コラム

「正義派の農政論」

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【森島 賢】
所得補償制度の欠陥―農業者は高度な技術者だ

 戸別所得補償制度は、農業者にとって、おおむね好評である。
 いよいよ、民、自、公の3党は、この制度の改善についての協議を始めるようだ。この機会に、改善すべき、いくつかの問題点を指摘しておこう。それぞれが、制度的な欠陥といっていい。これらの問題点を充分に検討することを期待したい。
 3党協議の場を、政争の具にするのではなく、日本の農業と食糧を真摯に考える場にしてほしいものである。
 はじめに、この項で指摘したいことは、この制度が、農業者を1人前の高度な技術者と考えているのではなく、それ以下の0.8人前の、しかも単純労働者としか考えていないことである。これは、社会的な公正を欠き、正義に反している。3党協議で早急に是正すべきである。

 かつて、政治は、女性の農業者を0.8人前の単純労働者と考えていたことがある。また、高齢農業者も0.8人前と考えていた。ひと昔も前のことである。
 いまの戸別所得補償制度は、それよりもひどい。女性や高齢者だけでなく、全ての農業者を0.8人前の単純労働者と考えている。ひと昔どころか、大昔の考えになってしまった。

 もちろん、そうではない。農業者は技術者である。しかも、生物学をはじめ、化学や機械工学などの広い知識をもつ高度な技術者である。さらに獣医師の資格を持っていたり、大型自動車の運転免許をもっている農業者も少なくない。その上、経営者でもある。
 そうした高度な技術者を含めて、1人前以下の単純労働者と考えているのが、いまの戸別所得補償制度である。せめて1人前の労働者と考えるべきである。そのように制度を改善すべきである。

 問題は、戸別所得補償制度の補償単価の算定方法にある。
 2年半前に政権交代したときの政権公約で、民主党は、「生産費」を補償する戸別所得補償制度を創設する、と公約した。この公約が多くの国民の支持をえて、政権交替をはたした。
 「生産費」とは、いうまでもなく、農業者を1人前の労働者とみて算定するものである。高度な技術者ではなく、単純労働者とみている点に不満があるが、しかし、1人前と認めている。

 だが、その後、この考えは後退し、「生産費」が「生産コスト」に変わり、いまは「生産に要する費用」という訳の分からぬ名前に、すり変わってしまった。
 いまの「生産に要する費用」の内容をみると、それは、農業者を1人前以下の0.8人前の単純労働者と見なしている。そのように見なした労働費で「生産に要する費用」を算定している。
 この算定方法は、不公正である。3党協議は、まず、この点の是正から始めなければならない。


(前回 大震災と原発事故から何を学ぶか

(前々回 大新聞が農業を報道する浅薄な姿勢

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(2012.04.09)