コラム

「正義派の農政論」

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【森島 賢】
民主党公約のTPPかくし

 先週、遅ればせながら民主党が衆議院選挙の公約を発表した(内容は、本文の下)。そこには、TPPの文字さえない。野田佳彦(衆、千葉4)代表は、一時、TPPを今度の選挙の争点にする、といったがこの前言を、あっさりと翻した。
 TPPを選挙の争点にすれば負ける、と考えたのだろう。党内でTPP反対を唱えている多くの候補者が離党することを、おそれたのだろう。
 選挙選で、民主党の各候補者は、てんでんばらばらに、TPPについて約束することになる。ある候補者はTPPに反対する、と約束し、別の候補者はTPPに参加する、と約束する。当選者の数は、それなりに確保できるかもしれない。だが、国民はあきれるしかない。選挙後に、党内の紛争は、以前にもまして激しくなるだろう。
 民主党は、この公約で、「働く者」や「消費者」をよりどころにする、といっている。それなら、財界や一部の大企業の労組に耳を傾けるのではなく、大多数の「働く者」や「消費者」の、TPP反対の声を代弁しなければならない。

 TPPの文字はないが、各論の中で、環太平洋パートナーシップ、つまりTPPに一言だけ触れている。引用しよう。
 「アジア太平洋自由貿易圏の実現を目指し、その道筋となっている環太平洋パートナーシップ、日中韓FTA、東アジア地域包括的経済連携を同時並行的にすすめ、政府が判断する。その際、国益の確保を大前提とするとともに、日本の農業、食の安全、国民皆保険などは必ず守る。」
 これが、TPPについての公約らしいものの全てである。

 いくつもの問題がある。
 これは、党としての公約ではない。全てを白紙で政府に任せる、という無責任なものである。そのとき民主党が政府与党でなかったら、どう責任をとるのか。党の執行部に一切を任せる、というのなら、そのように言わねばならない。
 それにしても、TPPほどの重大な政策、つまり、日本農業の存亡をかけた政策、国のかたちを変えるほどの政策に対して、党としての政治判断を逃げた無責任は、国民を愚弄するものとして、長く歴史に残る汚点になるだろう。
 また、TPPが目指すアジア太平洋自由貿易圏と、日中韓FTAや東アジア地域包括的経済連携(RCEP)が目指すものとは、まるで違う。このことが分かっていない。

 TPPは、アメリカが主導して、高圧的にゼロ関税を迫るものである。加盟国の食糧主権を奪い、また、国内制度に干渉して、国家主権を侵害しようとするものである。
 これに対してRCEPは、アメリカを排除し、東アジアに限り、ASEANが中心になって、各国の食糧主権などの国家主権を尊重しながら、経済協力をすすめるものである。
 それゆえ、これらを同時並行的にすすめることには無理がある。行き先が違うのである。
 その上、こうした世界経済のブロック化が、世界の紛争の根源になることへの配慮が、全くない。

 「国益の確保を大前提とする」というが、それは当然のことである。
 なぜ、当然のことを、わざわざ言うのか。何かやましいことがあるのではないか、と邪推したくなる。
 そこには、財界の利益のため、また、アメリカの利益のために、大多数の国民の利益を犠牲にする、というやましさがあるのではないか。

 「日本の農業…は必ず守る」という。1.5%の一次産業は犠牲になれ、という政策は採らない、というのだろうが、これも当然である。
 日本の農業を守るとは、いったい、どういうことか。
 農業政策の公約のなかで、「食料自給率50%をめざす」という文言は、かろうじて残ったが、食糧安保の字は消えた。これは、明らかな後退である。
 もしも、食糧安保を考えるなら、食料自給率50%をめざした農業振興をはかるために、TPP反対を公約しなければならない。


民主党の選挙公約は ココ 


(前回 自民党の農政公約の後退

(前々回 TPPに対する各党の政策

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(2012.12.03)