コラム

「正義派の農政論」

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【森島 賢】
「攻めの農政」の夢と現実と罪

 これから日本は開国して、攻めの農政を始めるのだという。いままでは、輸入農産物から国産の農産物を守るための、守りの農政だったが、これからは、日本の農産物市場を世界に開放し、農産物を含む全ての関税を撤廃して、自由貿易体制にし、海外の農産物を受け入れ、その代わり、日本の農産物も海外へ攻撃的に売り込むのだという。
 不況にあえぐ今どき、夢のような話だが、いったい、どれほど成功する見込みがあるのだろうか。自由貿易体制にするために、米を犠牲にするのではないか。そうだとすれば、現実に疎い多くの評論家が賛同しているだけに、罪は深い。
 こうした話は、いまに始まったことではない。20年ほど前から言われ続けてきた。成果はどうだったのだろうか。
 そのころの食糧自給率は50%だったが、いまは40%にまで下がっている。政府は10年後に50%に上げるといっているが、攻めの農政でこの目標に到達できるのだろうか。
 それとも、米つくりをやめて、自給率を下げ、食糧安保を犠牲にして、野菜や果物の輸出を増やそうというのだろうか。

 全ての関税の撤廃を目ざしたFTAなどの自由貿易で、わが国が最も不利になるのは、農業部門であり、ことに米である。自由貿易になると、わが国の米を中心にした農業は縮小し、食糧自給率はいっそう急速に下がり、食糧の安全保障が脅かされることが、最も深刻な懸念なのである。
 攻めの農政で、この懸念を一掃できるだろうか。
 日本の米は旨いし、目覚しく経済が発展している東アジアは、今後、富裕層が急速に増えるから、価格が高くても、日本の旨い米を食べるだろう、だから積極的に、攻撃的に売り込もうというのである。
 この政策は、20年前から言われ続けてきた。手詰まりになる度にでてくる政策である。そして、失敗を重ねてきた。

colunou1010181401.gif 図は、近年の米の輸出量の推移を示したものである。最近は2万トン程度だから、生産量の約850万トンの0.24%程度に過ぎない。しかも、最近増えているとは言えない。せいぜい横ばいである。
 一方、最近の農産物輸出の内訳をみてみよう。農産物の全輸出金額は2637億円で、そのうち米の輸出金額は、援助米を除くと5.45億円に過ぎない。実に0.21%でしかない。
 これが、20年前から農政の柱の1つにしてきた、攻めの農政の、実際の、目を覆いたくなるように無惨な、淋しい成果である。

◇   ◇

 ここで言いたいことは、だから米の輸出振興のための政策を止めよ、ということではない。そうではなくて、攻めの農政などと言って、農政の主要な柱にするほどに、成果が期待できるような政策ではないことを指摘したいのである。
 攻めの農政の、これまでの失敗に目をつむり、今後の農産物の輸入自由化のための目くらましにしてはならない。
 自由貿易にしても、攻めの農政を進めれば自給率を下げることにはならない、などと考えて、いままでの失敗に目を外らしてはならない。

◇   ◇

 こうした夢も希望もない幻を、いつまでも追い求めるのではなく、過去に失敗を重ねてきた現実を直視し、幻影から決別しなければならない。
 そうして、地道に米粉米や飼料米の需要拡大の支援に、力を集中すべきだろう。

 

(前回 低米価政策への農政転換は稲作の破滅

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(2010.10.18)