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この人と語る21世紀のアグリビジネス

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山崎直昭氏

得意分野で"顔"つくる「デザートのメイトー」目指す
協同乳業(株)代表取締役社長 山崎直昭氏

 中堅の総合乳業メーカーとして製品のラインアップは大手と同じ。これは逆にいえば特徴がないという感じになる。そこで得意分野のプリンに力を入れるなど協同乳業の「"顔"をつくって『デザートのメイトー』を目指す」と意欲的だ。しかし乳価はここ1年に2回引き上げられ、世界不況の中で、価格転嫁は十分にできず、20年度の収支は非常に厳しいと苦渋を示す。21年度については包装資材や生乳以外の原材料費が値下がり傾向にあるため「期待できそうだ」と語った

◆業務筋から家庭用へ

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やまざき・なおあき
昭和23年7月生まれ。47年早稲田大学政経学部卒業。同年農林中央金庫入庫、仙台支店長、組合金融第一本部推進統括部長などを経て平成13年常務、17年専務。19年6月現職。

 ――会社の特徴をお聞かせ下さい。筆頭株主はJA全農ですが、まず創業時のことから。
 「昭和28年創業で、長野県の酪農団体が設立母体です。資金面では名古屋精糖(株)(名古屋)の資本参加を受けて同社の系列会社の名糖産業(株)に原料などを供給するというコラボレーションが『酪農基盤は長野、資本はメイトー』のきっかけです」
 ――協同乳業の商品に「メイトー」(以前は名糖)というブランド名が入っているのはそのためですね。例えば病院給食用の牛乳やヨーグルトなどは御社の製品が多いようです。
 「うちの場合、学校とか従業員食堂など、いわゆる業務筋に出回るだけで一般小売店には流通していない商品があります。その一つが“おなかにおいしいヨーグルト”です。これは“隠れたベストセラー”ともいえるほど好評です。同じ乳酸菌を使ったヨーグルトを3月からはスーパーなど市販用に開発し、大々的に売り出しました」
 ――特徴は?
 「LKM512という特別の乳酸菌を使っています。腸内がきれいになるとして学界から注目され、花粉症、アトピーなどのアレルギーにも効果的だと考えられています。普通の乳酸菌は胃酸によって消滅しますが、LKMは酸に強いため腸にまで届いて腸壁にくっつき、結果として免疫力なり抵抗力を高めるといいます」
 ――LKMというのは何の頭文字ですか。
  「当社の研究所であるラボラトリーのL、協同のK、そしてミルクのMです。また512は研究所にある乳酸菌番号です」
 「もう一つ、要介護の高齢者に、このヨーグルトを食べさせると通じがよくなって、介護者は便を取り出す苦労から解放されるのではないかというテストが当社の東京工場に近い病院で行われています。排便の臭いが軽減されるという効果も期待されており、近いうちに検証の結果報告がいただけます」

◆宣伝なしで売れる味

 ――中期経営計画についてはいかがですか。
 「昨年は創業55周年に当たり、また平成19年度決算(3月期)の売上げが単体で500億円を少し上回ったので計画の最終年度には550億円を目指そうと、ネーミングを『チェンジ・チャレンジ55』としました。世界不況の中で元気を出してGO GOでいこうという意味も込めました」
 「当社の規模は中堅ですが、商品のラインアップは大手と同じく牛乳、清涼飲料、プリン、ヨーグルト、チーズ、バター、アイスクリームなどをそろえる総合乳業メーカーです。これは逆にいえば特徴がないということにもつながります」
 ――そこで中期計画ではデザートに力を入れるわけですね。
 「『デザートのメイトー』を目指し、得意分野で“顔”をつくっていきます。中でもプリンに力を入れています。プリンには、蒸し、焼き、ゲルの3種類がありますが、蒸しプリン分野では当社の商品に定評があり、中でもカスタードプリンは発売から30年近く、次いで発売したなめらかプリンも大変好調で今、10周年記念キャンペーンを展開しています。その延長で2月に焼きプリンを発売しました。1種類は、なめらか系です。もう1つはチーズ入りです」
 ――宣伝はどうですか。
 「そこですよ。テレビコマーシャルを余りやらないのに、なんでメイトーのプリンが売れるのか、と不思議がられます。やはり味の良さと、形が小さくて安価だということでしよう」
 「味へのこだわりでは都内の有名シェフと組んだ『シェフシリーズ』というオリジナルデザートを出したり、ヨーグルトではパティシエとのコラボレーションなどもやっています」

