農政・農協ニュース

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支店を軸にしたJA運営と人づくりの課題 第15回JA人づくり研究会

 全国のJA、連合会、中央会の常勤役員、幹部職員などで構成するJA人づくり研究会(代表:今村奈良臣東京大学名誉教授)は12月6日、東京・大手町のJAビルで第15回の研究会を開き、「人づくり・モノづくり・組織づくり」をテーマに意見交換した。農業生産の組織化、広域合併JAの運営、および民間企業の女性活用事例の発表報告の要旨とディスカッションで挙がった問題をまとめた。

◆環境変化にどう対応するか?

人、モノ、組織づくりで意見交換した人づくり研究会 研究会では今村奈良臣代表が自ら提案し、同研究会のメーンテーマの1つにもなっている農業の6次産業化のあり方について問題提起。最近は「流通・販売企業が中心となり、農産物等の加工企業を押さえ、農畜水産業は単なる原料供給の地位になりつつあるのではないかという事態が進展しつつある」と指摘した。
 農業の6次産業化は農林水産業が主役であり、その主体的活動を基本とする。同代表は、今日農村の直売や起業で主役となっている高齢技能者や女性への期待を述べた。JAにはリーダーづくりや直売所など環境整備のための支援が求められている。
 JAの取り組みでは、JAあいち中央が、集落農場づくりの取り組みと広域化によるJAの指導体制の変化、支店の組織改革、人材の育成などで報告した。

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人、モノ、組織づくりで意見交換した人づくり研究会

◆支店を軸に集落農場

安藤義美・JAあいち前常勤監事 同JA管内の安城市は「日本のデンマーク」といわれ、早くから圃場整備に取り組み、施設・機械の共同利用などによる生産の組織化も早かった。
 一方、兼業機会にも恵まれ、農地の所有と利用の分離が進んでいた。こうした背景のもとで1988年から集落農場づくりに着手。その考えは所有と利用の分離を基本に集落を一つの農場として捉え、農地、人などの資源の利用方法をみんなで知恵を出し合い、集落の農業・くらしを発展させようというものである。
 JAはこれを全面的に支援。とくに支店は集落ごとの農用地利用改善組合の事務局を担い、行政の農務連絡員も兼ね、支店長が全責任を負う。これを安城方式として推進してきた。しかしその後、広域合併や支店の統廃合によって支店長の掌握範囲が広がり、さらに人事異動によって未経験の支店長が配属されるなど、集落のマネージャー的役割を果たしていた支店の機能が低下した。また支店ごとに機能していた営農指導や経済事業も広域の営農センターに移った。

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安藤義美・JAあいち中央前常勤監事


◆集落支えるJA職員づくり

 発表報告した同JAの安藤義美・前常勤監事は「集落農場方式が向かない集落が出てきた。全地区統一で実施することは無理がある。主役は集落でJAは仕掛け人であるということに徹し、安城方式を基本としながら、それぞれの地区にあった方法を変えていった」と、環境の変化に対して柔軟な対応の必要性を指摘した。
 また、合併と支店統合による組合員と支店の関係変化は他の事業にも影響が出ており、「JAが自ら組合員に近づく取り組みが求められる」と、支店運営委員会や支店座談会の開催などに力を入れている。そのためには組合員・利用者のニーズを的確に捉え対応できる職員が欠かせない。同JAでは2011年度から人づくりプロジェクトを立ち上げ、「協同組合の理念・役割を理解し、事業・活動を実践できる職員」など、JAに求められる職員像を示した。

◆「異邦人」との交流が大切

黒田義人・JAえひめ南組合長 JAえひめ南は「事業展開と人づくり、危機管理」で報告。同JAは経営不振のミカン専門農協を合併し、また、離島の住民の足を確保するため運営しているフェリー会社の経営が厳しい状況にある。 その中で職員の士気昂揚のため臨時職員の正職員登用職域の拡大、年齢による給与削減の廃止、基本給の引き上げなどを行った。公正、公平性を保つことで士気を高めようというものである。
 職員は経験を積むことで成長する。報告した同JAの黒田義人組合長は「人材育成は、仕事を通じてその人が学びの必要性を痛感するところから始まる。その確率を高めるのは広義の?旅?である」という。
 このため職員には、あぐりスクールにおける児童引率、出張等における?異邦人?(他業者)との交流、個人の意見発表、組合員訪問などを組み合わせ、配置転換等によって、さまざまな経験をさせるべきだという。そのうえで次代を託せる人材を発掘・養成すべきだと指摘する。

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黒田義人・JAえひめ南代表理事組合長

◆いかにモチベーションを高めるか

林正二・旭物産社長 茨城県で、もやし生産とカット野菜など野菜加工の旭物産の林正二代表取締役社長は、同社の事業内容と人づくりで報告。特に従業員の多数を占めるパート女子職員のモチベーションアップの取り組みについて報告した。
 同社は約430人の職員のうち250人がパート職員で、そのほとんどが女性。社員登用制度、評価制度、誕生日手当、永年勤続者の旅行などでモチベーションを高めている。
 パートはパートナー(準職員)への登用制度があり、さらに正職員への道もある。10年余で55人がパートナーに、うち28人が正職員に昇格したという。
 誕生日手当は勤続年数に2000円を掛けた金額に、年齢に500円掛けた金額を加えたもの。つまり勤続年数、年齢が高くなるほど金額が大きくなる仕組みだ。
 林社長は「カット野菜などは機械化できない部分が多く熟練のパートは大事な戦力。働く意欲がある限り仕事を保証する」という。2011年のパートの平均年齢49歳で、65歳以上の人が15%を占める。「社員が楽しく働けるよう常に考えている。こうした取り組みの積み重ねが社員の会社への信頼につながっている」と、EC(社員満足)の重要さを強調する。

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林正二・旭物産社長


◆地域に精通した人材を

 ディスカッションで焦点なったのは、支店統廃合による組合員との距離の問題。多くのJAで関係の疎遠化が進んでおり、JAえひめ南の黒田組合長は「支所は組合員とのへその緒のようなものであり、現在の支所は残す。やはりJAは協同組合の原理原則を失ってはいけない。理念の認識があるうえで仕事をしないと、支所は単なる物売りになってしまう」と安易な廃止に警鐘を鳴らす。
 また75支店を25支店に統合したJAあいち中央の安藤前常勤監事は「統廃合したが、サービスを低下させないため、すべての店舗を新築し自己完結型にした。その結果、若い次世代の利用が増えた。しかし?おらが農協?の意識が薄くなり、高齢者の足が遠くなった」という。
 このほか、広域化すると支店に地元の出身者がいなくなることの是非について「給油所や信用部門はともかく中核となる人材にはその地域に精通している職員が欠かせない。人事面での配慮が必要」、将来の中核人材の育成には「選抜制度を充実させたい。中央会に期待する」、職員による不祥事について「確信犯には外面的な砦をつくってもだめ。意識の醸成により、心の砦をつくるよう努めるべきだ」などの意見があった。


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