農政・農協ニュース

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JAで活きる学生の知識とアイデア ―JAと高等教育機関との連携―

 JAによる小学生や中学生を対象にした農業体験や食育指導は全国各地ですすめられており、近年では大学や高校といった高等教育機関との「産学連携」も増えている。では、JAにとって学校との連携はどんな意味を持つのだろうか。
 最近の事例を見ると学生の知識と新鮮な発想を付加価値に、農産物の消費拡大や地域へのPRを期待するだけでなく、未来の農業や食を支える次世代対策としての取り組みでもあるようだ。

◆特産野菜復活の振興役に

さがみグリーン JA相模原市(神奈川県)は今年3月、県立相原高校と産学連携を結んだ。同校は市内で唯一、商業系の学科とあわせて畜産科学科や食品科学科をもつ専門高校だ。
 産学連携で取り組みの中心となるのが相模原市でしか作られていないという「さがみグリーン」の復活だ。
 さがみグリーンとは県がカラシナとタカナを掛け合わせて品種改良した葉物野菜で、特産品に育てようと15年ほど前に誕生した。主に漬け物用として販売していたものの、消費量が伸びず生産は減少、近年はJAが細々と栽培する程度だったという。
 このさがみグリーンをもう一度地域の特産品として育てようと、昨年JAが同校に相談したことがきっかけで両者の交流がスタート。昨年は同校の農業クラブの活動として10人ほどの生徒が栽培から収穫を体験した。レシピ作りにも取り組み、さがみグリーンを生地に練り込んでグラタン風の具にも使用した惣菜パンを考案した。
 この小さな交流を学校全体に広げ、さがみグリーンを通した地域農業の振興をめざしたいと考えている。そこでまずはさがみグリーンの魅力発信に高校生の力を期待する。同JA営農センターの山口功次長は「JAは原料の供給しかできないので高校生が消費拡大の手段に力を貸してくれることで生産が増え、いずれは地域農業全体の活性化に貢献できれば」と話す。
マルチ張りを体験する生徒 同校の生徒は昨年に引き続きJA職員の指導を受けながら播種から収穫までを体験、そして学校で学んでいる知識や高校生ならでは発想を活かした活用法を地元のレストランや食品会社に提案していきたいとする。「生産者では思いつかないあっと驚く発想を期待したい。地元の高校生が考えたレシピというと地域の人へのアピール度も高いです」と山口次長は期待する。高校生にとっても地域の農業振興に関わることで、普段の授業では味わえない経験から学べる点が大きなメリットだろう。
 また、さがみグリーンは播種から45日で収穫でき、葉物で軽いため高齢者でも栽培しやすいのが特徴。今後さがみグリーンに注目が高まることで高齢農家のリタイアを1年でも長くできればと山口次長はいう。この取り組みを皮切りに今後は他の野菜の消費・生産振興にも応用していきたいと考えている。

(写真=JA相模原市)
上:さがみグリーン
下:マルチ張りを体験する生徒

◆世代教育も視野に

 JAとしてのもうひとつのねらいは、将来親となる生徒に農業と食の大切さを知ってもらうことだ。今後は青壮年部や女性会との交流も図っていくといい、「次世代のその次の世代まで農業の応援団を育てたい」というのがJAの思いだ。山口次長は「農業教育に有形無形の支援をしていくことで、それが市内の農業振興につながるものとして返ってくれば」とこれからの発展を期待する。
 JAにとって高等教育機関との産学連携は、食と農の大切さを教えられる大人になってほしいという次世代教育としての意味も大きい。

◆農業の理解者を育てる

 JA福岡市とJA福岡中央会も5月30日、地域の発展と人材育成をめざし同JA管内にある中村学園大学・短大と連携協定を結んだ。
 同大学は栄養分野や教育分野を専門としていることから、将来は教諭や保育士、栄養士の道に進む学生もいる。そのため、本物の農業の理解者として将来現場で活躍できる人材育成に役立てたいというのが双方の思いだ。
 まずは「アグリスクール」を開き、作付けから収穫、伝統食の調理などを学生が体験していく。JA福岡市の宗欣孝総合企画室長は「次世代に農業を訴えかけていくことはJAの命題。近い将来母親になる学生に日本の農業のことを知ってほしい」と話す。

◆「直売所」が教育実践の場

こどもの日のイベントでは子どもたちの先生に JAさがみ(神奈川県)では「直売所」を舞台に鎌倉女子大学との連携に取り組んでいる。
 この活動は県によるNPO・大学などとJAによる連携促進事業として昨年スタートした。食や栄養、健康を専門的に学ぶ管理栄養学科の学生とJAとが連携することで地域住民の健康増進や食への関心を高めていくことが目的だ。
 取り組みは学生たちによる直売所での販促活動が中心。学生が学んでいる栄養や食品表示といった専門知識を活かした手作りのツールでアピールしている。例えばエビイモは「脂肪燃焼に必要なビタミンB2豊富」「低カロリー」といったようにイラスト付きのPOPやカロリー付きの簡単調理レシピを置いて売り場を飾る。レシピはすぐになくなってしまうほど人気だという。
 JA直売所「わいわい市」藤沢店の佐藤洋店長は「直売所の利用者は年齢層が高いので、カロリーや栄養について知りたいという人が多い。JAにはない知識を学生さんにプラスしてもらうことで野菜の販促効果につながっている」と話す。
こどもの日のイベントで子どもたちの先生に 一方、学生側にとって直売所は成果発表の場でもある。お客さんと直接ふれあうことで年齢層によって求められる栄養素の違いやわかりやすい表現方法など、現場から学べることも多いという。
 店内販促以外にもこれまで店内のイベントに参加し、子どもたちに食育を伝える企画などを行ってきた。こういった取り組みは学生が教育を実践する場としてだけでなく地域の子どもたちへの食育教育にも役立ち、これまで直売所に足を運んでもらいにくかった若い母親たちが来店するきっかけにもなっている。
 今年は学生が自ら野菜づくりにも挑戦。農家と学生との交流会も開く予定で2年目を迎えた取り組みは発展をみせる


(写真=JAさがみ)
こどもの日のイベントでは子どもたちの先生に

(2012.06.19)