コラム

吉武輝子のメッセージ JAの女性たちへ

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【吉武輝子】
年齢を口実にしない

 水戸在住の大久保あい子さんは筆禅道の大先輩である。
 前にも書いたけれど筆禅道の師稲田盛穂さんは、30年ほど前にわたくしが講師をしていた国分寺市主催の連続講座の受講者だった。すでに6児の母親だった稲田さんは、人生末広がりに生きることに貪欲で書道を習いに通っていた。

 水戸在住の大久保あい子さんは筆禅道の大先輩である。
 前にも書いたけれど筆禅道の師稲田盛穂さんは、30年ほど前にわたくしが講師をしていた国分寺市主催の連続講座の受講者だった。すでに6児の母親だった稲田さんは、人生末広がりに生きることに貪欲で書道を習いに通っていた。
 今もその考えは変わらないが、長生きをする女は自分の口を自分で養えたほうが誰かに頼らず自分の人生を全うできると、講座の中で繰り返していたらしい。当時稲田さんは人生を豊かにするために趣味として書道を習っていた。
 趣味では口を養えぬと気が付いた稲田さんは書道家を志して、筆禅道の師につき彼の死後は稲田盛穂として新宿の朝日カルチャーセンターを手始めに、名古屋、千葉、水戸など各地で筆禅道の指導を始めた。
 太い大きな筆にたっぷり墨をしみこませて立ったまま腹式法で書く書道は、呼吸器障害を持つわたくしにはぴったしで、2年前から弟子入りをした。
 3か月慢性白血病で入院する前に書いた「無心」の二文字は立派に表装され、弟子たちの展覧会に出品されたが、遺作になってもいいと思うほど迫力のある作品になっていた。
 生きて2年後には師と二人展をと約束しているが、なんと稲田盛穂さんの水戸の弟子である先輩の大久保あい子さんは白寿のお祝いに水戸で個展を開催したのである。
 白寿というのは99歳。白寿の彼女が個展で30以上の作品を披露したのである。その間、師盛穂さんは水戸に泊りっぱなしだったという。
 水戸のメディアがこぞって白寿の個展を取り上げた。70代といっても通用する若々しい大久保あい子さんが腹式法で立ったまま書く姿が、紙面や画面に登場した。

  ◇        ◇

 「わたくしこれまで年齢を口実に腰を引いたことがないのです」という言葉にわたくしは身を震わせていた。
 長生きをするとどうしても肉体には引き算の部分ができる。しかし学習能力は使えば使うほど花開いていくという文章を読んで以来、俳句、合唱団、ミュージックベル、筆禅道と新しい世界にあれこれ手を出すようになった。それなりに未知の才能の開花に長生きをすることの喜ばしさにうち興じたが、しかしちょっぴり苦手なことに対しては「もう70の半ばを越したから」と年齢を口実に腰を引いてきたからだ。
 白寿の個展は、水戸の常陽芸文センターで開かれたが一週間の開催期間になんと900人の人たちが訪れた。センターの最高記録だったという。「年齢を口実にしない」というあい子さんの生き方に感銘を受けた人たちがどっと訪れたからだろう。
 ねえ、ねえJA女性の皆様。せっかく未知の才能が開花する機会を年齢を口実に無くさないで生きていきましょう。「もう75歳だから」「もう89歳だから」と新しい世界にお尻を向けたり、おしゃれを放棄して背中丸めて見た目にもばあさん臭くなったらこんなつまんないことはない。年齢を口実にしない堂々とした生き方をしましょうよ。なんたって70歳80歳90歳は人間の旬の時代ですもの。

(2011.08.09)