農政・農協ニュース

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TPP議論、情報不足に不満 地方シンポでの政府説明

 政府は共同通信社と全国地方新聞社連合会が主催する「TPPをともに考える地域シンポジウム」に関係閣僚らが出席して、TPP(環太平洋連携協定)についての情報提供と意見交換を行うことにしており、2月19日の名古屋でのシンポジウムから始めた。
 参加者からは「米国のルールが押しつけられ日本のかたちがかわってしまうのではないか」、「関税撤廃で安いモノが入ってくればデフレが加速するのではないか」、「公的医療保険制度がなくなってしまうのではないか」といった懸念の声が上がり、積極的にTPPを推進すべきとの主張はほとんどなかった。
 政府側からは古川元久国家戦略担当大臣が出席し「多国間交渉であり、米国の言う通りになるなどそんな簡単なことではない」などと反論したが、多くの懸念については「交渉に参加するか否かが今決まっているわけではなく、まさにこれから関係国との協議でさまざまな情報を収集して示していくことになる」などとの説明を繰り返し、参加者から、これでは議論にならないとの声も聞かれた。

◆「アジアの成長取り込み」を強調

TPPをともに考える地域シンポジウム シンポジウムで古川元久大臣は、日本は人口減少と高齢化で市場が将来縮小していくと強調しTPPの意義について次のように説明した。
 ▽わが国はアジア太平洋地域の成長力を取り込むことが重要で、APEC首脳会合では「アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)」の実現をめざすことになっている、▽TPPはその実現に向けた道筋の1つで唯一具体的に進んでいる交渉、▽現在の9か国に加え参加意向を示したカナダ、メキシコとわが国を合わせればAPEC加盟21か国の過半数の11か国となり、TPPが将来スタンダードになってくる可能性がある、▽ASEAN+3(日・中・韓)、ASEAN+6(日・中・韓・豪・NZ・印)も同時に進めていく。
 そのうえで関税の即時撤廃、食品安全、公的医療保険の廃止などの不安も国民から示されていることや、政府の情報提供が少ないことへの批判もあるとして、情報収集に努め「国民的議論を経たうえで、あくまで国益の視点に立ってTPPについての結論を得ていく」との野田首相が昨年から繰り返す言葉を強調した。


◆TPPは「社会的排除」を増大

 パネリストの1人として農林中金総研の岡山信夫専務が出席した。 岡山氏は▽アジアの成長を取り込むというが中国の参加は見込みがたい、▽TPPは関税撤廃だけでなく非関税規制も撤廃し、米国が追求する「競争条件の平準化」をめざすもの。農業だけでなく地域経済に大きな悪影響を及ぼす。米国主導で国の制度変更が迫られ主権侵害にもつながりかねない、などのほか、外国企業が投資先国にビジネス上の障壁となる制度があるとして相手国政府を訴えることができるISD条項の危険性を訴えた。
 また、2011年のダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)での菅前首相の講演内容の問題点を指摘した。
 同会議で菅前首相は「開国と絆」と題して講演、そのなかで「開国にともなう格差や孤立の解消には新しい絆の創造が必要で『社会的包摂』の取り組みが重要」と話したという。
 これについて岡山氏は菅前首相の言う「社会的包摂」が必要になるのは「社会的排除」が生まれるためだ、と指摘。社会的排除とは、貧困や教育機会の欠如、差別のために社会の隅に追いやられ、社会参加や雇用なども得られなくなる状況のことで、この認識を菅前首相が国際的な場での演説の前提としたことに対して「実に驚くべきこと」と批判。TPPは社会的排除の増大につながると強調した。


◆デフレ加速も懸念

 パネリストの名古屋大学・多和田真教授は、比較優位論による分業を進めグローバル化に向き合うしかないと教科書的な説明をしたうえで、ただし、市場原理ではうまくコントロールできない食品安全や環境問題などは政府が補正する必要があるとした。
 そのうえでTPPについては参加して情報を得ることも重要だが「東アジアを味方につけたほうがいい。アジアに信頼されることが大事」などと主張した。 タレントの大東めぐみ氏は主婦の立場から食品の安全、低い自給率に関心が高いとして「安心した住み続けられる日本を残してほしい。もしものときは不参加という判断も」などと話した。
 会場からは農業の再生が急務になっていることや、TPP参加による中小都市への打撃、公的保険制度、外国人労働者の増加による雇用などへの懸念などの意見が出た。また、「デフレ脱却が課題なのに、安いモノが入ってきてデフレがさらに加速。失業も増え内需がさらに減ることにならないか」、「国益というが国民を大切にしているか」といった声もあった。


◆どう情報開示?

 古川大臣はこれらの指摘に、すべての品目を自由化交渉のテーブルに載せるといわれているが、これまでの情報収集では「参加国で合意されているわけではない」ことや公的医療保険や単純労働者の受け入れ、遺伝子組み換え食品表示などの問題は「議論されていない」などと述べたほか、デフレ加速については「市場が拡大すれば日本の供給力をいかすことになる。デフレ加速になるとは考えていない」などと反論した。 また、公的医療保険制度がかりにテーマになったとしても「どの国も米国の医療制度を導入しようとは思っていないだろう」として利害を同じくする他国と連携して交渉するのが多国間交渉だと強調した。
 ただ、TPP交渉の状況や他国が日本に求めることについての情報は少なく、古川大臣が食の安全や医療制度を守るというのは当たり前の“決意表明”に過ぎない。
 今後、国民的議論を進めるには情報開示が不可欠でこれがなされなければ何度説明会をやってもかたちだけに終わる。
 情報提供について古川大臣は「外交交渉だから最初から手の内を見せてしまえば交渉では不利になる。そういった意味では限られた部分も出てくるが、できる限り出せる情報は出していくというスタンスのもとで努力はしていきたい」と述べるにとどまった。
 シンポジウムは26日には秋田で開催されており、今後、横浜、神戸、広島、福井、福岡、札幌、高松で開催される予定。

(2012.02.28)