コラム

「正義派の農政論」

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【森島賢】
メルトダウンした日本の政治

 福島原発はメルトダウン(炉心溶融)したようだ。東電も、ようやくそれを認めた。原子炉の核心にある燃料が形を崩し、固まりになって底に落ちてしまった状態である。1号機だけでなく、2号機も3号機も同じ状態だろうという。
 まだ燃料は炉の中にあるので冷却できているが、炉に損傷があるようで、放射能をもっている水が炉の外に出ている。それが地下水や海に漏れ出て、汚染し続けている。
 損傷を修復するには、人が建物の中に入らぬとできないが、放射能が強くて入れぬという。だから、どの部分から漏れ出ているのか、それさえ分かっていない。
 監視カメラやロボットを用意しておけば、それくらいのことは出来ると思うが、そうした安全のための器具は、もともと無かったようだ。財界と政界が示しあわせて作った原発の安全神話は、もともと溶融していたのである。
 燃料の冷却に失敗すれば炉の中の温度が上がって爆発し、放射能を大量に撒き散らすことになる。今朝の新聞によれば、原子力安全委員長が事故直後に、そうなる可能性はゼロではない、と発言した(原子力安全委員長の発言については本文下参照)。信ずべき専門家によれば、その可能性は小さいという。
筆者は、炉の中の温度に重大な関心をもって見守っているが、ここで言いたいことは、このことではない。事故処理の過程で、また復興政策の立案の中でみられる政治のメルトダウンである。いま、日本の政治は、その中核部分が溶融しているようだ。

 メルトダウンは、地震の直後に起きた。それなのに、2か月以上たってようやく発表した。こうした情報公開の遅れが疑心暗鬼を呼び、信頼を失った。その結果、国内だけでなく、海外の風評被害の原因になり、農業者などに実害をおよぼしている。
いま来日中の中国の首相は、昨日「迅速な情報提供をお願いする」と、あらためて首相に要請した。国際的にも信用を失ったのである。

 このように、事故の処理は東電に任せてしまっている。国難だというのに、政治が主導していない。事故の責任は第1義的には東電にある、というのが政府の言い分である。そして、究極的な責任については、口をつぐんでいる。
 事故の最終的、究極的な責任が政治にあることは明らかである。政治が原発推進を国策にしたことに、今度の原発事故の根本的な原因がある。イタリアのように、政治が原発を許さなかったら、原発事故は起きなかったのである。
 このことを、与党の政治家も、多くの野党の政治家も反省しないし、明言もしない。この最も重要な責任を隠そうとして、議論さえもしない。そうして、責任の追究を矮小化しようとしている。
 事故処理や復興政策での政治の無責任体制は、ここから始まっている。政治に確固とした中核がなく、溶融してしまっているのである。

 浜岡原発の停止もそうだ。それは、防波堤を高くするなどの対策を行うまでの一時的な停止にすぎない。その場しのぎの対策というしかない。
 もしも、いままでの原発推進の政策を反省して、今後は原発依存のエネルギー政策を止めるというのなら、永久停止を目指した、そのための当面の対策でなければならない。そうしないとカネの無駄使いになる。
 もしも、(筆者は反対だが)今後も原発を推進する、という政治判断をするのなら、浜岡原発だけを停止して、安全対策をほどこすのでなく、その他の原発にも恒久的な安全対策をほどこすべきである。
 そうしたエネルギー政策の中核になる原発政策についての政治哲学がないまま、やみくもに対策を行おうとしている。

 この点は、2大政党である民主党も自民党も同じだ。いったい、原発を推進するのか、原発から撤退するのか、腰が据わっていない。ともに政治の中核がメルトダウンしているのである。
 復興政策は、全国を視野に入れ、今後を見据えたエネルギー政策のもとで、全国民的に行わねばならないが、そのときの主要な対立点は、ここにある。だが、多くのマスコミはこの点を指摘しないで避けている。財界が、いまでも原発推進派だからだろう。

 復興のための組織もそうだ。中核になる組織と、それを率いる智力と胆力のある政治家がいないまま、数えきれないほどの組織を作っている。これでは、復興の責任がどこにあるのか分からない。その結果は、責任を互いになすりつけあう無責任体制になる。復興のための組織は初めからメルトダウンしている。こうして、やがて復興のための無責任体制は、美事に完成されるのだろう。
 そうした中で、住居を追われ、農地と農産物を放射能で汚され、仕事を奪われた農業者は、2か月半経ったいまでも、将来が見えないまま放置されている。

原子力安全委員長の発言はコチラから


(前回 浜岡原発停止にみる科学の妄信と悪用

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(2011.05.23)