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落ち穂

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【駄々っ子】
"農家と水田は公共財"

 「総選挙」よりも「経済対策」、折からの世界同時金融危機を追い風(?)に麻生首...

 「総選挙」よりも「経済対策」、折からの世界同時金融危機を追い風(?)に麻生首相は、なかなか解散カードを切らない。そもそも、臨時国会の冒頭解散云々は、月刊誌「文藝春秋」11月号に寄せた首相の手記が発端だ。どうも、この首相、型破りはいいとして、国会での所信表明演説は民主党攻撃ばかりで、この国をどうするといった、大きな視点に欠けているように思う(失礼)。
 とりわけ、NHKがTV報道した世界同時食糧危機の様相の中、相変わらず「攻めの農政」を唱えるばかりで、この国の農業をどうするといったマクロの発想や、農業に対する価値観が伝わってこない。もちろん、足元の重油・飼料・肥料などの高騰対策や緊急の米対策などの対応も待ったなしだが、誰かがいったように、この情勢を竹槍精神で突破できるわけがない。
 同じ、11月号の「文藝春秋」で、コメに造詣の深い作家の井上ひさしさんの手記「日本人よ、今こそコメを食べよう」が目を引いた。氏は、稲作農家の時給はたった256円で農家を兼業や廃業に追い込み、自国でとれる米を食べないで、外国から食料を買い漁る異常な国と喝破。そして「農家と水田は安心と安全を担う公共財」と結ぶ。その視点は、さすが作家だけに大きく、鋭い。
 もうひとつ、10月19日、日曜日のNHKTVで「お米のなみだ、」という番組をみた。これは民俗研究家結城登美雄さんらが主宰する宮城県鳴子温泉の「鳴子プロジェクト」のドラマ化。地元でとれた米を鳴子温泉の旅館など、地域で買い支え、地域の活力につなげる取り組みを題材にしている。米1俵(60kg)を24000円で消費者が買い、そのうち6000円を後継者育成に廻し、残り18000円が農家手取りという。「、」は、米のかたちに似ていると主人公にいわせているが、日本人の主食として何千年もの間食卓に乗り、先人から営々と引き継がれてきた米や水田、稲作農家を粗末にしてきた現代人に「米は泣いている」という意味を込めているのかもしれない。
 ともあれ、世界同時金融危機や食糧危機の中、この国、日本はどうする?この国の農業はどうする?戦術はいい、マニフェストとやらもいい、骨太い「戦略」が欲しい。そこに井上ひさしさんじゃないが、農家と水田は公共財という視点がなければ、この国は滅びる。さあ麻生さん、そろそろ「ご破算で願いまして」じゃないですか…。

(2008.10.28)