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評価までの「時間は読めない」 牛肉輸入規制緩和問題で食品安全委

 厚生労働省は昨年12月19日、食品安全委員会に輸入を認める牛肉の月齢や国内の検査対象月齢の引き上げなどの内容を諮問し、同委員会のプリオン専門調査会で1月19日からリスク評価を開始したが、熊谷進委員長代理や事務局は諮問内容も多く、最新の科学的知見も増えていることから答申までには「時間的に読めない」などとの見通しを2月15日に示した。結論についても「まったく分からない」としている。

◆増えた評価項目

 諮問内容は大きく3つある。
 ひとつは「国内措置」で、(1)検査対象月齢を現行の「20か月齢」と「30か月齢」に引き上げた場合のリスクの比較、(2)除去すべきSRM(特定危険部位)のうち、「頭部」、「せき髄」、「せき柱」について現行は全月齢から除去することにしているが、これを「30か月齢以上」とした場合のリスク比較、である。
 もうひとつは「国境措置」で、輸入を認める月齢制限を現行の「20か月齢以下」から「30か月齢以下」に
引き上げた場合のリスクの比較と、除去すべきSRMについては国内措置と同様の見直し(頭部、脊髄、脊柱は30か月齢超)とした場合のリスクの比較である。
 これに加え、国際的な基準をふまえて、今後さらに月齢制限を引き上げた場合のリスク評価も諮問内容となっている。
 厚労省は今回の諮問の理由として、2001年にわが国でBSE(牛海綿状脳症)発生が確認され対策が実施されて10年が経過したことや、米国・カナダ産牛肉のリスク評価からも6年がたったことなどをふまえ、新たな知見ももとに見直しが必要だとしている。
 この諮問に対しプリオン専門調査会(座長:酒井健夫日大生物資源科学部教授)が今後評価を進めていくことになるが、前回(平成17年)の米国・カナダ産の輸入規制問題を評価したときにくらべ、今回は「諮問内容は5倍ともいえる」(本郷秀毅事務局次長)と食品安全委員会は受け止めている。

食品安全委員会への食品健康影響評価の諮問内容

◆十分な検証に時間かかる

 評価すべき国の数は前回は米国とカナダの2か国だったが、フランスとオランダも加わり、また同時に「日本」の国内措置も評価対象だから計5か国、つまり前回より「2・5倍」となる。
 さらに前回は「月齢」だけがリスク評価の対象で、SRMについては全月齢で除去することは実際にそれが担保されているかどうかは問題だとしても「1項目」だけだった。それが今回は一部のSRMで月齢緩和をしていいかどうかも加わる。すなわち項目としては「2倍」になり、あわせて5倍というわけである。 評価作業としては日本も含め、安定的なBSE対策が実施されているか、と畜解体プロセスで安全性が確保されているか、当該国からわが国へのBSE侵入リスクはどうか、などについて「各国ごとに評価していくことになる」という。そのため最新の知見も含めた論文や、各国の情報などを「集めるだけでも大変」ななかで作業が進められている。
 そのうえで「結論はまったく分からない」「時間的にも読めない」などとの見通しを熊谷委員長代理は示した。
 牛肉輸入規制緩和問題では昨年11月のAPEC日米首脳会談で、オバマ大統領が輸入制限の撤廃を求め、野田首相は「BSE対策全般の再評価を行うことを決定し、規制緩和に向けた手続きを開始した」と前のめりの回答をした。この姿勢にTPP交渉参加に向け、あらかじめ米国との懸案事項の解決をはかるつもりではないかとの強い批判も出た。政治的な圧力で規制緩和が急がれてはならないことは言うまでもないが、熊谷委員長代理が示した見通しは、科学的な検証を進めるにあたっても今回の諮問内容自体が多岐にわたり時間がかかるものといえそうだ。
 厚労省はBSE対策実施から10年経過したことを再評価の理由にしている。しかし、わが国でこれまでのところBSE牛として確認された牛のうちもっとも遅く生まれたのは2002年。OIEではもっとも遅く生まれたBSE牛の生後11年を経過すれば「無視できるリスクの国」と評価される。したがって、日本は来年、2013年2月にその要件を満たす見通しになっている。この点でも、なぜ今見直しなのかという疑問につながっている。国民が十分に納得できる検証が行われ理解が得られるかどうか今後の検証作業が注目される。


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