づくり・無添加」にこだわり、「つららもち」の商標で広まっている。販売商品は、丸餅、切り餅、生餅、建前餅、鍋用しゃぶしゃぶ餅、大福、くじら餅、蒸し羊羹、笹巻き、赤飯、山菜おこわ等12品目に及んでいる。そして餅は水を使用しない杵搗き方式で、もちを押す時も粉は使用していない。原料となるもち米は牛ふんを中心とした堆肥による土づくりと低農薬によりもち米を栽培し、また赤飯には地域内で生産された小豆を使用しているという。昨年使用したもち米は約200俵。参加4組の夫婦は、いずれも5ha前後の水田と肉用牛を中心にした個別経営を行っており、各自がそれぞれもち米を生産し、それを「ふるさと工房」でもちに加工し、販売し、「もちもち亭」で訪ねてきたお客さん達に食べてもらい、楽しい会話を続けているのである。

◆多彩なネットワークで米の総合産業化

 天童市の蔵増地区に、(有)ファームインビレッジと玄米おやつ工房mama’sというお米を基盤にした企業が並んである。
 ファームインビレッジの専務取締役が森谷茂泰さんで農業大学校を昭和61年に卒業した42才。父の茂伸氏が代表取締役であるが事実上会社を経営しているのは茂泰さんのようであった。茂泰さんの奥さんのあかねさんは福岡県久留米市の出身の博多美人で、玄米おやつ工房mama’sの代表をつとめていて、次々と新製品を作っている。
 父の茂伸さんは「水呑み百姓」「三反百姓」の不遇の中からあらゆる努力を重ね自らを磨き上げる中から(有)ファームインビレッジを作り上げた。その経緯と歴史をここで紹介する余裕は全くないが、現在の経営規模は、昨年で水稲10ha(うち8haが借地)で、農業振興機構の特別栽培米の認証を受け、自家製のぼかし肥料を使用し良食味米(全国コンクール入賞)を生産するかたわら、米穀の登録小売業者の資格を持ち、地域周辺の他農家からの販売委託も増え取扱量は3500俵を超えているようである。
 その基盤と背景には、作業受託を広範に行っていることがある。育苗が16ha、収穫・乾燥・調整が45ha。収穫作業については、大型コンバインを装備する他の稲作農家への窓口となっている。つまりいわば農業機械銀行の元締めの役割なども果たしている。「請負型の大型小作人」だと自認していた。
 特にこういう新しい行き方、つまり農機具投資負担の軽減を通して地域全体の稲作生産費の削減、それを通した地域農業の新しい時代にふさわしい重層的組織化を、農業大学校卒業生の茂泰さんは強調していた。私がかねてより主張してきた「多様性の中に真に強靱な活力は育まれる。画一化の中からは弱体性しか生まれてこない。多様性を真に生かすのが、展望性に充ちたネットワークの組織化である」を実践しているように見ることができた。茂泰さんは大学校卒業後、多彩な「旅をしてきた」と言ったが、その経験と人脈がいま生きていると思った。
 奥さんのあかねさんの「玄米おやつ工房mama’s」は、玄米を基本にクッキー、まどれーぬ、シフォンケーキなど多彩な女性と子どもが飛びつきそうなお菓子を次々と開発、販売していた。

◆六次産業の担い手が地域を変える

 農業大学校の講演では、農業の六次産業化をいかに進めるかということを軸に話したが、その内容と、お会いした他の2人の方の紹介は次回に回したい。講演には大学校生108人(1年生56人、2年生52人)、教職員18人、それに県の農林部長はじめ第一線で活躍している県職員24人、計150人が出席して盛況の中に記念講演を終えることができた。

irasuto_taneda-hp.jpg

(イラスト・種田英幸)

(2009.06.03)