農政・農協ニュース

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食料安保を国家戦略に―国民会議が政策提言

 JA全中や生協、NPO法人ふるさと回帰支援センターなどが今年4月に設立した「『農』を礎に日本を創る国民会議」(会長:堀口健治早大副学長)は6月16日、シンポジウム「日本の食料安全保障を国家戦略に」を東京・永田町の憲政記念館ホールで開いた。JA、生協関係者ら400人が集まり同会議としての政策提言を発表するとともに、食料自給率向上策などをめぐり議論した。

◆万全の予算確保を

山田農相 会場には山田農相もかけつけ「食料安保、自給率向上は大きな課題。生産者が安心して持続的に生産できるようにしなければならない」として戸別所得補償制度の本格実施や6次産業化など「菅内閣のもとしっかりと政策を打ち出していきたい」とあいさつで述べた。
 舟山康江政務官は農水省の食料安全保障政策を説明。世界で食料危機が叫ばれた2年前に輸出規制する国が続出したことについて「自国民のために食料を囲い込むのは当たり前。自由貿易では解決できない。自国でできるだけ生産していくこと
が大事」と強調、食料安保の大切さを国民運動として広げていくべきだと話した。
舟山康江政務官 また、戸別所得補償制度について「赤字の補てんではなく価格に反映されない多面的機能に対する支払い」だとして「その評価を生産費と販売価格の差で計算しているもの」と説明した。
 同会議の政策提言は11項目(別掲)。食料安保にふさわしい万全の予算確保と一貫した政策が必要だとし多面的機能を国民全体で支える直接支払い制度の確立、水田を最大限活用した増産政策、担い手の確保と農業所得の増大などを求めた。
 副会長の唐笠一雄パルシステム生協連専務は「これは食と農を通じた世直し運動。菅総理は強い経済、財政、社会保障と言っているが、加えて強い農業も実現すべきだ」とアピールした。
 
◆食と農の距離縮める

食料安保を国家戦略に―パネルディスカッション パネルディスカッションは高橋公副会長(ふるさと回帰支援センター常務理事)が司会。おもに食文化や食農教育の大切さに焦点が当たった。
 大西雅彦JA全青協会長は仲間とともにジャガイモの生産と学校給食への供給に取り組んでいる。「消費者ニーズが大事という考えは若い農業者に浸透している。食農教育やグリーンツーリズムで畑に来る人たちからニーズが見えるようになってきた。消費者とのリアルな交流を持つことを大切にしたい」と話した。
 青森大学教授でエッセイストの見城美枝子氏は「食の自給なくして国の自立なし。国産しか買わないと決めているがそれがいちばん応援になる」と話し、ただ、国産農産物の消費拡大には高齢化や小家族化に進行もふまえ、無洗米の普及や、使い勝手のよい小サイズでの販売などの工夫も必要ではと提起した。
 『九州のムラに行こう』編集長の養父信夫氏は「ムラのいのちをマチの暮らしに。マチの力をムラの生業に」をキャッチフレーズに地域活性化に取り組む。「生業とは農で国のもと。直売所で小さな生業をしているおばちゃんたちは元気。そこに都会の人間が一人入ると新しい力になる」と訴え、都市住民のアイデアで複数の直売所をネットワーク化し学校給食センターに提供している九州の事例など新たな販路開拓、所得増の工夫などの例を紹介した。
 日本大学教授の盛田清秀氏は「子どもたちに食の本質を知ってもらうことが大事」と指摘し、たとえば、パンに不向きとされる国産小麦だが「それで作ったパンが日本のパン。新しい食文化として作ればいい」と提起。また、食料安保は「政治の問題として国の安全保障の問題」として国民理解を広げる必要があることも指摘、海外での農地確保や投資についても「食料安保などに貢献しない」と強調した。

◆多面的機能への理解

 こうした議論を受けて舟山政務官は「子どものときからしっかりとした食文化を伝えていくことが大事。マクドナルドの戦略は子どものうちから味覚を変えてしまおうという長期戦略。また、多少高くても国産にはさまざまな価値が含まれていることを認める。農家と消費者の距離が縮まれば相互理解につながる」などと述べた。
 会場からは健康の観点から「アンチマック」をコンセプトにした国産中心のバーガー開発を手がけている厚生連病院の看護師からの報告や、生協関係者からは「農業の多面的価値については理解はできるが……、という組合員が多い。これからは学校教育で教えていくことも必要では」といった問題提起もあった。
 全体として国産を買い支える必要性や食文化教育の大切さといった身近な取り組みに議論が集中した。ただ、ファストフードチェーンへ加工・業務用野菜として供給し所得確保をめざす産地も現実にはある。6次産業化の先駆的な例でもある。こうした問題にどう向き合うか。
 また、買い支える大切さも強調されたが、米価下落の不安を抱えるなど、産地の実情と対策の必要性などを生産者、JA関係者からもっと発言があってもよかったのではないか。それも食と農の距離を縮める活動のはずだ。

 

【日本の食料安全保障に関する提言】
(1)
食料安全保障にふさわしい予算の確保と総合的な対策を。
(2)環境、治水など農地の多面的機能を支える制度の確立を。(3)水田を最大限活用した増産政策への転換を。(4)多様な担い手の確保・農業所得増大と農地の有効活用を。(5)有機農業を中心とする環境保全型農業の推進を。(6)地域資源を循環させた「日本型畜産」の確立を。(7)輸出振興支援と適切な国境措置の堅持による新たな貿易ルールの確立を。(8)共生と安心の農村地域づくりを。(9)都市生活者の消費見直しと農業への参加促進を。(10)6次産業の推進を。(11)中山間地農業を復活させる明確な政策を。

(2010.06.17)