◆価格転嫁をめぐって

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 ――子ども向けのキャンペーンもありますね。
 「日本で初めてスティックつきのアイスクリームバーを発売して、来年で50年になるので様々なキャンペーンを企画しています。昔は、食べてホームランが出ればもう1本が当たり、子供心にもわくわくした想い出があります。今は仕組みが変わりましたが、当時、それを楽しんだ人の孫世代にも今もホームランが出るのを楽しんでいただいています」
 「一方、アイスクリームの栄養価は高いので、高カロリーを必要としている高齢者向けの消費拡大策も面白いと思っています。米国の病院では手術後の患者に最初に与える食べ物となっているそうです」
 ――ところで飼料や原油の高騰による酪農家の経営危機に対処して乳価が3月からキロ10円の引き上げとなりました。
 「昨年4月に続く1年に2度の値上げの経験は初めてです。それに今までの乳価改訂は1円〜2円程度の上げ幅でしたが、今回は10円というとんでもない数字です」
 「さらにメーカーとしては包装資材費、工場の製造コスト、物流費が値上がりしているため13円以上の値上げをお願いしたのですが、認めていただいたのは結局、10円+αのコストアップをすべてカバーできる水準ではありません」
 ――あとは経営手腕の見せどころというわけですか。
 「牛乳はいわば原価積み上げ方式の商品で価格形成の透明度が高く、その上、水より安いと言われるくらいですから利幅がとれず、経営手腕の発揮は難しいのです。いかにローコスト経営を実施するか。牛乳以外のデザートやヨーグルトに付加価値をつけるとか、お茶や果汁などで利益をとるといったことも組合わせてムダ、ムリのない経営システムを構築するかにかかっています」
 ――小売価格はどうですか。
 「牛乳需要のトレンドは対前年比98%とか97%で落ち込んでいますから今度10円以上の値上げをしたらどうなるか心配です。量販店大手は今のところ他社の出方を見ています」

◆株式上場は見極めが肝要

 ――今は原油も飼料も値下がりしていますから値上げのタイミングが悪いですね。
 「酪農生産から加工流通までの各段階でコストアップ〜価格転換にタイムラグがあるわけです。そこのところをどこが負担するかの問題になっています」
 ――次に御社の業績について前期決算までは経常の段階でずっとプラスでしたが、今期は非常に厳しいということですか。
 「コストアップを価格転嫁に結びつける努力をしましたが、消費動向や流通との力関係もあって十分に転嫁できず、20年度収支は厳しい状況です。しかし21年度は生乳以外は値下がり傾向ですから期待できるかなと思っています」
 ――安全安心の取り組みについてはいかがですか。
 「特徴的なことだけを申しますと、幹部社員のOBでチームを組んで工場現場を巡回し、安全管理や品質などをチェックする体制をとっています。これは団塊の世代の技術力を伝承する仕掛けでもあります。また海外から調達しなければならない原材料のトレーサビリティができる管理体制も構築しています」
 ――株式上場の計画はどうなっていますか。
 「いつでも上場できる準備は整えていますが、自社の理念やコンセプト、中長期的な安定経営を考えた時に今の市場環境はメリットよりもデメリットのほうが大きいと見ています」
 「M&A、ファンドのような株主に振り回される恐れがあります」
 ――最後に、雪印乳業と日本ミルクコミュニティの経営統合をどう思われますか。
 「両社とも農協系統の会社で、農林中金がメイン銀行だし、酪農と乳業メーカーの共生などの面でも当社と共通項が多く、歓迎すべき統合だと思います。明治乳業と明治製菓の経営統合など業界の動きからしても自然な流れだろうと見ています」

インタビューを終えて  
 山崎社長は農林中金の専務理事から転進。金融面から眺めるのと現場の経営は違う。牛乳業界は原料から製品までのコスト積み上げには透明性が高く、その中で収益を上げるのはなかなか簡単ではない。長年懸案だった株式上場は、その力はあるが現状ではメリットが少ないという。山崎さんは農林・農協界に交友関係が広い。農林中金盛岡支店の課長時代、大分支店長、仙台支店長など地元JA系統団体の方々との交流が思い出深いとおっしゃる。現在は千葉県柏に住み、近くの藤ヶ谷カントリークラブのメンバー。家族ゴルフ。休日に娘さん夫婦と練習をして、後にクラブハウスのレストランでくつろぐこともある。もう一人の娘さんもゴルフが好き。職場の人たちとお酒を飲んで談笑する。カラオケは映画俳優だった高田浩吉の持ち歌はまず他の人とバッテングしないのでよく歌う。グループサウンズから演歌までほぼ歌える。夫婦2人暮らしでドライブも楽しむ。(坂田)
【著者】インタビュアー坂田正通(本紙論説委員)

(2009.04.10)