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「懸念事項」で政府に回答求める  民主経済連携PT

 民主党の経済連携PT(プロジェクトチーム)は7月25日の総会でTPP(環太平洋連携協定)に対する懸念事項をまとめ、議論を始めた。PTが示した懸念事項に対する政府の回答も求め検証していく。

◆政府説明に納得せず

 経済連携PTは前回の総会でTPPに対する懸念事項を整理することで合意し、この日の総会で別掲の内容を了承した。
 懸念事項は総論と分野別に3つの個別論点として整理した。ただし、投資家が国家を訴えることのできるISDS条項について櫻井充座長は「ISDSは別に扱うかもしれない」と話し、今後、この問題だけで集中的に議論する可能性も示した。
 この懸念事項についてPTでは「議員間議論に加えて政府の対応も示すほうが議論がかみ合う」(吉良州司事務局長・衆議院議員)として、政府の説明をもとに議論する方針だ。
 この日は「総論」について政府が説明。懸念事項は「TPP交渉参加には何らかの前払い条件を求められるのではないか」、「100%関税撤廃が原則なのか」、「合意済みの事項については再協議できないのではないか」など6項目。ただし、政府はいずれもあいまいな説明に終始。たとえば、交渉参加に際して、米国はすでに自動車分野で6項目の関心を示していることから、「求められている、と明確に回答すべきではないか」などの批判が続出し、次回総会で再度回答するよう求めた。
 ただ、総会で合意したとはいえ、推進派の議員からはこの懸念事項そのものに否定的な意見も出た。
 たとえば「100%関税撤廃が原則か。例外はまったく認められないのか」という事項について、議員からは「そもそもWTO(世界貿易機関)交渉でも100%関税撤廃を原則としてめざすもの。ただし、それぞれ実情があるからいろいろな妥協点がある。TPPに限らず自由貿易とは100%撤廃を原則として追求している。原則があり例外があるというのは当然なのではないか」との意見もあった。


◆議論に注視が必要

 農業分野の論点では○内外価格差が大きい米、特定地域の主要産業である砂糖等、実現可能な対策が困難な品目があるのではないか、○食料自給率が大幅に低下し食料安保上問題が生じるのではないか、○センシティブ品目の除外は認められるのか、など5項目に整理した。
 これらの項目について政府がPTの場でどう説明するかも大きな焦点になる。
 総会では推進派議員から「米はやはり守らなければいけない」との意見が出されたのに対し、慎重・反対派議員からは「米だけではない」との異論も出されたという。この議論を受けて櫻井座長は農林水産分野の懸念事項に政府がどう対応するのか、明確な説明を用意するよう求めたという。こうした経過から、今後の政府の説明とPTの議論の行方によっては、今回の懸念事項の整理そのものが「どの品目をどう守るのか」という先走った議論に進みかねない、という懸念も出てきかねない。当面、政府がこの問題にどう説明を用意するかが焦点だが、PTの議論には一層注視が必要になってきた。


●民主党経済連携PTがまとめたTPPの懸念事項

1:総論
(1)TPP交渉参加に際し、米国等から何らかの条件(前払い)を求められるのか。
(2)ハイスタンダードの定義は何か。100%関税撤廃が原則なのか。例外はまったく認められないのか。
(3)参加国で合意済みのルールについて再協議できるのか。
(4)TPPは米国中心の枠組みであり、他の経済連携に悪影響を与えるのではないか。(5)交渉内容は非公表であり、十分な事前の情報収集はできないのではないか。
(6)TPPに参加すると、環境基準、食品安全、労働法規等の分野において、米国側につくことになり、今後のマルチのルールメイキングで手足を縛られる可能性があるのではないか。

2.個別論点 その1(農林水産業関係、食品安全等)
(1)農林水産業への悪影響が甚大ではないか。特に、内外価格差が大きいコメ、特定地域の主要産業である砂糖等、実現可能な対策が困難な品目があるのではないか。
(2)食料自給率が大幅に低下し、食糧安全保障上問題が生じるのではないか。
(3)センシティブ品目の除外は認められるのか。
(4)戸別所得補償制度、漁業所得補償制度、漁業補助金等が否定されるのではないか。
(5)GMO表示、農薬の安全基準等について緩和を求められるなど、食の安全が損なわれるのではないか。

3.個別論点 その2(TBT(各国の法令による規格などの貿易の技術的障害)、政府調達、知財、医療等)
(1)自動車の安全基準・環境基準の緩和、自動車税制の変更を求められるのではないか。(2)公共事業等において外国企業が参入し、地元企業の受注機会が減少するのではないか。(3)保護期間変更によって、医薬品業界、とりわけジェネリック薬品への打撃が大きいのではないが。
(4)米国の医薬品業界が薬価決定プロセスに参加し、薬価の高騰を招くのではないか。(5)日本文化の一部として海外でも受け入れられているアニメ、コスプレなどのサブカルチャーが保護の強化によって競争力を失う可能性がある。
(6)混合診療の解禁等、国民皆保険制度が影響を受けるのではないか。
(7)郵便、水道などの公的セクターに海外の営利企業が参入し、公共性が保てなくなるのではないか。
(8)医師、薬剤師、税理士等の免許・資格の相互承認が求められるのではないか。

4.個別論点 その3(商用関係者の移動、金融サービス、ISDS等)
(1)外国人労働者の流入により、日本人の雇用機会や賃金が減少するのではないか。
(2)労働法規について統一基準・仕組みを設けると、労働紛争解決について問題が生じるのではないか。
(3)日本郵政におけるユニバーサル・サービスが担保できなくなるのではないか。簡保の新商品販売が認められなくなるのではないか。
(4)共済の税制・規制上の優遇措置がなくなるのではないか。
(5)ISDS条項(投資家対国家の紛争解決条項)により我が国の主権を害されるのではないか。
(6)国営企業への規制、電力会社などの地域独占企業を民間とイコールフッティングにしなければならいこと、電波オークション、新聞再販制度についてもデメリットになるのではないか。


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