農政・農協ニュース

農政・農協ニュース

一覧に戻る

【農業協同組合研究会 緊急特別報告】「原発事故による農産物汚染と農協の対応」 菅野孝志氏(JA新ふくしま代表理事専務)

 "ピンチをチャンスに"という掛け声は別に耳新しい言葉ではないが、5月7日の農業協同組合研究会第7回研究大会での菅野氏の報告では全く次元の違うものとして提起され、迫力満点だった。報告は災禍の中で生産活動と組合員の暮らしを守っていくという逞しい取り組みを次々に紹介したが、底流には災害対策と農協改革を合わせて考えるスタンスも見られた。そして論旨は他団体との連帯や協同組合間協同の着実な実践などへと展開した。

営農集会で不安ぶつけ
生産活動への意欲じわり 

nous1105190601.jpg JAは3月11日、被災1時間後に災害対策本部を立ち上げ、幹部は何をなすべきかを確認。それぞれの現場に飛んだ。13日に県からの要請を受け、14日から被災者に2000食の炊き出しを始めた。
 手際が良過ぎるとの感想も出そうだが、JAは事業転換の中で飲食店などを持ち、器材も整っている。それらをどう組み立てるかが大切なのではないか。
 4月10日からは炊き出しをJAの事業に切替えた。この活動はコンビニなどに引き継ぐべきではない、JAこそが地域住民への対応力を維持していくべきだ、との思いを大切にして事業化した。


◆福島は5重苦

 原発事故と出荷停止(風評被害)を含め福島は4重苦といわれるが、私は政府統治の機能不全を含めると5重苦だと思う。自治体のガバナンスも問われている。とにかく政府は対策を示すのが遅く、国民を混乱させた。
 出荷停止で直売所から客が離れていった。我々には生産者と消費者が力を合わせて直売所をつくってきたという思いがあったが、現実は違っていた。モノがなければ協力関係が成り立たないのだと痛切に感じた。
 そんなことからもJAのホームページ(HP)のリニューアルを始めた。1か月も前の記事を平気で載せているようなことはやめ、農業生産活動の再生に取組むJAの新しい情報をこまめに伝えた。


◆発信力を強化

 その結果、4月5日からの1カ月間でアクセス数は1500件を超えた。従来のネット販売は年間200件どまりだったから大きな違いだ。福島産が敬遠される中で“積極的に福島産を食べています”といったメールなどは力強い支援となっている。
 4月5日には緊急営農集会を20カ所で開き、販売農家4800戸のうち3200余戸が集まった。
 そこでは、国県の土壌分析箇所は県内70カ所だけで、放射線量の多い地域は対象になっておらず、そんな中でおれたちは作っていいのだろうか、などといった不安が続出した。 集会は「JAは組織の命運をかけて組合員の暮らしを守ります」を基調に、行政が余り受け止めない不安でも農協なら受け止めてくれるという感じとなったが、その後、組合員の間には生産活動への意欲がじわりと芽生えてきたように思う。
 なお申し添えると、集会直前の理事会ではJA役員報酬の10%カットを決めていた。


◆ピンチの中で

 さて復興だが、ピンチの中にチャンスの芽があることを忘れてはならないと思う。例えば原発事故では放射性物質による土壌汚染対策として土地改良資材に対する肥料などの供給を増やすというチャンスが予想できる。
 手数料なんかの問題は今後の対策の中で、いわゆる地域農業振興資金を投入すれば、どんと下げることも可能だと考えられる。というわけでピンチをチャンスに置き換えることが必要ではないか。
 また避難者への給食にしてもピンチの中でつかんだ事業展開だった。地元食材の消費拡大が図れるわけで、避難者もコンビニ弁当は脂っこいなどといい、農協製の弁当のほうを支持している。
 さらに出荷ピンチの中で東京の花・野菜・果実の3市場代表者が一堂に会して話し合うという機会が持てたということもある。
 これまで東京では1度も集まったことがなかったが、今回初めて4月24日に東京で顔をそろえ、現地の実情を聞いていただき、3市場が連携して新ふくしまのために対策を打っていこうという話し合いをしていただいた。


◆員外に目配り

 今後の重要課題には、
[1]生産活動をいかに安定的に行うか
[2]賠償と補償の取り組みを進める
[3]員外にも目を向けて協同の輪を広げていく
ことがある。
 1人では賠償・補償を要求できない、農協だったらやってくれるのではないかという人が増えて、これまでJAに目も向けなかった人たちも期待を寄せるようになっている。
 JAの組合員ではない観光的農業の組合員たちが被災後、JAに援助を求めてきた例もある。風評被害で客が来なくなった、対策として「JAのホームページを利用させてもらえないだろうか」という頼みもあった。
 JAとしては、系統外ではあっても同じ協同組合員の要請には対応していくのが基本。そこへピンチをチャンスに置き換えるスタンスがつけ加えれば、我々として今後、やらなければいけない部分が非常に大きくなると感じている。
 さらに強調したいのは、スリーマイル島、チェルノブイリと並ぶ世界の大きな原発事故のうち1つが日本で発生したことだ。広島、長崎を加えると、5つの人災のうち3つが日本で起きている。
 そこで我々としては、命と産業を守り、育んでいくために、これに関わるすべての調査研究をするための機関を、ぜひとも、この福島の地につくり上げていくべきだと考える。
 既設の大学内に設置するかどうかは別として福島は地勢や農業、畜産業などを見ても立地に恵まれている。総合的で実践的な研究の場を新設するための運動を展開したい。
 反TPPの運動については署名をほぼ目標通り集めた。これまでJAは市民活動家などといっしょに行動するようなことはほとんどなかったが、今回は幅を広げていろんな人たちの輪を組み立てた。その中で政党なり思想の違いを乗り越え、同じ思いの中でともに行動することが非常に大切だと痛切に感じた。

農業協同組合研究会第7回研究大会 『農業の再生』を考える

(関連記事)

この町はどうなるのか? 先行き見えない被災地 家族は離れ離れ―津波と原発事故  南相馬市の住民の声(2011.05.12)

【緊急特集】緊急ルポ―JA新ふくしま管内は今  「原発」が農業を崩壊させる(2011.04.04)

【農業協同組合研究会】第5回現地研究会inJA新ふくしま 「果実販売戦略のこれから―農家手取りの最大化を目指して―」(2010.10.05)

(2011.05.19)