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【JA全農畜産事業部特集】 「新ETシステム」の拡大めざす  JA全農ET研究所

 今年2月の機構改革でセンターから研究所に昇格したET研究所は「新ETシステム」の普及に力を入れている。

◆世界に誇る高受胎率

 ET技術とは、優良血統の雌牛に過剰排卵処置をし、優良な雄牛の凍結精液を人工授精して受精卵を作成、それを雌牛から採卵、良品質の受精卵を他の雌牛に移植するものだ。
 受精卵は、現場のニーズに合わせて黒毛和種、ホルスタイン、交雑種など畜種別の生産はもちろん、乳牛では雌判別精液を利用した受精卵の生産も行われている。
 受胎率の高さは概ね70%前後と世界に誇る高さだ。それを維持しているのが受精卵の「厳選」。供給卵の衛生検査は徹底しており、とくに牛ウイルス性下痢症(BVDV)は導入時に陰性が確認されたもののみを供給。また、発育に影響する遺伝子病の検査も行っており、発育不良の可能性が高い因子を持つ精子と卵の交配は行っていない。
 このようにして研究所では育種価の高い雌の牛群を増やしてきた。

◆新たなビジネスモデル

 新ETシステムとは、新たな受精卵移植技術に応えるためのシステムである。
 たとえば、乳牛の経産牛の受胎率が低いことへの対策として、「乳牛X精液」を活用した雌受精卵の生産拡大がある。乳牛X精液とは精液の段階で精子を分離し受精卵が雌となるよう精製したものだ。また、人工授精で受胎が困難な不妊牛のための低価格なF1(交雑種)受精卵の生産拡大も進めている。
 乳牛は夏場のヒートストレスで受胎が進まないことが経営に打撃を与えている。したがって、ETの活用はヒートストレス対策としても有効となる。
 また、和牛繁殖農家で飼養されている高齢牛への受精卵移植にも積極的だ。高齢牛は繁殖性に優れていても、10歳から15歳前後の母牛では血統が古く人工授精による産子の市場評価はどうしても低くなる。しかし、そこに優良な受精卵を移植すれば市場評価の高い子牛を生産することが期待できる。
膣鏡を用いた子宮頚管外口部・膣内の検査。受精卵移植師の毛利清輝さん さらにET技術を普及させるため、22年度からは職員が現場に出向いて移植する事業にも取り組んでいる。その現場で計画的に移植を進めるために開発されたのが「発情同期化処置」である。これはPRIDと呼ばれるホルモン剤を膣内に一定期間、留置させることで発情を促すもので、これによって農場で一斉に移植が可能になる。
 とくに東北と九州地区では上士幌から新鮮受精卵をチルド輸送する技術も開発したこともあって、この発情同期化処置による集中移植が可能になっている。
 そのほか新ETシステムでは移植時の黄体確認を従来の触診ではなく超音波診断によって農家にも「見える化」して説明できるようにしているほか、妊娠鑑定も実施することにしている。

(写真)
膣鏡を用いた子宮頚管外口部・膣内の検査。受精卵移植師の毛利清輝さん

◆従来の「枠」にとらわれず

膣内留置型黄体ホルモン製剤(PRID) 一方では血液検査の実施と添加剤による体質改善という新たな事業にも乗り出す。
 乳牛の経産牛では、血中尿素窒素(BUN)と血糖値の比が0.3以上の牛では受胎能力が大きく低下することが分かってきた。
 そこで(株)科学飼料研究所と共同でBUNの割合を下げる添加剤を開発し、この4月からビタミン・アミノ酸入り混合飼料「とまるちゃん」として発売。経産牛は発情同期化処置を行う際に全頭で血液検査を実施、血液中のBUN/血糖値が異常値であれば、この混合飼料を給与して受胎率を高めるという戦略だ。
 青柳敬人所長によると、このような新ETシステムの普及に向けてモデル地域の拡大に力を入れていくほか、研究面では受胎率に関わる遺伝子解析技術の開発、チルド輸送した新鮮卵の1週間保存技術の開発(産業総合研究所との共同研究)、不受胎牛対策のためのチルド精液を応用した受胎率の実証試験など、これまでの枠にとらわれず畜産生産基盤の強化と農家経営の安定のための課題にチャレンジしていくという。

(写真)
膣内留置型黄体ホルモン製剤(PRID)


【新ETシステムの流れ】

[1] 生産者からET希望牛の申込み
[2] JA担当者とりまとめ、ET研究所へ連絡
[3] 発情周期同期化?選畜(経産牛はBUNと血糖値の検査)・ホルモン剤処置(PRIDの挿入)
[4] プロスタグランジンF2α投与
[5] PRID除去
[6] 発情確認
[7] 超音波画像診断装置を用いた黄体確認・移植適否の判断
[8] ET(受精卵移植)
[9] 妊娠鑑定

 


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