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【JA上伊那元代表理事組合長】
宮下 勝義 氏

 「農協運動の仲間たちが贈る 第36回農協人文化賞」の営農事業部門を受賞した。

農を基盤に協同活動を

 

 

◆都市農村交流にも力


 目の前で世界の食料不足が今から始まっています。食料問題は国の政策の中で一番大きなこと。日本が兵糧攻めにあえば、安全保障が崩れます。上伊那地域の農業生産はバランスが取れた総合供給産地を目指したい。これまでの取り組みの中、行政の皆さんの力を借りて営農組合、営農センター、集落営農を強化してきています。
合併JAでないとできない大型の米施設 しかし、地域農業の振興のためには、農業法人等の育成ばかりでなく。80%を占める兼業農家の結集も必要です。多様な経営体、営農類型を組み合わせて地域農業を支えてこそ、総合供給ができる総合供給基地だと考えます。上伊那地域の水稲については共同事業として生産が行われ、管内生産の75%がJAのライスセンター、カントリーエレベーターを利用しています。米施設の老朽化が大きな課題となり国の補助金を活用しつつ、全国でも、生産モデルとなり得る新たな米生産集荷出荷体制の構築に取組み、計画的に資金投入できるよう方向付けをすすめてきました。
 これは大型合併JAでないと出来ない施設投資です。今後の担い手不足は全国の共通課題となっています。諸先輩がこれまで、JA上伊那として取り組んできた内容が、全国のJAの中で注目されています。

(写真)
合併JAでないとできない大型の米施設

 

◆議論を徹底し、先を読む力を

 仲間、人材づくりは、いますぐやらなければならないことです。70歳を超えましたが、気持ちは50代で、若いと思っています。旗振り役のリーダー役は、ぶれないことが重要。例えば、部会役員を経験した方が、JA理事や監事となり、生産部門とJA全体の旗振り役として活躍していただきたい。JA職員についてですが、職員の採用にあたっては、現場で明るく、バランス感覚があり、やる気のある人材の採用をしてきました。
 現場にいろいろな課題がありますが、皆で意見を出し合い、激論し、腹の中のものをすべて出し切ることが大切だと思います。議論のための議論と、何かを生み出すための対話は全く違うものです。まずは、課題について数字で把握し説明できることです。対話を通じて幅広い情報をもらいながら、自らの仮説を検証し、幅広い情報と過去からの教訓を分析しながら先を読む。その上で関係者に納得してもらうために何でも言ってもらう。そして議論を見極め、これだと思うところで決断し、先に進める。極論すればリーダーに必要なことはこれだけです。
 思うところのすべてをぶつけあわないと財産になりません。気迫と覚悟を持って向かっていく指導者の育成が必要です。
 組合長時代、私はほとんど組合長室にいませんでした。JA嫌いといわれる未利用の大型農家のところにもアポなしで気軽に出かけて行って話をしました。相手はびっくりしますが、話してみると相手が孤立し、なかなか情報がなくさみしい思いをしていることがよく分かります。少しずつ信頼を勝ち取り、情報を提供し、対話を重ね、課題を解決してあげると、一層の信頼を得て、次の仕事へとつながります。こういう生産者リーダー育成がこれからのJA運営の鍵となるでしょう。私も組合長になりたてのころ、そうしたキノコ農家のひとりと濃厚な付き合いができました。最初は明らかな反組合長の旗頭だったのですが、最後は「まだ辞めないでくれ」といってくれるようにまでなりました。

 

◆現場を回って人を動かせ!

都市農村交流にも力を入れる(新宿区の小学生が田植え) 長野県経済連で販売担当していた頃も、どんどん生産者のところに行きました。気まずいことや酒の席での言い争いなどもしょっちゅうでした。 20代の頃など、話も聞いてくれない生産者のところに2晩続けて訪問し、「お前には参った」と、話ができるようになり、後には一番の仲よしになりました。難しい生産者のところに積極的に行くことが大事で、若い人にも伝えています。
 産地づくりの気持ちがあってこそ、多様な作物の生産振興につながっていきます。地域ぐるみの産地づくり例として、中川村陣馬山南側は核果類が適しており、産地づくりを進めています。サクランボは、リンゴに飽きた若い人に好まれる魅力的な品目です。観光業者から上伊那地域でのサクランボ振興について要請されています。上伊那地域の未開の地には山菜やきのこがあり、魚も飼育できるなど恵まれた自然環境があり、地域に適した多様な生産を行い、人に採ってもらうことが可能な地域です。
 夢を大きく持って計画を立て、1年、1日でも早く達成する。いくつになっても、人は、楽しさとわくわく感を感じていれば、これが達成感になります。1人で悩まないで一緒に考えていただきたい。JAの役職員は率先して組合員にまっすぐ向いて、協同の輪が広がるような姿勢で取り組んで欲しい。新しい仕事を思い切ってやっていくためには既成の概念を打ち破り、新しいマニュアルを自分で作り上げないと道は開けないでしょう。これは経験からも言えることです。さまざまな個性を持つ皆さんが力を結集してアイデアを出していけば必ずや先に見えてくるものがあります。

(写真)
都市農村交流にも力を入れる(新宿区の小学生が田植え)

 

【推薦の言葉】

幅広い地域活動実践

 昭和34年に中沢農協に入組し8年間、42年からは県経済連で34年間の通算42年間にわたり、長野県農業の振興並びに地域農業とJA経済事業の発展に努めた。
 平成15年にJA上伊那の理事に就任し、18年から代表理事組合長として、JA事業の発展と経営・財務基盤の健全化並びに内部統制の確立に尽力。同年から中央会・各連合会理事・経営管理委員・運営委員として、また23年からはJA長野県組合長会会長として本県JAグループのリーダーとして活躍した。
 特に長野県の上伊那地方は戦前から農協運動の盛んな地域であり、管内には今の集落営農の先駆けとなる農業生産の組織化で、全国の範となっている地区もある。同氏は退任後も地域組合員の信頼が厚く、今も、地域のさまざなまな分野で活躍している。これまでのJA運動への貢献度は多大であり、地域の農業振興に寄与した功績は顕著である。

【略歴】
みやした・かつよし
昭和15年長野県生まれ。
34年県立赤穂高校卒。同年、中沢農協入組。42年長野県経済連移籍。平成15年JA上伊那理事、18年代表理事組合長。同年長野県農協中央会・各連合会理事・経営管理委員・運営委員、23年JA長野県農協組合長会会長。

(2014.06.27)