農政・農協ニュース

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「酪農にも最低価格保証が必要」 

−JA全青協会長 竹村英久氏

飼料や牧草の価格高騰で酪農家が相次いで廃業するなど、日本の酪農に赤信号が点っているが、関東生乳販連と乳業メーカー大手3社は21年3月から1kgあたり10円の乳価取引価格の値上げで合意した。この決定を生産者はどう捉えているのか、自身も高知で酪農を営むJA全青協の竹村英久会長に話を聞いた。 JA全青協会長 竹村英久氏 ――今回の決定について、率直な感想をお聞かせください。    「希望はもてるようになりましたが、値上げされる3月までをどうするかが問題です。まだまだ先は長いし、現場は相変わらず厳しいですよ」 ――値上げすることで、販売量への影響はどうでし...

飼料や牧草の価格高騰で酪農家が相次いで廃業するなど、日本の酪農に赤信号が点っているが、関東生乳販連と乳業メーカー大手3社は21年3月から1kgあたり10円の乳価取引価格の値上げで合意した。この決定を生産者はどう捉えているのか、自身も高知で酪農を営むJA全青協の竹村英久会長に話を聞いた。

JA全青協会長 竹村英久氏
JA全青協会長
竹村英久氏


――今回の決定について、率直な感想をお聞かせください。

    「希望はもてるようになりましたが、値上げされる3月までをどうするかが問題です。まだまだ先は長いし、現場は相変わらず厳しいですよ」
――値上げすることで、販売量への影響はどうでしょうか。
    「値上げ後の売れ行きは心配ですね。身近な人と話すと、10円ぐらい上がっても買うよ、と言ってくれますが、実際は難しいでしょう。結局はマスコミの取り上げ方次第で、大々的に値上げだと報じられると悪いイメージが植えつけられますから、それをなんとかしてしていきたいですね」
――コスト削減対策として、自給飼料の取り組みについてお聞かせください。
    「1頭あたり数十アールという広い土地がないと牧草の完全自給は不可能です。北海道はよいですが、私のように中四国では難しい。機械設備にもお金がかかります。しかしながら、自給率向上のため自給飼料は増やしていかなければいけません。来年3月に10円上がることで、多少は自給飼料増産への投資ができる見込みが出てきました」
――販売や流通の面で、こんな工夫をした方がいいというのはありますか。
    「現在は生乳販連に全く価格交渉の力がありません。現実は酪農家が乳業メーカーに囲われているようなものですよ。結局前回3円で納まった時も、酪農家の力が及びませんでした。販連の交渉力をあげていかないといけないでしょう。本当なら販連を全国で1つにして交渉力をつけるべきですが、それは独禁法でだめなんでよね。食料の生産については、独禁法を持ち出すことに疑問を感じます」
――今後への課題や展望などをお聞かせ下さい。
    「やはり、ある程度の最低価格保証を考えていかないといけません。今回のようにエサ代がどーんとあがった時にどうするのか、というね。肉用牛にはマルキン(注)制度がありますが、酪農にはありません。他の国にもあるのに日本だけないというのはおかしな話ですよ。カッチリした下支え制度がないと、長期的な経営の見通しが立たないし、20〜30年とは続けられません。我々生産者の努力も必要ですが、最低ラインの保証がなければなかなかやっていけません。
    あとは適正な価格転嫁が必要です。アメリカでも飼料代が上がって大変だと聞きますが、その分しっかりと価格に反映されています。
    ただ下支え制度も価格転嫁も、どちらにしても国民の理解が得られないと進められませんから、そういった理解を訴えていかなければいけないと思います」
    
    (注)
肉用牛肥育経営安定対策事業の通称で、生産費が粗収益を上回ったとき、差額の8割が国や地域から支援される制度。

(2008.10.29)